紫の星

　三重連太陽系が擁する有人惑星の一つで、地表、海面、大気、磁場の関係からか紫色に輝く星。機界３１原種、そしてゾンダーメタル発祥の地であり、物語は全てここから始まったといえる。ゾンダーメタルに象徴されるように、人の精神、そして心をも科学によって補完しうる程高度な科学力を有し、それにより自然を完全に排除し惑星全土が都市化されていた。ポロネズやプリマーダの生まれ故郷と考えられている。
　だが、その社会は既に退廃の域にあり、憎悪、不満、怨恨、恐怖、執着、嫉妬といったさまざまな負の感情、即ちマイナス思念が社会全体を席巻していた。モラルを嘲笑い、生命を軽視し、近視眼的な快楽に没頭していく社会を救済すべく、科学者たちはマイナス思念除去システム・ゾンダーメタルを完成させたのである。ゾンダーメタルは知的生命体の心的な負荷状態を感知するとその脳内インパルスに干渉し神経組織を平常状態に導くと共に、負の感情をエネルギィへと変換して、成長、自己増殖を行う事ができた。ゾンダーメタルはマスタープログラムによって完璧に管理され、「不幸」のない、一種理想的な社会が完成するはずであったのだ。当初ゾンダーメタルは紫の星の住人の体内にインプラントされ、一種の人工臓器として機能していたと思われる。この段階で紫の星の住人は既に生機融合体の新人類として確立していたのである。
　しかし、マスタープログラムは次第にマイナス思念の除去に、別の意志をたくし始めていた。知的生命体が社会的に活動する以上、マイナス思念は決して絶えることなく放出され続ける。これでは「マイナス思念を『完全に』除去し、理想的な社会を創造する」という自らに課せられたタスクを完遂させる事は永遠にできない。たとえ不幸に陥ったヒトの脳を操作して、不幸を不幸と思えなくさえしても、社会から加えられる心身に対する苦痛が存在する以上、マイナス思念の発生を抑える事はできないのである。ならば、その根源を断つよりほかないではないか。それは何だ？社会か。人か。否、それは知性そのものだ。知的生命であるからこそ社会が生まれストレスが生じる。ならば全ての生命から知性を奪い、社会ではなくマスタープログラムの管理のもとにおいてのみ生きればよい。そこには憎悪も恐怖も存在しない。「理想的な社会」が創造される・・・。
　マスタープログラムはいまや何者の掣肘も受け付けないほど強力に成長し、それに従ってゾンダーメタルはその規模を爆発的に拡大させ、遂に紫の星を飛び出した。三重連太陽系の有人惑星は、その衛星に至るまでことごとくゾンダーメタルの侵攻を受けることとなり、緑の星では異能者カインが、赤の星では指導者アベルが各々に抵抗活動を続け、赤の星において対機界３１原種用生体兵器「アルマ」とその番であるところのソルダート師団およびJアーク艦隊の完成に至る。だが、最終的には三重連太陽系全域が機界昇華されてしまっていた。その渦中、カインは我が子ラティオと自らの写し身ギャレオンを、アベルは僅かに残されたアルマとJアーク級超弩級戦艦を、それぞれ別次元の宇宙へと逃れさせていたのである。もがきあがく生命たちの最後の希望として・・・。
　機界昇華の終結に伴い、消滅したとされている。