るーとらの秘密基地
blog「日のすきま」        
松吉
■植木屋雑記帳

□現場日記1
□現場日記2
□現場日記3【月桂樹】
□現場日記4【高さ】
□現場日記5【ジェロニモ】
□現場日記6【芝張】
□現場日記7【死体】
□現場日記8【花】
□現場日記9【珊瑚樹】
□現場日記10【自転車】
□軽トラ
□現場日記11【蟷螂】
□現場日記12【師走】
□現場日記13【蝦蟇】
□かじりつき
□ツバキとサザンカ
□現場日記14【伐採】
□職人のしきたり
□現場日記15【植栽屋】
□現場日記16【子どものこと】
□現場日記17【春一番】
□現場日記18【昼寝】

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ツバキとサザンカ

 サザンカの花びらがちるちる。花はしっとりと濡れている。暗い地面に色が散る。北風。ヤッケのフードを被り、サザンカの枝を振る。つっかかりは植木屋の恥。頭から花びらと花粉を浴びる。これがいまのおれの仕事。
 ツバキとサザンカは花の落ち方で区別がつく。ツバキは首からぽとりと落ちる。サザンカは花弁がはらはらと散る。
 首から落ちるので昔の侍は庭に椿を植えるのを嫌ったそうだ。いまはチャドクガが付くので植木屋が嫌う。洋名カメリア。和洋ともたくさんの品種がある。
 植木屋をはじめて間もない頃、ツバキの花むしりをやらされた。やわらかい色を惜しげもなくむしり取る。たちまち周りが花の海になる。地下足袋履いた30男が塀に登って花に触れ、花を握り、花を散らして恍惚となっていた。

 (註)チャドクガ。
 仲間内ではツバキ虫と呼んでいる。毒毛があり、触るとジンマシンのようになる。ひどい者は一週間ほど入院する。葉裏にびっしりと並んで喰害し、葉脈だけにして移動する。一度、一個中隊が一糸乱れず幹を移動しているのに出会った。冬も脱皮した抜殻に残った毒毛でやられる。ツバキ、サザンカ、チャ、シャラにつく。知らぬものはない植木屋の天敵だが、慣れれば一晩でかゆみは失せる。