EHN 2008年11月17日 論文解説
二酸化チタン ナノ粒子が脳細胞を傷つける オリジナル論文: 二酸化チタンナノ粒子の経鼻点滴による 経時移動と脳中枢神経の潜在的損傷 情報源:Environmental Health News, November 17, 2008 Nanoparticles damage brain cells Synopsis by Abby D. Benninghoff, Ph.D. and Wendy Hessler http://www.environmentalhealthnews.org/ehs/newscience/nanoparticles-damage-brain-cells/ Original: Wang J, Y Liu, F Jiao, F Lao, W Li, Y Gu, Y Li, C Ge, G Zhou, B Li , Y Zhao, Z Chai and C Chen. 2008. Time-dependent translocation and potential impairment of central nervous system by intranasally instilled TiO2 nanoparticles. Toxicology doi: 10.1016/j.tox.2008.09.014. 訳:安間 武(化学物質問題市民研究会) 掲載日:2008年11月18日 このページへのリンク: http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/ehn/ehn_081117_TiO2.html
何をしたのか? ナノサイズ二酸化チタン粒子が脳に達するか、到達までにどのくらいの時間がかかるか、そして脳に損傷を与えるかどうか調べるために、実験マウスにナノサイズ二酸化チタン粒子を吸入させた。 マウスは、水中に浮遊する500マイクログラムの二酸化チタンの調剤を1日おきに30日間吸入した。投与方法は鼻の薬品スプレーと似た方法がとられた。北京のナノ物質研究所の研究者らは二つの異なるサイズの二酸化チタン粒子を使用した。ナノサイズ(80ナノメートル)と少し大きめの粒子(150ナノメートル)である。 脳にどのくらいで到達するか調べるために、2, 10, 20 及び 30日目にマウスの脳が検査された。脳の特定部位の二酸化チタンの濃度は分子量を測定するために用いられる質量計を用いて調べられた。科学者らはまた、透過型電子顕微鏡を用いて暴露動物の脳細胞を観察した。 最後に、二酸化チタンが脳に化学的変化を引き起こすかどうかを調べるために、著者らは炎症の増加と細胞ストレスを示すサイトカイン(訳注1)と呼ばれるある分子のレベルを測定した。 何を見つけたか? 二日後、ただ1回の吸入暴露で、脳内に、特に嗅球(訳注2)に両方のサイズの二酸化チタンのかなりの量が見出された。脳組織内の二酸化チタンの量は暴露を継続するとともに増加し、30日後に最大レベルが観察された(15回の吸入)。 暴露10日後、二酸化チタンはまた、大脳皮質、小脳、海馬など脳の他の部位でも検出された。ナノサイズ二酸化チタンの最大蓄積は30日目に海馬で起きたが、そこでは脳組織1グラム当たり二酸化チタンが約280グラムに達した。 研究者らは、二酸化チタン暴露マウスの脳の嗅球と海馬領域(大脳皮質や小脳ではない)の細胞中に著しい変化を観察した。嗅球では、通常より多くの神経細胞が存在したが、海馬の細胞は損傷を受け退化していた。 最後に、炎症と細胞ストレスの指標となるバイオマーカー分子のレベルが二酸化チタン暴露マウスの脳で高かった。 何を意味するか? この研究の発見は、三つの主要な理由により重要である。第一は、二酸化チタンの吸入は鼻から脳へ移動することができることを明確に示したことである。通常、脳は血液脳関門によって有毒物質から保護されている。しかし、吸入暴露の場合は、ナノ粒子は嗅覚神経を伝わって鼻から脳へ移動することによりこの保護をかいくぐるかもしれない。望ましくない化学物質が繊細な脳細胞に達することを阻止する自然の脳の保護をこの”裏口”通路が迂回してしまう。 第二に、この研究は二酸化チタン粒子の吸入は脳細胞を傷つけることができることを示す証拠を提供していることである。著者らによれば、二酸化チタン暴露によって”これらの結果は海馬中の神経機能がひどく傷つけらる”ことを暗示している。海馬は短期間の記憶と空間ナビゲーションをつかさどる脳の重要な中枢部である。しかし、ナノサイズ二酸化チタン粒子の吸入が脳の機能に影響を与えるかどうかをテストするためにさらなる研究が必要である。 第三に、二酸化チタンの影響は短期間に比較的低用量の暴露で観察されたことである。ナノサイズ二酸化チタン粒子は500ミリグラムの1回の投与(塩粒程度のサイズ)で二日以内に脳に到達した。脳への速い移動は、二酸化チタンナノ粒子の製造中または膨大な数の産業・商業用製品への適用中に二酸化チタン超微粒子に暴露するかもしれない労働者の安全に対する深刻な懸念を提起する。 二酸化チタンのナノ物質は化粧品や身体手入れ用品のあるものの中に含まれているが、(粉状の化粧パウダーのような)製品の使用による人の吸入暴露がどのような結果をもたらすかは知られていない。 訳注1:サイトカイン 『ウィキペディア(Wikipedia)』 訳注2:嗅球 『ウィキペディア(Wikipedia)』 訳注3:関連情報 米化学会 ES&T 2006年6月7日 TiO2 ナノ粒子 脳細胞にダメージを与える可能性 米EPA研究者らの報告 |