EHP 2004年7月号 Science Selections
フラーレンと魚の脳
ナノ物質が酸化ストレスを引き起こす


情報源:Environmental Health Perspectives Volume 112, Number 10, July 2004
Fullerenes and Fish Brains / Nanomaterials Cause Oxidative Stress
http://ehp.niehs.nih.gov/docs/2004/112-10/ss.html#full

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2005年11月29日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/ehp/ehp_04_July_Fish_Brains.html


 日焼け止めや化粧品のような消費者製品、医薬品、そして産業用途としてのナノ物質の製造と使用に関心が高まる中で、小さな粒子が必然的に土中、水中、そして大気中に達し、最終的には生体組織に取り込まれるので、人と環境の健康についての懸念も高まっている。さらに、人の直接的な曝露は、職場におけるナノ物質の製造過程で起きるであろう。今日までにナノ物質の潜在的な有毒性に関する調査はほとんど行われていないが、研究は活発になってきている。ノースカロライナ州ビューフートのデューク大学海洋研究所及びテキサス州ダラスのサザーン・メソディスト大学の生物学者エバ・オバドルスターは、初めて、最もポピュラーなナノ物質のひとつでありフラーレンという名前で知られるカーボン粒子が、水生生物に有害な生理学的影響を与えることを示した [EHP 112:1058-1062]。オバドルスターは、通常の水中環境に見出されるであろう濃度のフラーレンを加えた水に48時間、曝露したオオクチバスの幼魚の脳とエラに酸化ストレスが生じることの顕著な証拠を示している。

バッキーボールとバス。研究者らは、環境中に出たフラーレン(又はバッキーボール 建築家 R. Buckminster Fuller の名前に因んだ)と呼ばれるナノ粒子が水生生物に有害な生理学的影響を及ぼすということを示している。
image credits: Corel; inset: Department of Chemistry, Stony Brook University
 ナノ物質は、1次元のサイズが1〜100ナノメートル(訳注:ナノ=10億分の1)の人工物質として定義される。過去数年の間に、日焼け止め、ボーリングのボールのコーティング、燃料電池など多様で増大する商業的用途のために、トンのオーダーの大規模なフラーレンの工業生産が始まっている。超微粒子物質のような環境中のナノスケール微粒子についてのこれまでの研究が、これらの粒子のあるものは細胞膜とミトコンドリアに移動する傾向があり、選択的な経路がそれらを哺乳類の脳に移動させることを示している。オバドルスターは、フラーレンも同様な経路を通り、それらは酸素と反応性があり脂質に誘引されやすい−酸化反応の二つの要素である−ので、それらは魚の脳で酸化ダメージを引き起こすという仮説を立てた。

 フラーレンは、一般的には潜在的な有毒性を低減するために製造プロセスでコーティングされるが、その分子が環境に曝された場合、どのくらい長くそのコーティングが持続するのか分からない。しかし、細胞培養実験によれば、コーティングは大気又は紫外線に曝露するとすぐに分解することが示唆されている。したがって、オバドルスターは、彼女のテストではコーティングをしていないフラーレンを0.5ppm と1.0ppm の濃度で使用した。この濃度は現在、水環境中で見出される多環芳香族炭化水素のような他の脂肪親和性の化学物質の濃度と同等である。

 オバドルスターは、フリーラジカル酸化ダメージの兆候である過酸化脂質が、明らかな用量反応特性はないが、いくつかの魚の脳中で著しく高められていることを見出した。脳の脂質過多特性は、メカニズムはまだ未確認であるが、選択的脂質経路を作る確かな疑いをもたらす。過酸化脂質は魚のエラと肝臓では実際に減少した。しかし、エラの中に抗酸化成分グルタチオンの枯渇の証拠が存在したが、このことは、これらの組織が酸化ストレスを受けていることを示している。

 興味深いことには、オバドルスターはまた、フラーレンのタンクの水はコントロール・タンクの水より澄んでいることを観察した。彼女は、これはフラーレンが通常、水中にいる有益なバクテリアの生成を妨げたためではないかと推測している。この現象は研究報告書には記述されていないが、彼女はこの微生物にダメージを与える潜在的なリスクは、今後の研究の重要な課題となるであろうと示唆した。

 オバドルスターは、彼女が魚に見出した影響は、人間にも同様なことが起こると予想できると書いている。近い将来、フラーレンやその他のナノ物質は広く使われると思われるので、彼女は研究の取り組みが人の健康と環境へのダメージの可能性を防ぐために強化されるべきであると強調した。

アーニー・フード(Ernie Hood)


訳注参照ETCグループ(カナダ)報告 2004年4月1日/ナノが引き起こした水汚染



化学物質問題市民研究会
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