水銀条約制定に向けた第1回政府間交渉会議(INC1)
”水俣条約”に関する当研究会の発言と その背景説明 (英語オリジナルPDF版 日本語訳PDF版) 安間 武 (化学物質問題市民研究会) http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/ 掲載日:2010年6月15日 更新日:2010年10月10日 このページへのリンク: http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/mercury/INC1_NGO/CACP_statement_Minamata_INC1.html
会議の最終日に日本政府は、2013年に制定される条約名称を”水俣条約”としたいと本会議で正式に提案しました。これに対して当研究会の安間武が、参加NGOの連合体であるIPENとZMWGの支援を得て、日本政府の提案の後に、この条約を”水俣条約”とすることに関しNGOとしての意見を本会議で発言したので、その日本語訳を紹介します。オリジナルの英語版はこちらをご覧ください。またこの発言の背景も紹介します。
ストックホルム2010年6月11日
水銀に関する政府間交渉委員会第1回会合(INC-1) "水俣条約"に対する化学物質問題市民研究会の発言 (日本語訳) 議長、大変ありがとうございます。 私は日本の化学物質問題市民研究会(CACP)から参加しております。 私の発言は、この歴史的な水銀条約を"水俣条約"と呼ぶとする日本政府の提案に関する内容です。 水俣条約と命名するということは、人の水銀中毒というこの悲劇を、人の健康と環境を保護するための私たちの世界的な取り組みに直接的に結びつけることです。もしこの条約にこのような名前を付けるなら、私たちは水俣に敬意を払い、そこからの経験を学ばなくてはなりません。 チッソはある産業プロセスで水銀を使用しました。それが引き起こした大惨事は、水銀条約が水銀を使用した製品とプロセスを持続可能で毒性のないものに代替しなくてはならないということを私たちに教えています。 チッソによる水俣湾への水銀の排出と汚染は、汚染者支払い原則(Polluter Pays Principle)と汚染場所浄化の企業責任の必要性について私たちに教えています。 水俣では3万人以上の人々が恐ろしい病気の被害を受け、多くの人々が認定を求めて戦わなくてはなりませんでした。この悲劇にちなんだ名前が付けられる条約には、被害者と地域に対する責任と補償のための措置を含めなくてはなりません。 水俣の人々は彼らの魚介類や環境中の水銀について何も情報を与えられていませんでした。水俣の名前が付けられる条約は、このような状況を正さなくてはなりません。その条約は市民の知る権利を尊重しなくてはなりません。情報は自由にアクセスでき、理解しやすいものでなくてはなりません。 水俣の人々が食べて水銀中毒になった汚染魚介類はまた、蛋白源として魚に依存する世界中の全ての人々にも中毒をもたらします。水俣の名前が付けられる条約は、条約制定の効果を監視するために魚類と人体内の水銀に関する世界規模の監視システムを確立しなくてはなりません。 議長、結論を申し上げます。 水俣は単に地名だけのこと、あるいは病名だけのことではありません。それは、悲劇について、苦痛について、企業の無責任について、被害について、そして差別について語るものです。 水俣は地域の人々のことです。それは被害者が生き残るための戦いについて、そして生きることを決意することについて物語るものです。これが真の水俣です。条約制定のための会議において、私たちはこの真の水俣のことを大事にし、敬意を払い、それに恥じないようにしなくてはなりません。 私たちは、人間の活動に由来する全ての水銀を廃絶する強い国際条約のために真の行動を起こすことにより、私たちの敬意を示すことができるのです。 どうもありがとうございました。 背景説明 ■日本政府の発言とNGOの反応 2010年5月1日に、水俣市で開かれた水俣病犠牲者慰霊式で鳩山由紀夫首相(当時)が、「国際的な水銀汚染防止条約づくりに向けて2013年に開催される外交会議を国内に招致し、「水俣条約」と名付けて水銀汚染防止への取り組みを世界に誓いたい」と述べました。 鳩山首相(当時)のこの発言が、Japan Times や Japan Today などいくつかの英字ニュースで海外に紹介されると、水俣問題に関心を持ついくつかのNGOsから、日本は現在行なっている水銀輸出をやめ、水俣の全ての被害者を救済し、その責務を全うするまで、水俣条約を提案する資格はないのではないかという意見がでました。 また、鳩山首相(当時)のこの発言は水俣問題は解決したのだと世界にアピールするために、政治的に利用するものであるとする冷ややかな意見もありました。 一方、日本政府が水銀条約に向けて積極的に取り組むと世界にコミットしたのだから、日本は水銀輸出をやめ、法的拘束力のある強い条約作りに積極的に取り組まざるを得ないとする意見もありました。 しかし、日本政府はストックホルムにおける今回の会議において「各国政府が受け入れられるもの・・・」「適切な代替があるならば・・・」等を強調し、余剰水銀の長期保管については「サウンド・ストレージが必要で、代替がなく、時間がかかる」という内容のことを述べました。また初日の6月7日には、水銀は自然界にもあるのだから水銀汚染を”エリミネーション(廃絶”)することはできず、このような言葉は使うべきではないという内容の発言をしました。 このような日本政府の後ろ向きに響く発言に対して、NGOの中には、強い条約にしたくない日本政府の消極的な本音が出たとの評価がありました。 国際NGOは、「水俣条約」という命名に、賛成する/反対するという意見を国際レベルで討議したり、意見を表明する立場にはありません。これについては、水俣に関わりを持つあるいは関心を持つ日本国内の関係者が「水俣条約」としたいとする日本政府の提案をどのように受け止めるのかきちんと議論し、必要なら意見を表明すべき問題である考えます。国際NGOの目標は「強い水銀条約」にすることです。(2010年10月10日追記) ■日本政府は水俣から何を教訓として得たのか? "水俣病被害を世界で繰り返さないため"とする日本政府は、水俣から何を学び、水銀条約に何を織り込むべきと考えているのでしょうか? 日本政府はこれらの点を具体的に明らかにすべきです。 当研究会の6月11日の発言は、水俣における半世紀にわたる日本政府とチッソの無責任や、EUやアメリカが輸出禁止をすでに決定している中で、アジアで唯一水銀を輸出している日本政府をターゲットとして非難することを目的としたものではありません。 ”水俣の悲劇”から得られる教訓を明らかにし、それを水銀条約に織り込むことにより、そして人間の活動に由来する全ての水銀を”エリミネーション(廃絶)”するという強い意志をもった国際条約を作ることにより、”水俣の悲劇”を大事にし、敬意を払い、それに恥じないようにすることができるという内容です。 ■当研究会が作成した水俣問題と世界の水銀汚染削減の取り組みに関する資料
|