副題は
`pi, e, i` から偏微分まで
第Ⅰ部は「小学校,中学校,高校で習ったあの数学記号の意味」である。第 12 章は `lim` である。p.65 で次の例が紹介されている。ある分数関数の極限をとる場合の表記について、次のように注意されている。
`x->2` とせずに下から近づける場合と上から近づける場合で `x->2-` や `x->2+` のように異なった表記をする方がよい。
`lim_(x->2-) 1/(x-2) = -oo`
`lim_(x->2+) 1/(x-2) = +oo`
この場合の「下から近づける」という意味は、たとえば、1.9, 1.99, 1.999, … のように近づけるということだ。この場合の「下」は、小さい数が大きい数より下に位置していることをイメージしている。 関数 `f(x)` をグラフであらわすと、`x` 軸は水平な線であらわされ、小さな数は左側に、大きな数は右側に配置されることから、「下から近づける」を「左から近づける」というように表現することもあり、 むしろ上下より左右で表現することが多いのではないかと思う。また表記も、`lim_(x->2-) 1/(x-2) = -oo` よりも、`lim_(x->2-0) 1/(x-2) = -oo` のように `0` を付け加えることが多いようだ。 下から近づける、というイメージを生かす意味で、`lim_(x uarr 2) 1/(x-2) = -oo` とする例もある。これらの記法については、 片側極限(ja.wikipedia.org) を参照してほしい。
第Ⅱ部は「大学で学ぶ教養としての数学」である。pp.112-113 の第 24 章は `subset, subseteq` である。本書では、二つの集合 `A, B` について、`A` が `B` の真部分集合であることを `A subset B` で表している。 また、`A` が `B` の部分集合であるとき(`A subset B` または `A` = `B` であるとき) `A subseteq B` と表している。 一方、私が目にする数学書によっては、二つの集合 `A, B` について、`A` が `B` の真部分集合であることを `A ⊊ B` で、また`A` が `B` の部分集合であることを `A subseteq B` で表すこともある。 最初に定義を読んでおかねばならない。 部分集合(ja.wikipedia.org) を参照してほしい。
「付録・ギリシャ文字一覧とその用例」も面白い。オミクロンの項ではランダウの記号として説明されている。このオーはオミクロンであるとは知らなかった。
Wikipedia では、起源はドイツ語の Ordnung であるという。
ただ、説明がもう少し欲しい文字もあった。たとえば、`xi` や `eta` は変数として用いられる。
と説明されているが、`zeta` に関してはリーマンの `zeta` 関数が有名。
とあるだけで、`xi` や `eta` と同様の用途があることには触れられていない。さらにいえば、`xi, eta, zeta` はそれぞれ `x, y, z` に対応し、
座標系の変換などで変換前と変換後の関連を明らかにするために使われる。
ないものねだりをしても仕方がないのだが、空集合の記号 `O/` に関して独立した説明がないのがさびしい。p.183 には、次のような説明がある。なお、`RR` は実数の集合である。
`A` を `RR^2` の部分集合とし,集積点というものを定義する。点 `b` が `A` の集積点というのは, `b` を含む任意の開集合 `U` に対して,`(A - {b}) nn U != phi` (`phi` は空集合の記号である)が成り立つことである。 (後略)
ただ、これだけで空集合を済ませるのは惜しいことだ。さらに言えば、本書の空集合で用いている字母は明らかにギリシア文字のファイであるが、
ただしくは空集合専用の字母を用いるべきだろう。(本書 p.249 の `phi` の説明にも空集合の記号
とあるが、これは誤りのもとだと思う。)
数式はMathJaxを用いて記述している
書名 | なっとくする数学記号 |
著者 | 黒木哲徳 |
発行日 | 2021 年 2 月 20 日 第 1 刷発行 |
発行元 | 講談社 |
定価 | 1100 円(本体) |
サイズ | 新書 判 ページ |
ISBN | 978-4-06-522550-9 |
備考 | ブルーバックス、草加市立図書館で借りて読む |
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