ツバキとサザンカ
サザンカの花びらがちるちる。花はしっとりと濡れている。暗い地面に色が散る。北風。ヤッケのフードを被り、サザンカの枝を振る。つっかかりは植木屋の恥。頭から花びらと花粉を浴びる。これがいまのおれの仕事。
ツバキとサザンカは花の落ち方で区別がつく。ツバキは首からぽとりと落ちる。サザンカは花弁がはらはらと散る。
首から落ちるので昔の侍は庭に椿を植えるのを嫌ったそうだ。いまはチャドクガが付くので植木屋が嫌う。洋名カメリア。和洋ともたくさんの品種がある。
植木屋をはじめて間もない頃、ツバキの花むしりをやらされた。やわらかい色を惜しげもなくむしり取る。たちまち周りが花の海になる。地下足袋履いた30男が塀に登って花に触れ、花を握り、花を散らして恍惚となっていた。
(註)チャドクガ。
仲間内ではツバキ虫と呼んでいる。毒毛があり、触るとジンマシンのようになる。ひどい者は一週間ほど入院する。葉裏にびっしりと並んで喰害し、葉脈だけにして移動する。一度、一個中隊が一糸乱れず幹を移動しているのに出会った。冬も脱皮した抜殻に残った毒毛でやられる。ツバキ、サザンカ、チャ、シャラにつく。知らぬものはない植木屋の天敵だが、慣れれば一晩でかゆみは失せる。
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