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うちのピアノは名器かも!?~世界名器探訪~

世界には数多くの名器と言われるピアノがあります。
ご存知 アメリカ(ドイツ)のスタインウェイをはじめ、ドイツのベヒシュタイン、 スタインウェイの親戚とも言えるグロトリアン、オーストリアのベーゼンドルファー、イギリスのブロードウッド、フランスのプレイエルやエラールなどが有名ですね。 これらの名器をご購入の際は、知名度はもちろん、価格も国産よりも高額ですから、購入された方も「名器」であることをご存知の場合がほとんどです。

ところが、国産ピアノについてみると、そのピアノの素姓をご存知の方は意外と少ないように思います。 たいていの方の選択理由は、「ピアノの先生や店員の方に勧められた」とか、「一番高いモデルと選んだ」という場合がほとんどで、 逆に名器を入手されてもその価値をご存知ない方も多いのではないでしょうか?
こう書くと、国産にも「名器」がありそうな言い回しですね。
実は、何を隠そう、そうなのです!国産のピアノの中にも隠れた「名器」が数多く存在しています。 そこで、ここでは欧州の著名な名器をはじめ、そういった国産名器達の栄光も改めて讃えていくことにしましょう。 もしかすると、あなたがお持ちのピアノも、国産有数の名器かもしれませんよ!

なお、海外メーカーについての記述は、すべて私が現地工場を訪れた時のものです。
掲載されていないメーカーについても、定期的な訪欧で順次追加していく予定です。

では、以下のメーカー名一覧から、お好きなブランドを選んでご覧ください。

欧州ピアノメーカー編European Piano Company

Steinway & Sons(スタインウェイ)

アメリカ・ニューヨーク ドイツ・ハンブルグ

スタインウェイ工場

言わずと知れた、あまりにも有名なメーカーですね。
創業者ヘンリースタインウェイ氏は、旧名をハインリッヒ・シュタインヴェグといいます。彼は1825年頃から、ドイツでピアノ製造を営んでいました。ちょうど政治的激動の時代です。
1848年までに約400台のピアノを製造していますが、同年のドイツ革命を機に、2年後の1850年、新天地を求めてアメリカに渡ります。そして1853年、英語風にヘンリースタインウェイと改名して、ニューヨークに会社を設立します。
右はハンブルク工場訪問当日の正面玄関です。社旗の隣に日の丸を掲げてくださいました!

スタインウェイの音の傾向は華やかで、まるでダイヤモンドのような輝きを持っています。ニューヨークモデルとハンブルクモデルとでは 若干音質が異なりますが、どちらもダイヤモンド系であり、色が付いているか無色透明であるか、という差があります。 いずれのモデルでも、力強さと美しさを兼ね備え、演奏上の意図にも反応が早いという共通の特徴があります。

メカニズム的な特徴としては、弦・鉄骨の振動をロスなくボディに伝えるため、サウンドベルというメカニズムを採用していることが挙げられます。 サウンドベルとは、ピアノリムの下部(高音側)辺りにあるヒョウタン状の突起で、これが鉄骨とボディをつないでいるのです。

リム保存庫
スタインウェイアクション
サウンドベル

写真上左がサウンドベルの実物です。このような不思議な形のベルを使って鉄骨とボディを密着させることによって弦の振動をボディに確実に伝達させているのです。 そして、その鉄骨の製造過程においても、鋳型から出した物を長期間放置の上で、歪みが落ち着くのを待つ過程を経ており、まるでシンバルではないかと思われるほど(もちろんオーバーですが)、拳で叩いてみるとよく鳴る鉄骨なのです。
ちなみに、このノウハウは他にもいろいろなメーカーで採用されており、形もスタインウェイのようなヒョウタン型だけではなく、 四角錐(しかくすい)をしたものも存在します。数もひとつではなく、ふたつ取り付けるメーカーもあるなど、各社様々な工夫を凝らしています。

スタインウェイのもうひとつの特徴として、伝統的なアクション構造があります。(写真中央)
見た目からも、アクションフレームに真鍮を使用し(通常は木製かアルミ製)、更に中央をくり貫いて木材の芯を埋め込むという 独特の発想は、創業時から現在まで変わらず受け継がれています。真鍮のハンマーレールに並ぶハンマーは、赤いフェルトを介して弾力性を持たせた上で取り付けますが、これも他社とは異なる伝統的な手法です。

