米化学会 ES&T 2006年6月7日
TiO2 ナノ粒子 脳細胞にダメージを与える可能性
米EPA研究者らの報告

消費者製品で広く使用されている二酸化チタンナノ粒子

情報源:Environmental Science & Technology: Science News, June 7, 2006
Study links TiO2 nanoparticles with potential for brain-cell damage
Preliminary results suggest that titanium dioxide nanoparticles,
which are widely used in consumer products, could damage brain cells.
http://pubs.acs.org/subscribe/journals/esthag-w/2006/jun/tech/lt_nanoparticles.html

訳注:オリジナルの論文:
Titanium Dioxide (P25) Produces Reactive Oxygen Species in Immortalized Brain Microglia (BV2):
Implications for Nanoparticle Neurotoxicity


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2006年6月9日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/est/060607_est_nano_TiO2.html


 ES&Tの Research ASAP website (DOI: 10.1021/es060589n)に掲載された新たな研究で、研究者らは二酸化チタン(TiO2ナノ粒子が有害な外部刺激から脳を保護する中枢神経系細胞ミクログリア(microglia)の防御反応を急速に引き起こし、長期的に持続させることができるということをマウスの実験で確認し報告している。米EPA全国健康環境影響調査研究所の研究者であり、本報告のコレスポンディング・オーサーであるベリナ・ベロネシによれば、この研究は、日焼け止めや化粧品のような消費者製品中で広く使用されている TiO2 ナノ粒子の潜在的な神経毒性を初めて検証したものである。

 著者らは、他の研究者らが後に比較しやすいように採用することを望んで、ナノ毒性テストのためのある手順に従った。”粒子を注意深く特徴付ける。そして試験管モデルで非常に単純なことから始める。その後にもっと複雑なシステムに、そして生体での実験にへと階段を上がっていく”−とベロネシは述べている。

 二酸化チタン TiO2 のように相対的にナノ毒性をもつ物質はサイズが小さくなると毒性を増すという証拠が積み重なっている。ヒトにおいては今なお、その現象を研究しなくてはならないが、毒物学者らはどのようにナノ物質が、酸化ストレスの誘引により細胞を損傷することができ、活性酸素種(ROS)として知られている生物学的に活性な分子の生成を刺激するかについて探求を始めている。サイズ、表面積、そして表面電荷を含むある物理的及び化学的特性は、どのようにナノ物質が生物学的に酸化ストレスを引き起こすかを決定することに、関係する。

 しかし、これらの同じ特性は溶液中では劇的に変化する−とカーネギー・メロン大学環境技術学教授であり本論文の共著者でもあるグレッグ・ローリーは説明している。ナノ粒子は溶液中では密集してより大きな凝塊となり、例えば効果的なサイズや表面積を変えるかもしれない。”これらの金属ナノ粒子を水に入れると、それらは理想的には振舞わない。だからその反応を理解しなくてはならない”−とローリーは述べている。

 商業的に入手可能な TiO2 ナノ粒子−熱安定剤として及び触媒として使用されている Degussa の Aeroxide P25−の溶液の特性を調べた後に、ベロネシと彼女の同僚らは培養ミクログリアを 2.5〜120ppm の濃度でその粒子に暴露させた。ミクログリアは、食作用(Phagocytosis)として知られるプロセスでそれらを吸収し、邪魔な刺激を除去する”酸化爆発(oxidative burst)”で化学物質を放出することによって刺激に反応する。2時間にわたり活性酸素種(ROS)生成の化学的特徴を監視することにより、研究者らは TiO2 ナノ粒子がミクログリアによる急速で持続的な 活性酸素種(ROS)の放出を刺激することを発見した。

 ミクログリアは防御機能として活性酸素種(ROS)を生成するが、持続的な放出は実際には脳に有害であリ得る。”ミクログリア自身は酸化ストレスの危険に対してほとんど無敵であるが、活性酸素種(ROS)を脳環境に放出するときに、周囲の細胞を損傷することがある”−とベロネシは述べている。同様なメカニズムが、パーキンソン病やアルツハイマー病のようなある種の神経変性疾における神経細胞損傷の原因として示唆されている。

 著者らの次のステップは、TiO2 ナノ粒子に刺激されたROSによって神経細胞が損傷を受けるかどうか決定することである。ベロネシによれば、予備的研究であると強調したが、TiO2 に暴露した神経細胞が最終的には細胞死にいたる分子的プロセスを引き起こすことをパイロット研究が示した。”それは非常に長いプロセスであり、この研究はまだABCの入門である。しかしそれは確固としたデータであり、自信を持って達成することができるであろう。”

 ”私は、彼らは将来の研究のための舞台づくりをしたと思う。この研究の最も重要な側面は広範囲にわたる粒子の特性化である”とロチェスター大学環境医学の助教授リサ・オパナシュクは述べた。”ROS分析は分子レベルにおける潜在的な反応性を見るためによいステップである”と彼女は指摘した。しかし彼女は、研究者らはまた、ナノ粒子が抗酸化防御システムを活性化する又は炎症を引き起こす兆候も探すべきであると加えた。

 ”私は、全体として非常によいストーリーだと思う。そのことは我々が注意を払う必要があることを強調している”−と、ナノ粒子の体内での移動について広範囲に研究している呼吸生物学GFS研究所(ドイツ)のウォルフギャング・クレイリングは述べ、あるナノ粒子は血液脳関門を越えて脳中に残留することが発見されていることに言及している。

 クレイリングは、TiO2 ナノ粒子が脳に到達するかどうか明らかにしなかったが、彼はすでに、それらが肺から他の器官に広がることを見ている。彼は、ベロネシの研究で用いられた濃度は実際の暴露より高いかもしれないと注意しているが、確かのことは研究者らには分らない。将来の体内移動研究が重要であるとして、クレイリングは”もし脳に粒子がなければ、ミクログリアとの相互作用を探す必要はないが、もし一片でもあれば、相互作用を探さなくてはならない。”と述べている。

リッツ・スラール(LIZZ THRALL



化学物質問題市民研究会
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