海の色に染まる
きみは白い乳ぶさから
海の色に染まってゆくんだね
冷たい風に
背中が小さくふるえている
ほんとうの時間に消えてゆくみたいだ
波は揺れるだけじゃなく
きみのセクスをぬらしている
砂はこぼれるだけじゃなく
銀河の位置を感じている
風は海を引き
蟹は虚空にハサミをあげ・・・
(まるでそれが幻みたいに
ぼくはここで見続けなければならないのか)
だれも知らないひかりの潜り方で
真昼の街を行きながら
きみと分かれた理由を考える
デパートのショーウインドーに
とてもやさしいきみがいたんだ
潮に引かれるみたいにすっと
自分がなくなるような気がした
(そんなふうに海は空をつくり
空はまた海を降らしたのか)
空がまだ海の見る夢だったころ
そのまま宇宙と接していた
五月の若葉がざわめくみたいに
無数の星雲がふりかかってみえた
それから藻にゆれ ひかりを吸い
それから泳いで遠くまで行き
陸に上がった
ぼくは肺をふくらませ
きみの行方をさがしている
きみは初めてみたいに
世界を感受し
消えてしまった
痛いような哀しいような
ひかりがぼくにふりかかる
二十八歳の懶惰に
億年のひかりがにじみ込む
ぼくはきみに触れたいだけなのに
こころも身体も空をきり
夢をみている気持になる
きっと屈折率がおかしいんだ
まだ何も理解していないのに
このまま植物になるのかもしれない
ひかりばかりが強くて
視ることができないよ
きみは白い乳ぶさから
海の色に染まってゆくんだね
冷たい風に
背中が小さくふるえている
ほんとうの時間に消えてゆくみたいだよ
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