上部右端の写真は、スタイウェイ工場におけるリム(ボディ)の保管室です。スタインウェイ以外のメーカー製では、グランドのボディ製作にあたって、何層にも重ねた3枚の板を曲げてつなぎ合わせますが、 スタインウェイでは同じく何層にも重ねた1枚の長い板を曲げて製作します。これも、振動の伝達にロスをなくすためのノウハウです。

スタインウェイアリコート

スタインウェイ方式は、弦の振動を鉄骨に伝えることをコンセプトとしているため 、弦と鉄骨を接触させ、 無発音部にはアリコート(デュープレックススケール)によって、発音部と共鳴する和音を、オクターブに調整してあります。 音域によってオクターブが取れないところは、5度もしくは4度になっています。(右図) このメカニズムは、サウンドベルとともにヤマハ製にも採用されています。

Copyright 2003 Steinway & Sons Japan,Ltd. All rights reserved

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BECHSTEIN(ベヒシュタイン)

ドイツ・ベルリン

ベヒシュタイン初期工場

世界三大名器であるベヒシュタインは、スタインウェイと同年の1853年に、カール・ベヒシュタイン氏によって創業された名門メーカーです。

最初に作られた1856年製のグランドは、同年ピアニストであり指揮者でもあった、ハンス・フォン・ビューローのコンサートで使われました。 リストのソナタを弾いたこのコンサートで、「バイオリンのストラディバリウスやアマティーに値する」と絶賛され、一躍名声を博すことになります。

日本でも、戦前は「世界一のピアノ」と評価され、Y社がベヒシュタイン社から技術者を招いて指導を受けた時期があることからも、古くから世界最高のピアノと評価されていたのですが、ドイツの敗戦によって大打撃を受けたため、スタインウェイにその知名度を譲る結果になります。
左図は、創業当時の工場の模型です。

ベルリン工場
ドレスデン工場

左図は、現在のベルリン工場の正面玄関付近と、ドレスデン郊外にある旧ツインマーマンの工場です。 ドレスデン工場は、現在はベヒシュタインのアップライト工場になっています。



ベヒシュタインのその優雅な音色は、しばしばベヒシュタイントーン(サウンド)と言われ、「歌うような音」、「とろけるような音」と称されます。 音の方式は、 スタインウェイとは対照的に、鉄骨を鳴らさない(=純粋に響板のみを鳴らす)構造になっています。 弦の振動は鉄骨部分でミュートし、響板を鳴らすのです。
下左図のように、チューニングピン周辺に接触する弦の周り、および下右図のように弦の末端(ヒッチピン側)も、フェルトでミュートを施して あります。こうすることによって、余計な振動を鉄骨に伝えず、あくまでも響板を鳴らすことに重点を置き、結果として音の反応の良さを追求していているのです。
この響板に加えて、全弦にわたってアグラフ式を採用していることも、ベヒシュタイントーンの秘密のひとつでもあります。 そのため、音の響きは純粋そのもので、「高貴な音」とも「ビロードのような音」とも言われる気品の高さを醸し出しています。
ちなみに、我が師はこの音を「琥珀のような音」と表現されます。

旧ベヒシュタインEN
現行ベヒシュタイン
初期ベヒシュタイン

現在のベヒシュタインは、その音の方式をスタインウェイ式に移行し始めています(上中央)。 これまで長年に渡って音量の豊かさよりも音色の美しさやタッチによる音色の変化を追求してきたベヒシュタイン社ですが、 現代のピアニストが高音域の力強さと、音量を大きくすることを望んでいるためで、時代には逆らえなかった決断であると思います。 結果として、高貴なやさしい音に力強さと音量が加わった新しいベヒシュタインサウンドが生まれています。

写真上中央のように、フェルトによるミュートがなく、駒の(画面)奥にスタインウェイのようなアリコートブリッヂが見えます。 上の左と中央の2枚の写真を比較すると、その違いがよくわかりますね。

最後に余談ですが、2003年の訪独で珍しいピアノを見つけました。 上右図のピアノは、ベルリン工場でオーバーホール中だった初期のグランドです。 現在のモデルのように、弦を交差させる技術が確立される以前のモデルであるため、低音部の弦長が取れないのですが、 それを解決するため低音部を膨らませていますね。

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Bosendorfer(ベーゼンドルファー)

