レザークラフトの工具の手入れや調整法などについての説明を中心に紹介するページです。
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工具の仕立て

革包丁


 革包丁に限らず、ほとんどの刃物は研いで初めて性能を発揮します。革に吸い込まれるように切れていくのが、理想の切れ味ではないでしょうか。

 革包丁をきれいに研ぐのは難しいかもしれませんが、とりあえず作業に必要な切れ味を持たせることは、それほど難しいことではありません。何度も研いでいるうちに、研ぎの腕も上達していくので、こまめに研いでください。

 研ぎの工程は、大きく分けると以下の通りです。
 1.裏押し  2.中研ぎ  3.仕上げ研ぎ

 1.の裏押しは、最初に行う基準面作りです。ふだんは行いません。
 ふだんは2.の中研ぎと、3.の仕上げ研ぎを行います。



「革包丁の造り」


 革包丁は、片刃の刃物です。日本の伝統的な合わせ造りの刃物で、硬い鋼と柔らかい地金(軟鉄)の2層構造になっています。刃裏側が鋼、刃表側が地金です。

 玉鋼という昔の日本の鋼作りは、生産効率が悪く鋼は貴重品でした。(質は最高と言われています。)そのため、鋼の節約という意味が一つ。また、全て鋼で作ると研ぐのが大変になります。研ぎやすさを出すという意味も、合わせの造りにはあります。

 洋式の刃物は全鋼の場合が多いようです。

 (写真で、刃裏の先端の色の違って見える部分が、次に説明する裏押しの基準面となります。)


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「裏押し」…最初の作業


 片刃の刃物は、まずはじめに刃裏の基準面を作るところから研ぎを始めます。「裏押し」という作業です。

 私が作って頂いている革包丁は、裏押しが簡単にできますが、精度の悪い物と出会ったときはたいへんです。

 伝統的な作業では、金盤という鉄の板と金剛砂という研磨剤を使って裏押しをします。この作業はかなりたいへんです。詳細は省略しますが、根気のいる作業です。

 現在は、手ごろな価格のダイヤモンド砥石が販売されているので、私はダイヤモンド砥石で基準面を出しています。ダイヤモンド砥石が100%信頼できる平面性を持っているわけではないのですが、狂いにくく十分に実用的です。

 写真は、ダイヤモンド砥石に刃裏を当てている様子です。ご覧のように刃先のほう2センチか3センチくらいでしょうか。その部分だけを砥石に当てます。このとき、柄の方に力を入れてはいけません。刃の途中に段差が付いてしまいます。

 刃が浮かないようにしながら、刃先側を意識することが大切です。抽象的な言い回しになりますが、どこを意識するかによって研ぎ上がりが変わります。自分がどこを研いでいるのかイメージすることが、大切なような気がします。

 革包丁の刃の側面は、かなり荒れた状態になっていることが多いので、刃の側面も軽く整えると良いと思います。

 ダイヤモンド砥石で基準面を出してから、仕上げ砥石で鏡面に仕上げて裏押しはおしまいです。刃裏の先端が鏡のようになり、自分の瞳がきれいに映し出されればOKです。

 裏押しの私の段取りは、下記の通りです。
 1.ダイヤモンド砥石400番  
 2.ダイヤモンド砥石1000番
 3.仕上げ砥石8000番
 番手の数字が大きくなるほど砥粒は細かくなります。     



「薄刃の裏押し」


 革包丁でも、刃の薄い製品の場合は、形状を整える作業をしてから、裏押しをしたほうがいいように思います。

 薄い刃で、刃の裏がすかれている場合、そのまま力を入れて裏を押すと刃が湾曲します。刃裏が平面になっていないのに、刃がたわんで砥石にあたってしまうのです。一見すると砥石がきれいに当たったように見えて、実はまったく平面になっていない状態になってしまいます。そのまま刃を付けると、刃の両端が長く中央がへこんだような形の刃先に研ぎあがります。

 また、力を入れずにうまく裏を押すことが出来たとしても、刃の両端はその分多く削られています。もともと刃が薄く、従って鋼も薄いわけですから、下手をすると鋼の部分が極端に薄くなってしまう場合があります。

 では、薄い刃の裏押しを失敗無く行うにはどうすればいいでしょうか。

 私の場合は、写真のように金槌で刃を叩き、刃先付近を平面に近く変形させてから裏を押します。叩く時台にしているのは鉛です。鉛の台に刃裏を密着させて、刃表側を叩くようにしています。

