被団協新聞

非核水夫の海上通信【2009年】

このコラムは、川崎哲氏(ピースボート地球大学)によるもので、
「被団協」新聞に2004年6月から掲載されています☆☆

2009年12月 被団協新聞12月号

事業仕分け 軍縮会議も見直しに

 事業仕分けで「無駄」な予算が切られていく様子が、連日報道された。文科省が今年度58億円を要求していたGXロケットの開発は「廃止」との判定が下った。GXは官民開発による高性能中型ロケットとのふれこみだが、諜報・偵察など軍事利用の性格が強い。石川島播磨を自民党防衛族議員が応援する形で開発が進められてきたが、実現の見通しが立たず、与党内からも「無駄遣い」との批判が出ていたものだ。
 事業仕分けの対象には、米軍に対する「思いやり予算」の一部である基地労働者の賃金の見直しが挙げられた。だが過去30年に2兆円が費やされてきた「思いやり予算」の抜本的見直しにはほど遠い。
 一方、国連軍縮会議の開催も見直し対象になった。無駄遣いは許されないが、軍縮など地味だが重要な活動が切られることには警戒したい。予算策定の一部が公開されるようになったのだから、軍縮の視点から市民が口を出していこう。
川崎哲(ピースボート)

2009年11月 被団協新聞11月号

核の「先制不使用」議論へ

 岡田外相が、米国に対して核の「先制不使用」に関するメッセージを発し続けている。
 もともと岡田氏は先制不使用の提唱者として知られる。外相就任時には個人的見解として先制不使用に触れつつ、日本政府が先制不使用に反対してきたことを意識し「外務省の皆さんとよく議論したい」と慎重に語っていた。
 1カ月後、外相は京都で「先制不使用を日米間で議論したい」と講演。そして10月20日、ゲーツ米国防長官との会談で「日本政府として先制不使用を検討中」と述べた。これに対しゲーツ長官は「抑止力の柔軟性は必要」と応じた。3日後、米制服組トップ、マレン統合参謀本部議長は「そのような政策は、拡大抑止の柔軟性を著しく低下させる」として「拒否」を表明した。
 「核廃絶を言いつつ先制不使用は言わないのは矛盾」という岡田氏の論理は明快だ。核の役割を減らす第一歩の議論がようやく日米で始まった。市民の後押しが必要だ。
 川崎哲(ピースボート)

2009年10月 被団協新聞10月号

市民の声聞き政府に勧告

 オーストラリア議会の両院合同条約委員会は、9月に発表した報告書の中で「核兵器禁止条約の採択への支持を明確にすること」を政府に求めた。
 この議会委員会は、今年初めから豪政府の核政策を審査してきた。日豪委員会(ICNND)と並ぶ、ラッド首相のイニシアティブだ。公聴会では多くのNGOが意見を提出し、議員らは米国や欧州にも出張し意見聴取した。
 それらを踏まえた報告書は、豪政府に対し「明確な法的枠組みと執行可能な検証制度をもった核兵器禁止条約を策定するために必要な調査と協議に財源を振り向けること」も求めた。豪州は日本と同様、これまで核兵器禁止条約には慎重姿勢だった。議会が市民の声を吸い上げ、政府に「一歩前に進め」と勧告したのだ。今後の政府の動きが注目される。
 日本では「政治主導」を掲げる新政権が誕生したが、果たして議員が力を発揮できるか。豪州の例は大いに参考になる。
 川崎哲(ピースボート)

2009年2月 被団協新聞2月号

国連憲章26条

 国連安保理は昨年11月、「軍備規制」の討議を行なった。国連憲章26条は「資源の軍備への転用を最小化する」とし、安保理にその計画策定を求めている。だがそのような計画は国連史上つくられていない。これに対し「軍隊のない国」として知られるコスタリカが安保理議長として、軍備と軍事費に正面からの問題を提起したのだ。
 「我々は貧困や飢餓をなくさなければならないのに、紛争が貧困や食糧危機を生んでいる」と、ノーベル平和賞受賞者でもある同国のアリアス大統領。
 討議には38カ国が参加。スイスやイギリスは武器貿易の規制を訴え、南アフリカは各国の軍縮を促す多国間協力を唱えた。インドネシアやベトナムは東南アジアの友好条約や非核地帯を集団的安保の例としてあげた。ボリビアは近く戦争放棄の新憲法を採択することをアピールした。
 格差と貧困が深刻化する中、日本国憲法の非軍事主義を世界で試すときが来た。川崎哲(ピースボート)

2009年1月 被団協新聞1月号

核廃絶へ

 核兵器廃絶への追い風がいま吹いている。
 もっとも注目されているのは、キッシンジャーら4人の元米国務長官が07年以来続けている「核兵器のない世界へ」の提言だ。これは、その後の国際軍縮交渉で必ず引用されるほどの影響力をもった。また先月には米ロなど保有国の政・軍元トップが「グローバル・ゼロ」という核廃絶運動を開始した。こうしたなか、「核兵器の究極的な廃絶」を掲げたオバマ政権が始動する。
 一方マレーシアやコスタリカによる核兵器禁止条約の提案も活発化している。禁止条約案には潘国連事務総長も積極姿勢を示した。NGOのキャンペーンも元気だ。平和市長会議は、NPTを強化して20年までに核廃絶する「ヒロシマ・ナガサキ議定書」を提案し広がりをみせている。
 まず保有国が行動するのか、それとも非核国が条約を作るのか。アプローチは異なれど、風は確かに吹いている。2009年は歴史的に重要な年になる。