オーストリア・ウィーン

ベーゼンドルファーショールーム
ベーゼンドルファー工場
ベーゼンドルファー通り

1828年、イグナッツ・ベーゼンドルファー氏によって創業された老舗メーカーです。
上写真の左は、ウィーンの街中にあるショールーム正面玄関、中央はウィーン工場の正面玄関です。
右は、ウィーンショールームのある、その名も”ベーゼンドルファー通り”!
ウィーンの楽器はどれもみな独創的ですが、ピアノも例にもれず、 とても特徴のある音がします。 …と、日本で聴くと「特徴的」と称するこの音も、実際にウィーンに行くとこの音でなければならない理由がわかります。 つまり、ウィーンでピアノの音を聴くと、その街の雰囲気から、この音以外に違和感を感じるのです。

ベーゼンリム製作

スタインウェイの1/10という、徹底した少量生産にこだわってきたという、その音を生み出す最大の特徴は、 弦の振動をボディに直接伝えるメカニズムにあり、彼岸花の臭いのような臭さ、 もしくは黒ビールの味のようなコク、宝石に例えれば真珠のような音です。 このような音を出す秘訣は、ピアノに弦楽器であるバイオリンの要素を取り入れたことによるものです。 つまり、鉄骨は共鳴体ではなくあくまでもフレームとして捉え、ケース全体を純粋に木製の楽器として響かせようという発想です。
この独特の音を生み出す特徴として、左写真のようなボディの製作方法が挙げられます。一般的なピアノのように合板ではなく、 響板と同じ無垢板で製作するため、ボディを曲げる加工の際、最大1センチほど~カーブによっては数ミリの間隔で、縦向きの亀裂を入れていきます。 この結果、弦の張力を支える強度がなくなりますが、その役目を支柱(ピアノの裏側にある柱)に任せ、支柱の材質も一般的な堅木ではなく、 これも響板と同じ木材を使用して、ボディ全体が鳴ることを重要視してあるのです。 ちなみに、響板も一般的な松科のスプルースではなく、アルプス産のフィヒテ(トウヒ)というスプルースよりも柔らかい素材になっています。 これらがベーゼンならではの秘策であると言えます。

ベーゼンドルファーインペリアル

また、ベーゼンドルファーには、オルガンのペダルと同じ低音域を求めた、作曲家プゾーニの要望に応えるため、 低音部に9本の鍵盤が追加されている「インペリアル」の存在しますが、これはご存知の方も多いと思います。
なお、ベーゼンドルファーは現代の物と、数十年前の物とでは、その音に大きな差があります。現代の音はとにかく臭いのですが、 昔のベーゼンは臭い中にも華やかさがある、とても素晴らしい音色です。インペリアルの鍵盤は、左図のように左端(低音側)が9本多く、 黒く塗りつぶされています。

©Copyright 2003 Nihon Bosendorfer All rights reserved

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Bluthner(ブリュートナー)

ドイツ・ライプチヒ

ブリュートナー工場

ベヒシュタイン、スタインウェイと同年の1853年に、ユリアス・ブリュートナー氏によって創業されたメーカーです。 東西分裂前は、西のベヒシュタイン、東のブリュートナーと言われ、スタインウェイをも凌ぐメーカーとして君臨していましたが、 現地訪問時にご案内いただいたクリスチャン・ブリュートナー氏によると、 先の大戦の影響で当時の設計図面を消失しているらしく、非常に残念でなりません。 しかし、東西が統一された現在は、ブリュートナー家に経営権が戻り、その素晴らしさを徐々に取り戻しているので、 再び世界最高のピアノの地位に返り咲く日も近いのではと期待しています。

ブリュートナー本社ショールーム
アリコートモデル10
アリコートセミコン

ブリュートナーのピアノは、共鳴要素である<アリコート弦>が特徴です。
通常のアリコートは、スタインウェイ方式のように、弦の末端未発音部の音程を調整することにより、発音部とオクターブ、もしくは4度5度音程を共鳴させます。 ところがブリュートナーでは、中音部以降の通常3本の弦を1本多い4本にすることにより、基音の倍音を強調することによる音質改善を求めていることが大きな特徴であるといえます。 このアリコート弦の動きは、基音の減衰の際には振動を持続する方向へ働き、基音の急激な発音時には抑える方向へ働く逆位相になっており、 優雅で華麗、まるでいぶし銀のような音色を長く持続させるという効果を生み出しているのです。

上左図は、ライプチヒ工場入口展示してあるものです。このモデルに採用してあるアリコートが上中央図、 セミコンサートグランドのアリコートが上右図ですが、それぞれ弦が4本あるのがおわかり頂けるでしょうか?

