EHN 2010年1月21日 論文解説
銀は潜在的な神経細胞毒素
解説:ヒーサー・ハムリン
情報源:
Environmental Health News, Jan. 21, 2010
Silver is a potent nerve cell toxican
Synopsis by Heather Hamlin
http://www.environmentalhealthnews.org/ehs/newscience/silver-is-potent-neurotoxicant/
オリジナル
銀は神経発達を阻害する:PC12細胞での研究
Original:
Silver Impairs Neurodevelopment: Studies in PC12 Cells
Christina M. Powers, Nicola Wrench, Ian T. Ryde, Amanda M. Smith, Frederic J. Seidler, Theodore A. Slotkin doi: 10.1289/ehp.0901149 (available at http://dx.doi.org/) Online 31 August 2009

http://ehp03.niehs.nih.gov/article/fetchArticle.action?articleURI=info%3Adoi%2F10.1289%2Fehp.0901149

訳:安間 武(化学物質問題市民研究会
掲載日:2010年1月22日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/ehn/ehn_100121_nanosilver_nerve_cell_toxicant



 ある研究が、神経細胞毒素として知られる農薬クロルピリフォスの5倍以下の低濃度で銀は神経細胞発達の問題を引き起こす可能性があることを発見した。

 新たな細胞研究の結果は、銀は発達中の神経細胞を殺す潜在能力が現在神経毒素として知られているものよりも毒性が高いという証拠を提供している。神経毒素は神経又は/及び脳細胞を傷つけるか殺すことが出来る物質である。

 この発見は、消費者製品中での銀の広範に増加する使用に疑問を投げかけるものである。銀は効果ある防腐剤であり、疾病を引き起こす微生物の成長を抑えるために製品のあるものに加えられる。この銀は主に非常に微小な銀ナノ粒子として製品中に見出される。

 最近、銀使用が著しく増加しているということは、人間がこの金属に暴露するリスクが高まっていることを意味する。

 成人に病気や死をもたらすためには比較的高容量の銀が必要である。しかし銀は母親から胎児に伝わるので発達中の細胞が銀の影響に特に脆弱であるかもしれず、そのような初期段階の暴露が子どもの神経発達障害をもたらすかもしれない懸念がある。

 研究者らはラットの神経細胞に様々な濃度の銀を暴露させ、DNA合成、たんぱく質合成、細胞成長、及びその他のパラメータに及ぼす影響を観察した。研究者らは、銀に対する細胞の反応を、神経発達障害を引きこすことが知られている農薬クロルピリフォスに暴露させた細胞と比較した。

 クロルピリフォスより5倍以下の低濃度で銀に暴露した細胞は、DNA合成を抑制し、たんぱく質合成を低減し、数が減少し、健康が損なわれていた。これらの影響は、既知の神経毒素の影響よりも著しく大きかった。

 影響はまた、胎児の組織中で歴史的に見出されるものより10倍低い容量でも見ることが出来た。これは銀の使用が増大しており、恐らく胎児の暴露が増大しているので、心配なことである。
 さらに、細胞の銀への反応は、容量及び細胞の発達の段階を通じて微妙な影響から死まで劇的に変化するので、どのような容量なら”安全”であるか確認することは困難である。


オリジナル論文のアブストラクト
バックグラウンド:消費者製品中の銀ナノ粒子の使用増えているので銀への暴露は増大している。

目的と方法:銀の多くの生物学的影響は銀イオン(Ag+)をともなうので、発達神経毒素として作用する銀の能力を評価するためにneuronotypic PC12細胞を使用し、ポジティブコントロール比較として発達神経毒性を喚起することが知られている農薬クロルピリフォスを使用した。

結果:未分化細胞中、10μM濃度で1時間暴露は、50μMのクロルピリフォスよりもDNA合成の抑制能力があった。また、たんぱく質の合成も阻害したが、細胞複製に影響を及ぼすことを示しつつ、DNA合成に及ぼす影響よりも程度は軽かった。より長い暴露は酸化ストレス、生存能力の低下、細胞数の減少をもたらした。細胞分化の開始時、0 μM Ag+への暴露はDNA合成のより大きな抑制とより強い酸化ストレスを起こし、全体の細胞成長を抑制することなく選択的に神経突起形成を損ない、ドーパミン表現型を選んで、優先的にアセチルコリン(訳注:神経伝達物質)表現型への発達を抑制した。暴露を 1 μM Ag+ に下げると未分化細胞の正味の影響は低減した。しかし、分化細胞では濃度が低いと完全に異なるパターンを生成し、両方の神経伝達物質表現型と並行して細胞死と分化の損傷を抑制することによって細胞数を強化した。

結論:我々の結果は銀は発達神経毒性がクロルピリフォスのような既知の神経毒素として知られるものより高いことを示しており、その影響の範囲は直接的な毒性を示さない低容量暴露では著しく異なる様に見える。


オリジナル論文に対するEHP編集者のまとめ
 消費者製品中で使用される銀ナノ粒子の殺菌効果は、粒子表面からの銀イオン(Ag+)の放出の結果である。パワーらは、Ag+ の潜在的な発達神経毒素影響を評価するために、neuronotypic PC12 褐色細胞腫細胞を用いた。彼らは、細胞分化の段階により、また直接的な細胞毒性の閾値の上及び下の Ag+ 濃度(それぞれ10μM 及び 1μM)により異なる影響を報告した。10μMでは、 Ag+ は、未分化細胞で複製を抑制し細胞死を増大し、分化細胞中で選択的に神経突起形成を損ない、アセチルコリン(ドーパミンに対比)表現型への発達を抑制した。未分化細胞中のAg+ の正味影響は 1 μMでは減少したが、分化細胞中では、暴露がアセチルコリン及びドーパミン表現型について細胞死と分化の阻害を抑制するという異なるパターンが観察された。著者らは影響はヒト胎児組織中で報告されている濃度より一桁低い濃度で観察されたことに留意し、この発見は銀ナノ粒子が生体内で発達神経毒素として作用する可能性を支持するものであると結論付けた。



化学物質問題市民研究会
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