るーとらの秘密基地
blog「日のすきま」
松吉
■詩集『ひまわり』

●草花はひかりに濡れ
●七月
●あんなにお茶を飲んだのに
●海の色に染まる
●真昼のシネマ
●教えてくれないか
●ここにいるよ
●日曜日
●五月連抄(一九八三年)
●だれもいない美術館
●言葉
●桜の森をてくてくゆくよ
●不眠の夜
●この水はきれいです
●雨の日には
●ひかりよりも先に
●スケッチ
●水切り
●白いクジラは病気です
●空がいいんだ
●二十世紀の終りの四月
●危ない魚
●空に言った
●ひまわり
●ねむれぬ夜は
●朝を上手に
●電話をください
●いい声きかせてね
●さくら
●なく狼
●いますぐどこかへつれてって
●抱いてあげましょうか

■日のすきま
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■MK対話

海の色に染まる

きみは白い乳ぶさから
海の色に染まってゆくんだね
冷たい風に
背中が小さくふるえている
ほんとうの時間に消えてゆくみたいだ
波は揺れるだけじゃなく
きみのセクスをぬらしている
砂はこぼれるだけじゃなく
銀河の位置を感じている
風は海を引き
蟹は虚空にハサミをあげ・・・
(まるでそれが幻みたいに
 ぼくはここで見続けなければならないのか)

だれも知らないひかりの潜り方で
真昼の街を行きながら
きみと分かれた理由を考える
デパートのショーウインドーに
とてもやさしいきみがいたんだ
潮に引かれるみたいにすっと
自分がなくなるような気がした
(そんなふうに海は空をつくり
 空はまた海を降らしたのか)

空がまだ海の見る夢だったころ
そのまま宇宙と接していた
五月の若葉がざわめくみたいに
無数の星雲がふりかかってみえた

それから藻にゆれ ひかりを吸い
それから泳いで遠くまで行き
陸に上がった
ぼくは肺をふくらませ
きみの行方をさがしている
きみは初めてみたいに
世界を感受し
消えてしまった

痛いような哀しいような
ひかりがぼくにふりかかる
二十八歳の懶惰に
億年のひかりがにじみ込む

ぼくはきみに触れたいだけなのに
こころも身体も空をきり
夢をみている気持になる
きっと屈折率がおかしいんだ
まだ何も理解していないのに
このまま植物になるのかもしれない

ひかりばかりが強くて
視ることができないよ

きみは白い乳ぶさから
海の色に染まってゆくんだね
冷たい風に
背中が小さくふるえている
ほんとうの時間に消えてゆくみたいだよ