ブリュートナーUP駒部

また、ブリュートナーはアップライトにも大きな特徴があり、左図の中低音部<駒>の形状が挙げられます。 駒とは、弦と響板を接続する部分で、弦の振動がここを通って響板へ伝わります。この駒の形状が非常に珍しく、 通常は中高音部と低音部、2本の駒で構成されているのですが、写真を見ると中音部の駒を途中で切って2本に分離させてあります。 ちょうど斜めに走った黒い鉄骨が邪魔で見にくいですが…。


ブリュートナーのもうひとつの特徴として、弦を止めているチューニングピンの周りの鉄骨形状があります。 (グランド・アップライト共通)

ブリュートナーくりぬき

現代の主流な方式は、ここを鉄骨が覆い被さっているのですが(フル鉄骨)、 ベヒシュタインなどではここをくり抜く方式が採用されています(くり抜き鉄骨)。 ブリュートナーはこの両者の利点を合わせたもので、くり抜いた部分を真鍮の板で埋めてあるのです。(左図) くり抜くことによって、鉄骨の余計な振動をカットするのですが、反面ピンが調律時におじぎしてしまう危険性があります。 これを解決したのがブリュートナー方式で、なんと!某国産メーカーにも、採用したものが存在するのです!
詳しくはここからそのメーカーの紹介ページをご覧下さい。

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GROTRIAN(グロトリアン)

ドイツ・ブラウンシュバイク

グロトリアンセミコン

日本で一般的にはあまり知られていないメーカーですが、実はスタインウェイと血縁関係にあるメーカーです。 スタインウェイ一家がアメリカに移住した際、長男のテオドール氏だけはドイツに残りました。 1865年、ニューヨークに大規模な工場が完成し、ドイツとの往復に忙しくなったため、ブラウンシュバイヒの工場を 弟子のグロトリアン氏ほか3人の弟子に売却したのです。 当時は「テオドール・シュタインウェヒ・ナッハホルゲル」と呼ばれていましたが、その後「グロトリアン・シュタインウェヒ」という ピアノメーカーとして独立し、現在の「グロトリアン」となるのです。


フラット鉄骨
バイオリンテクニック
X支柱

グロトリアン社のピアノには、特徴あるメカニズムが多く見られます。

○ホモジェナンスサウンドボード(=均等な品質を持つ響板)
ホモジェナス=均一という意味で、アルプス山脈のある場所だけで成長した、樹齢100年以上のスプルースから、成熟度など条件の揃ったものだけを厳選しています。
○フラット鉄骨(上左図)
その名の通り真っ平らな鉄骨
○バイオリンテクニック=U型鉄骨(上中図)
理想的な響板の振動を得るため、フレームと響板の形態をバイオリンの胴形に似せたもの(アップライトに採用)
○響板をしっかりと支え、ひときわ輝きを増した音の伸びを生み出すX支柱(上右図)
○低音巻線部の芯に採用した六角弦
いずれも弦の張力を一点に集中させ、ストレスなく伝えようとする試みで、豊かな音量を求めるための工夫です。

グロトリアンベアリング

意外と知られていないのが、一般のピアノと比較して、弦の張力が高い(強い)ことがあります。逆にスタインウェイは張力の低い(弱い)ピアノです。 これは世界でも他に類を見ないもので、グロトリアン独特の低音を生み出すものです。 張力が高い証拠は、通常よりもチューニングピン付近の弦の角度がきつくなっていることからもわかります。(左図)
その重厚でこの上なく力のある音の特徴には、重圧で古風な作品が似合います。 クララ・シューマンが、自身の演奏会には必ず持参したほどであったと知られていることからも、高度なテクニックを少しの動きで音量や音質に 反映される俊敏なピアノは、彼女の演奏スタイルにも合っていたのでしょう。

グロトリアンを使った現代の録音はほとんど見かけませんが、我が師のメンテナンス×イェルク・デームス氏の演奏による、 このピアノを使った録音がCD化されています。そのサウンドは、コーンと伸びる高音と、芯の厚い独特の低音が、まさにグロトリアンサウンドです。 (詳細はお問い合わせください。)

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SCHIMMEL(シンメル)

ドイツ・ブラウンシュバイク

シンメル本社

1885年創業、旧西ドイツ最大のピアノメーカーです。 左図は、本社工場の正面玄関です。 ドイツ国内での生産量もピアノ全体の1/3を占め、一般に多く知られています。そのため工場もかなり機械化が進んでいるのが特徴です。 いわば、ドイツで唯一、Y社のような取り組みをしているメーカーであると言えます。(Y社が輸入代理店であった時期もあります。) また、1971年からフランスのガボーエラール協会との提携で、名器エラール、ガボー、プレイエルの生産をしていたことも大きな特徴です(1993年まで)。

