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松吉
■植木屋雑記帳

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現場日記

昼休みに公園で弁当を食べた。隣のベンチには髭のハンチングがぐっすり伸びていた。
 砂場には陽光を浴びた若い母子の群れがあった。なんだかペットの品評会だった。
 藤棚の下でアブレの労務者達が酒盛りしていた。にやけているのは取りあえず今日の酒にありついたからか。あまり騒ぎ立てず、控えめにつつましく飲んでいた。
 木々の間からスズメがこぼれて来た。快活にちょんちょんとこちらへ来た。素足がきれいだった。スズメは久しぶりに見た気がする。こんなに可愛らしかったっけ。
 文庫本を持って来たけれど、すぐ眠くなった。隣のハンチングのように長くなった。今時こんなに長くなれるベンチは珍しい。大抵はホームレス避けに間仕切りしてある。空は青葉。よい日影を作ってくれた。タオルを枕に折り畳んだ。もう後背筋が出来たのでどんな堅さも苦にならない。

 (スズメスズメお宿はどこだ…)

 言問橋近くの現場で仕事した時、隅田川の河岸にたくさんの「テント村」が出来ているのを見た。工事用のブルーシートを使って、様々の「お宿」を作っていた。入り口に簾をかけたり、ダンボールで犬小屋を作ったり、「物置」に様々な電化製品を保管したり…。
 ギターを爪弾く長髪の男がいた。コンロで煮炊きする女がいた。川面に釣竿をたれる老人は李白に似ていた。
 いつかの新聞に、都営住宅を家賃滞納で追い出された老夫婦が、空き地に止めた車の中で数年過ごし、最後に衰弱死したと出ていた。残金数十円。
 そんな「死に方」がこころに残る。なぜだろう。子どもの頃から流浪のものに憧れた。自分は「社会」とうまく折り合えない。そう言ってしまうと何かに片付けられた気になる。けれど「アカルサハ、ホロビノスガタデアラフカ」と言った実朝や太宰の「位置」に不思議に元気づけられて来た。

 一時五分前、今日も計ったように目が覚めた。取りあえず「現場」に急ぐ。「考え」にとっつかまるとろくなことはない。毎日毎日がとりあえずは不可思議。それを採集する。