現場日記8【花】
まず梅の花がほころぶ。まだ冷たい低い空の下。
次にコブシやモクレンが白い鳥を留まらせる。レンギョウ、ユキヤナギ、ヤマブキ、シモツケ、スオウ、……庭が急に色に染まり溢れる。公園には桜が散る。ツツジが咲き、サツキが咲き、ハナミズキが吹き、垣根の常緑樹が目立たない花を匂わす。
妻は花を食べる。ツバキでもビョウヤナギでもアジサイでも口に入れる。散歩中に食べていいかと聞く。アセビやキョウチクトウはよせと教える。ふりむくとすでにオオムラサキの花弁を口の端に覗かせている。
花はただ薄い膜の味がするだけだ。不可思議のものが不可思議のものとしてひかりを受けている。
200005/11(木)
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