その品質は、最も近代的で品質の優れた楽器として定評があります。その製造方法から、機械的にきちんと揃ったタッチが、Y社にとてもよく似ています。 加えてドイツ製全般の特徴である、しっかりとした造りも兼ね備えていることから、ドイツで一番実用的なピアノであると言えるでしょう。

シンメルグランド
シンメルアリコート
シンメルダンパーカバー

上左図は、日本ではほとんど見かけることのない、シンメル製フルコンサートグランドです。
構造的にはスタインウェイのように、鉄骨を鳴らす系統の楽器です。上中央図のように、弦の振動を直接鉄骨に伝えているのがわかります。 共鳴弦の部分はアリコートバー方式になっていますが、発音部と無発音部の音程を、独立したバーを前後に動かすことで調律可能な仕様になっています。 現在のモデルには、このほかの構造的に大きな特徴は見られませんが、過去にはアップライトにサウンドベルを取り付けたり、 音色に関するこだわりでも独創的な発想を持っているメーカーです。

シンメルクリスタルグランド

そのほかのシンメルの特徴として、遊び心があるメーカーとでも言いますが、外観や内部を含めて各所のデザイン製に優れていることも特徴です。
上右図はシンメル製グランドの鉄骨部分ですが、通常黒いダンパーが並んでいるはずのところに鉄骨と同色のカバーを付けています。 演奏者から見ると、正面に窓が付いていて中が見えるようになっています。




シンメルデザインピアノ

外観上のデザインとしては、左上のクリスタルピアノが目を引きます。これは国内K社製でも有名ですね。 左図のようなデザイナーによる企画モデルもあり、アイデアさえ持ち込めば、どなたのどんなデザインのモデルも制作可能とのことです。 世界に1台しかないデザインのピアノをお望みの方は本社工場へ直接ご提案致しますので、当方宛にご連絡下さい。

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SAUTER(ザウター)

ドイツ・シュトゥットガルト

ザウター本社

世界三大名器であるスタインウェイ、ベーゼンドルファー、ベヒシュタインよりも、実は更に歴史の長い老舗メーカーなのです。
家具職人であった創業者ヨハン・グリムが、ウィーンでシュトライヒャーの元に弟子入りしたことに始まり、 1819年にシュパイヒンゲンに戻って工房を設立しました。 グリムのピアノはその品質の高さから一躍有名になり、やがて弟子であるカールザウターが、様々なピアノ技術の改良を実現していきます。
左図は本社正面玄関です。3月下旬なのにご覧の通りの積雪で寒かったです…。

ザウターアップライト背面
ザウターアップライトR2
ザウターアップライト

ザウターピアノは、カールが数多くの視察旅行に出かけ、特にアメリカ視察からそれまで主流だったスクエアピアノ(四角いグランド)に変わる 新しいヒントを持ち帰ったことから、当時近代的と言われていたアップライトピアノを主に生産を始め、この頃からアップライトに大きな特徴があります。

弦を押さえる方式には、一般的に中音~高音部にプレッシャーバー、低音部にアグラフという方式が採用されます。 ベヒシュタインやヤマハU7では、総アグラフと呼ばれる全音域に渡ってアグラフとなった方式が採用され、1音毎に均等な力をかける工夫がされています。 ザウターには、この2大方式とはまた異なる、全音域に渡ってプレッシャーバー式となった珍しい機種が存在します。 上右図は低音部のプレッシャーバーをアップにした写真です。一般のピアノは低音部にはこのようなバーは使用せず、アグラフ等で1本ずつ固定します。カワイの項にわかりやすい低音部の写真がありますので、比較してその違いをご覧になってみて下さい。

また、ザウター製アップライトの最大の特徴に、<R2アクション>と呼ばれる機能があります。
打弦時にハンマーの戻りを促すスプリングが付加されているもので、アップライトでグランド並のトリルを実現しています。 もっとも、グランドのダブルレペティション機能と比較すると劣ってしまいますが、通常のアップライトよりは、かなりトリルがやりやすくなっています。

また、大きなサウンドボードや、変則的な構造の背面支柱も特徴です。支柱は通常4本が多く、高級機で6本です。この変則5本支柱は、グロトリアン社のX支柱と同様の効果を狙って、高音側に1本追加されたものです。(上左図)