 これも、下手に叩くと刃が割れる可能性があると思われます。硬くもろい仕上がりの刃物は要注意ですね。様子を見ながら少しずつ叩くようにしてください。

 裏を押して平面を出したものでも、表を研いだ時などに裏の平面が狂うことが少なくありません。通常の研ぎで修正されてしまう程度であればいいのですが、大きく面が狂った時は、再度の裏押しが必要な時がありますね。刃表の研ぎ角を大きく変えて研いだりすると、狂いが大きく出ることがあります。刃を叩いて面を変形させてから裏を押した時は、最初の刃研ぎをした時に、裏の平面の確認を必ずしてください。

 地金と鋼を鍛接した合わせの刃物、そして片刃で薄刃とくれば面の狂いやすい条件が揃っていますから、一度出した平面が絶対的なものであると考えることはできませんね。実際の使用に際して、それほど神経質になる必要はないと思いますが、刃物は変形していくという意識は持っていてもいいかもしれません。

 市販の革包丁では、薄刃のものが少なくないので、裏が押しにくいと感じたり、研ぎあがった刃先の形状がおかしいと感じる時は、ここで紹介した方法も試してみてください。でも、刃が割れた場合でも、それはあくまでも自己責任。慎重に作業してくださいね。


 私自身は、厚めの革包丁を使っていますので、このような作業を実際におこなうことは、ほとんどありません。ただ、刃の薄い製品も多いので、いちおう私なりの方法を書いておきました。 




【追記:2005年11月17日】

 上記の記事を書いた当時、レザークラフト商社のうちのある会社の革包丁が薄く仕上がっていました。この製品は全国でも多く流通しているものと思われたので、変則的な方法のような気がしたのですが、上記の記事を書いておきました。

 その後、この革包丁は厚みが増し、剛性感も出て、仕立てやすくなったように感じています。鋼材メーカーがあらかじめ地金と鋼を合わせた材料を使った製品だと思われますので、厚みの調節はしやすく製品の仕上がりは安定するのではないかと思われます。それにともなって、上記の記事の削除も検討しましたが、サイトの記録としてもこのまま残すことに致しました。私がいい加減に書いた記事であり、それほど良い方法とは言えないと思いますので、参考程度に見てください。


 

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「中研ぎ」


 裏押しの後は、中研ぎです。刃表を研ぎます。ふだんの研ぎでは裏押しはありませんから、この中研ぎから始めることが多くなると思います。

 刃が欠けたりして、研ぐ量が多いときには、中研ぎの前に荒研ぎを行います。番手の荒い砥石で研ぎますが、荒砥は狂いやすく修正もしにくい面があります。そこで私は、荒研ぎには400番のダイヤモンド砥石を使っています。

 さて、本題の中研ぎですが、800〜1200番の砥石が中砥石として販売されていることが多いようです。ほとんどの中砥石は吸水性ですので、十分に水を吸わせてから使用します。

 写真のように、進行方向に対して刃を斜めにして構えると刃の角度が安定します。そして、刃の角度が一定になるように手首を固定して、刃を砥石の上で前後させます。

 刃の動かし方は、砥石の全面で広く動かす方法や、いくつかに砥石の面を分割して、刃を細かく前後させる方法などがあります。人により砥石の面の使い方にも違いがあります。いずれにしても、刃の角度が一定しないと、研いだ面が丸く仕上がる丸刃になってしまいます。

 刃研ぎの途中で出てくる研ぎ汁は、中研ぎをより細かく整えるために大切な物です。流さずに研ぎを行うのが基本と言われていますが、研ぎおろしの量が多いときなどは、研ぎ汁を流しながら研いだほうが、能率良く作業できることもあります。

 中研ぎの役目は、刃を付けるための準備をすることにあります。具体的には刃先に「返り」が出たら中研ぎは終了です。「返り」とは、刃先に出る研ぎのバリのような物です。目で見てもチラチラと見えることがありますし、刃裏側を指の腹で触ると、「返り」を感じることができます。

 「返り」の出方で鋼の硬さが、大雑把に硬いか柔らかいかがわかります。硬い鋼の場合はチラチラと、柔らかい鋼の場合はヒラヒラと、そんな感じで「返り」が出ます。

 中研ぎは、刃表だけを研ぎます。通常の研ぎでは、中砥石に刃裏を当てては絶対にいけません。

 刃の角度は、私の場合11〜12度の間の時が多く、浅い時でも10度位です。刃表の研いだ斜めの面を、「切れ刃」と言いますが、切れ刃が一定の角度で研ぎあがるのが理想です。  私の研ぎ場です。小さな流しに板を渡して、砥石を置く台にしています。台は、手前が少し高くなるように傾斜させています。中研ぎの最初の写真のように、濡らしたおしぼりなどの上でも刃研ぎはできます。

