2013年1月19日 IPEN プレスリリース
水銀条約は世界の水銀排出を低減しそうにない
提案された条約名は水俣の悲劇の被害者の尊厳を損なう

pdf版

情報源:IPEN Press Release, January 19, 2013
Mercury Treaty Not Likely to Reduce Global Release
Proposed name dishonours victims of the Minamata tragedy
http://ipen.org/hgfree/wp-content/uploads/2012/12/
PR-IPEN-Mercury-Treaty-19-Jan-2013.docx.pdf


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
Translated by Takeshi Yasuma
Citizens Against Chemicals Pollution (CACP)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2013年1月22日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/mercury/INC5/IPEN/
130119_IPEN_PR_not_liikely_to_reduce_global_release.html


2013年1月19日ジュネーブ IPEN記者会見

【ジュネーブ】本日水銀条約交渉が閉幕したが、IPENとその他の非政府組織は、水銀条約は水銀排出を低減しそうには見えず、むしろ水銀汚染を増大させる結果となるかもしれないと述べた。IPENはまた、条約名を”水俣条約”とすることは、世界最悪の産業水銀汚染事件のひとつによって現在でもまだ被害を受け続けている人々の尊厳を損なうものであると述べた。IPENは世界116カ国の700以上の公益組織を代表する非政府組織の連合体である。

 ”この条約の結果として、世界の水銀汚染は増大し続け、減少することはないであろうと我々は予想する。水銀条約はないよりはある方がよいと言う人もいるが、もし条約が水銀汚染を減らさないなら、条約はその仕事を果たしていない”と、IPENの共同議長マニー・カロンゾは述べた。

 ”この条約は、”水俣条約”ではなく、”水銀条約”と呼ばれるべきである”と、日本の化学物質問題市民研究会(CACP)の安間武は述べた。ヘドロと魚に水銀汚染をもたらした水汚染が水俣の悲劇を引き起こしたが、条約は水銀の水への放出を削減するための義務も、汚染サイトを浄化する義務も含んでいない。このような条約を”水俣条約”と呼ぶことは、被害者の尊厳を損なうものである”。

 IPENが指摘する主要な懸念には、下記が含まれる。

人力小規模金採鉱(ASGM)−管理できない人為的な最大の水銀使用
 締約国がASGMは些細なものではないと決定した場合にのみ、条約は措置を求めるが、些細であると決定するためのガイドラインを提案していない。UNEP は、 ASGM を大気への最大の水銀排出源であると認めた。しかし、交渉の過程で、ASGMを条約の下で”許容される用途”であると決定した。このことは明確な廃止期限なしに水銀の輸入、輸出、及び使用を許すことになる。条約はまた、汚染されたASGMサイトを特定し、又は浄化することを義務付けていない。

 ”廃止期日がない、水銀輸入量に制限がない、そしてASGMのために荒廃した場所を浄化する義務がない”とインドネシアのバリフォクス(Balifokus)のユーユン・イスマワティは述べた。”これらの弱い措置ではASGM産業で働く人々の中から必ず被害者が出る”。

石炭火力発電所及びその他の排出源
 条約は、既存の石炭火力発電所からの排出を削減することを”義務”付けたが、これらの削減は”実行可能な場合”にだけ求められる。条項は、電力分野の急激な成長に起因する新たな水銀排出を相殺するのに十分な規模で個々の発電所からの水銀排出を低減するようには見えない。

塩素アルカリ施設とその他の水への放出源
 産業側が水銀の陸及び水への放出を削減することを義務付けていない。その代わり、条約は各国が”実行可能な場合”、措置をとることを試みるよう言及しているだけである。塩素アルカリ施設からの水銀の水への放出、又は大規模な採鉱場からの陸への放出を削減することについて特定の言及はない。

汚染サイト
 現在の条約テキストは、汚染サイトの特定や浄化を求めていない。さらに、現在の条約テキストは、廃棄物を有害であると定義する健康保護基準値に関するガイダンスを提供しておらず、水銀を含有する廃棄物の生成を最小にする、または防止することを求めていない。汚染サイトに対する措置が義務的ではないので、汚染サイトを特定し、又は浄化するために条約の資金メカニズムを利用することができそうにない。

”水俣”条約ではなく、”水銀”条約
 国際水銀条約は、1)将来の水俣病の発生を防止し、2)将来の水俣病のような悲劇に対して適切な対応を義務付け、3)魚と海産物中のメチル水銀の世界のレベルを低減させるのに十分であると信じるのがふつうであろう。しかしこの条約は、これらの目標のどれをも達成しないであろう。これらの理由により、多くの代表者等は、この条約は”水銀条約”と命名されるべきであると示唆している。

 ”もしこの新たな水銀条約が実施されれば、水銀汚染レベルの増加速度を遅らせることはできるかも知れないが、水銀汚染を実際に減らすためには、大きな政治的な約束が必要であろう”とIPENの上席科学技術顧問ジョー・ディガンギ博士は述べた。”水銀は人の健康に対する大きく深刻な脅威なので、強固で野心的な世界の対応が必要である。しかしこの条約では、そのような対応はできない”。

 水銀中毒の危険性は、数世紀前から知られている。水銀の高レベル曝露は脳と腎臓に生涯のダメージを与える。水銀はまた、母親から発達中の胎児に 伝えられ、脳の障害、知能低下、精神遅滞をもたらす。

更なる情報:
Bjorn Beeler IPEN
+46 31 799 94 74
+1 510-710-0655
Email: bjornbeeler@ipen.org


IPEN について:
 IPEN は、世界中の人々の健康と環境を守る安全な化学物質政策と実践を確立し実施するために活動する指導的な世界組織である。IPENの世界的なネットワークは、国際的な政策の場及び発展途上国における現場で活動する116 か国、700 以上の公益団体から構成される。
www.ipen.org twitter: @ToxicsFree


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