ザウターグランドアリコート

左図は、グランドにおけるアリコートシステムです。
スタインウェイやヤマハのように、細長い棒状のものではなく、駒からヒッチピン(弦をUターンさせるために引っ掛けるピン)の手前にかけて1枚の真鍮板で覆い、その上に独立した小さな棒を配置しています。これはこの棒の位置を動かすことで、無発音部のチューニングを可能にしているのです。
※どのようなピアノでも、駒(画像中央)からヒッチピン(画面手前)は、発音せず共鳴するだけという構造になっています。

ザウター工場内での整調

左図は、ザウター社工場内でのアップライト整調(タッチ調整)風景です。 鍵盤をゆっくり押し下げていくと、ハンマーは弦に近づき、おおよそ弦から3~5mmまで近づくと、スッと手前に戻る運動をします。 これをレットオフといい、通常我々は調整時に目視でその距離を判断しますが、 この女性は正確さを増すために、木製の治具(じぐ)を使用していますね。
※レットオフの距離は、場合により加減します。

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FAZIOLI(ファツィオリ)

イタリア・サチーレ

ファツィオリ本社

ピアノ発祥の地であるイタリアには、あまり一般に知られているメーカーはありませんでしたが、 ファツィオリはベネチアの北部にあるサチーレという小さな町で、近年になって創業したとても新しいピアノメーカーです。 元々芸術の発祥地であり、バイオリンや家具などの木製品の生産にかけては優れた伝統があります。 また、フェラーリを始めとしたスーパーカーの生産では他国の追随を許さない技術とデザイン力を持っている国ですから、 後発メーカーとはいえその品質は大変優れています。その試作第1号モデルは、1980年に完成しています。 ちなみに、ファツィオリ社ではグランドピアノのみの生産をしています。

ファツィオリマルコポーロ

ファツィオリ製のピアノを見て驚くのは、その大胆な発想とデザインです。さすがイタリア!と脱帽することしかできません。 通常フルコンサートグランドは、長さ275センチ前後ですが、ファツィオリではこの長さのモデルに加えて、なんと308センチものグランドまで存在します。 右図は、そのモデルF308の<マルコポーロ仕様>です。う~む、なるほど。『東方見聞録』の出発地であるベニスの街を大屋根の裏に描き、 中国をイメージした赤いワニスでボディを塗るとは!ちなみに、工場のあるサチーレという町はベニスに近いイタリア北部にあります。

ファツィオリF308

ファッツィオリ製ピアノは、その大胆なデザインだけでなく音も非常に優れています。 この先もっと世界で認められていくと、王者スタインウェイをも脅かす存在になるかもしれません。 構造的には、右図のようにスタインウェイと同じく鉄骨を鳴らす楽器がベースです。アリコートバーのチューニングも容易に行える構造であることなど、 細かな配慮を欠かしていませんね。(下中図)

スタインウェイの欄でも触れましたが、鉄骨を鳴らす系統のピアノは、下左図のようにその振動をボディに伝えるサウンドベルが 付いているものがあります。 ファツイオリ製にもベルが付いていますが、ファッツイオリ氏によると、その独特の形状からこれはベルとは呼ばないそうです。 (効果はサウンドベルと同じです。)

ファツィオリベル
F308アリコート
F308ペダル

また、ファツィオリピアノの響板は、一般に多く使われるアラスカ産のスプルースではなく、アルプス山中のヴァルディ峡谷で生産される レッドスプルースが使われています。一般に響板に求められる、軽さ、堅さ、柔軟性が優れていることはもちろん、イタリア的明るさと優雅さを 生み出している秘訣であると言えます。

音の傾向は、とにかくカラッと明るくイタリア的で、なおかつ温かさ優雅さを兼ね備えています。 スタインウェイをダイヤモンドに例えるなら、こちらはまるで純金であると言えるでしょう。

また、最上級モデルであるF308には、ペダルが何と!4本もあります。 右側3本は通常のグランドと同じく、右からダンパー、ソステヌート、ウナコルダですが一番左はアップライトの左側にあるソフト(シフト)ペダルと同じ働きをしています。 これによって、3本ある弦から1本外して音色を変えるウナコルダと、打弦距離を縮めて音色を変える弱音ペダルを併用することができますので、 音楽の表現に幅が広がるというわけですね。この辺りの発想も、さすがイタリアです。

世界名器探訪 日本メーカー編へ続く

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