 「切れ刃」のことを、職業訓練校の教科書では「しのぎ面」と説明していました。手持ちの道具の本を見たところ、ほとんど「切れ刃」となっているので、今回は「切れ刃」としました。

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「仕上げ研ぎ」


 3000番以上の砥石を仕上げ砥石ということが多いようです。仕上げ砥石は、「合わせ砥石」とも言います。刃先を一点に合わせて、刃物として仕上げることを意味していると思われます。

 中研ぎでできた「返り」は、刃先に厚みがあるからできる物です。刃裏と刃表が一点で合わされば、刃先の厚みがなくなり、「返り」もなくなります。

 従って、仕上げ研ぎは「返り」がなくなるまで行います。

 まず、中研ぎと同じように刃表から研ぎ始めます。ある程度刃表を研いでから、刃裏を研ぎます。刃表と刃裏を交互に研ぎながら、刃先を一点に合わせていくのです。刃表7,刃裏が3,の割合で研ぐと、一般には言われているようです。

 写真のように、研いでいると研ぎ汁が出てきます。この研ぎ汁は、刃研ぎを安定させ、より細かく研ぎあげるために大切な物です。砥石と刃の間に、研ぎ汁の層があるという感覚で研ぐと良いかもしれません。

 さて、何度か刃表と刃裏を研いでいると、刃先の「返り」がとれてなくなってくるはずです。返りが全部なくなれば刃研ぎの終了です。かなりの切れ味の刃が付いているはずです。

 ここで自分の研いだ刃の状態を見てください。もし、切れ刃の角度が一定になっておらず丸くなっているようであれば、そのまま使ってください。でも、研ぎがお上手で一定の角度で10度近い角度で研ぎあがっているとすれば、刃先を二段に研ぐことも試してください。

 私は、最後に刃先を少し立てて刃先を二段研ぎにして(小刃付け)、刃先の研ぎ角をやや鈍角にします。測ったことはないのですが、プラス5度前後ではないかと思います。刃先が合いやすくなりますし、この操作によって刃先の強度が増します。固めの革を裁断しても刃こぼれしにくくなり、横ズリにも強くなります。

 浅い角度でキンキンに研ぎあがった革包丁は、気持ちよく革に吸い込まれますが、やや耐久力に難があると感じます。

 丸く研ぎあがった刃の刃先は、すでに十分な角度が付いていますから、2段研ぎの操作は不要です。

 2段研ぎの操作は、大工道具や料理用の包丁などでも行われる時があると思います。


* 「小刃をつける」という言い方よりも、「2段研ぎ」としたほうが、刃研ぎになれていない方にわかりやすいと思い、「2段研ぎ」という言葉を使いました。

 仕上げ研ぎをする前に、あらかじめ研ぎ汁を作っておきます。合成の仕上げ砥石を、合成の名倉砥でこすっているところです。  刃裏は、裏押しをしたときと同じように、刃先のほうを砥石にぴったりと付けて研ぎます。刃裏の平面を崩さないことが大切です。

仕上げ砥石による刃先合わせ

 刃研ぎは、刃が切れなくなった時に行いますが、少し切れ味が落ちただけの時は、仕上げ砥石で軽く刃先を合わせるだけで、切れ味が回復します。毎回必ず中研ぎから行うよりも、仕上げ砥石での刃先合わせを利用すると、合理的に革包丁を使うことができることもあります。(どのように刃が研ぎあがっているか次第ですし、仕上げ砥石での刃先合わせもやりすぎは考え物です。)

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「研いだあと」


 研ぎ上がりの写真です。わかりにくいかもしれませんが、刃の先端の白く光っている部分が、2段研ぎの部分(小刃をつけた部分)です。

 2段研ぎは、やりすぎると次回の研ぎに時間が掛かってしまいます。刃先を立てて前後させる回数は、10〜20回程度で力を入れすぎないようにします。

研ぎ終わってから、油を引く。 油を引いてから、革砥で最終仕上げ。
フィルムケースを利用した油壺。瓶に入れておく。20センチ角のフェルトを3等分してぐるぐる巻くとぴったりサイズ。油をしみこませて使う。 自分が何度くらいで研いでいるのか見てみませんか。角度定規を作って刃に当てると、おおよその自分の角度がわかります。



 革包丁は、使用していると刃先が微細に乱れてきます。その乱れが切れ味の低下につながります。そこで、使用中は、ときどき革砥に革包丁を当てて、刃先を整えながら使うと良いですね。刃先が整うと、切れ味も回復します。

 (床屋さんが、カミソリを革の帯に当てるのも、同じように刃先を整えるのだと思います。)

 革を漉く作業の時などは特に、刃先を革砥で整えてから行うことを勧めます。



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