小暮陽三 : なっとくする演習・量子力学

作成日 : 2024-04-23
最終更新日 :

概要

「まえがき」から引用する。

(前略)「蟹は甲羅に似せて穴を掘る」という。本書は私なりに量子力学の演習書について気ままに掘った穴にすぎない。(中略)とはいえ, ふつうの演習書のような,単なる問題の羅列ではなく,できるだけ説明にページを費やしたつもりである。 また,はじめに結論を示し,厄介な計算はその補足説明に回すなど,いくらかの工夫をこらした。 さらに,ラプラシアンの極座標表示はどの本でも天下りになっているが,本書の付録で,計算の道筋を詳しく説明した。(後略)

極座標のラプラシアン

Spherical coordinates x y z u r θ φ

図 1 極座標

「まえがき」にあるとおり、ラプラシアンの極座標表示がp.257 からの付録で計算の道筋が詳しく説明されている。この付録の表題「`nabla^2` を極座標であらわすこと」では、 `nabla^2 = ((del^2)/(delx^2)+(del^2)/(dely^2)+(del^2)/(delz^2))` を極座標 `(r, theta, phi)` についての偏微分表示に直す計算方法が述べられている。 この計算は定義通り行うと非常に煩雑だ。ただ、ひょっとしたら、誰でもとは言わないが、理系の学生なら「一生に一度はやってみるとよい」 と言われるもののような気がする。さて、私はどうか。この計算は何度かやったような気がするが、あまり覚えがない。 そこで、この本の通りにやろうとしたが挫折した。p.257 から引用するが、多少補足・書き換えをしている。

第 1 のステップは,2次元極座標におけるラプラシアンを求める。3次元極座標の半径 `r` を `xy` 平面に下したときの `xy` 平面での射影の長さを `u` とする。`u` は2次元の極座標の動径である。 `x` と `y` を `u` と極座標の方位角 `phi` を使って表すと、

\begin{cases} x = u \cos \phi \\ y = u \sin \phi \tag{A.1} \end{cases}

が成り立つ。第 2 のステップは,第 1 のステップを3次元曲座標のラプラシアンに拡張する作業だ。`r` の `z` 軸への射影を `z` とし、`xy` 平面への射影を `u` である。 `u` と `z` 軸がなす天頂角を `theta` とすると、 `z` と `u` は `r` と `theta` を用いて

\begin{cases} z = r \cos \theta \\ u = r \sin \theta \tag{A.2} \end{cases}

のようにあらわされる。ここで、(A.1) と (A.2) を比べると、`u -> r, phi -> theta` の対応関係があるので、この対応を利用して計算量を少なくする工夫をする。さて、p.257 から引用する。

式 (A.1) の変数を `du, dphi` だけ変えると,

`dx = cos phi \ du - u sin phi \ d phi`
`dy = sin phi \ du + u cos phi \ d phi`

以上が本書からの多少書き換えた引用である。私がわからなかったのは、 `x` と `y` の式から、どのようにして `dx` と `dy` の式が導かれるのか、その正当性である。 おそらく、多変数関数の(全)微分を再度勉強すればわかるのだろうが、私は面倒に思った。そこで以降は全微分を表に出さない、 基礎解析Ⅱで紹介された手法に沿って計算することにした。

では第1のステップである。`C^2` 級の関数 `f(x, y)` に対し、`f = f(x, y)` とおく。以下、適宜 `(delf)/(delx) = f_x, (del^2f)/(delx^2)=f_(x x)` などと略記する。 第1のステップは `f_(x x) + f_(yy)` の平面極座標の表現を得ることである。それにはまず、`f_x` の平面極座標の表現を得なければならない。そのため、次の式から出発する。 `(delf)/(delu) = (delf)/(delx) (delx)/(delu) + (delf)/(dely) (dely)/(delu) ` などから、 次が成り立つ:

`f_u = f_x x_u + f_y y_u = f_x cos phi + f_y sin phi, \quad f_phi = f_x x_phi + f_y y_phi = - f_x u sin phi + f_y u cos phi`。

これを行列の形に書きなおすと、

`[[f_u],[f_theta]] = [[cos phi, sin phi],[-u sin phi, u cos phi]] [[f_x],[f_y]]`

となる。したがって、

`[[f_x],[f_y]] = 1/u [[u cos phi, -sin phi],[u sin phi, cos phi]] [[f_u],[f_theta]]`

が得られる。ここで、上記の `f_x` の式は本書の (A.6) に、`f_y` の式は本書の (A.7) に相当する。ここで見やすさのために `f` を `square` で置き換えると次の表現が得られる:

`square_x = square_u cos phi - u^-1 square_phi sin phi, square_y = square_u sin phi + u^-1 square_phi cos phi`。

これを使って、まず `f_(x x)` を求めよう。第 1 式において `square = f_x` とおいて計算する。

\begin{eqnarray} f_{xx} &=& (f_x)_u \cos \phi -u^{-1} (f_x)_\phi \sin \phi \\ &=& ( f_u \cos \phi -u^{-1} f_\phi \sin \phi )_u \cos \phi -u^{-1} (f_u \cos \phi -u^{-1} f_\phi \sin \phi)_\phi \sin \phi \\ &=& ( f_{uu} \cos \phi +u^{-2} f_\phi \sin \phi - u^{-1} f_{\phi u} \sin \phi) \cos \phi -u^{-1} (f_{u \phi} \cos \phi -f_u \sin \phi -u^{-1} f_{\phi\phi} \sin \phi - u^{-1} f_{\phi} \cos \phi) \sin \phi \\ &=& f_{uu} \cos^2 \phi + 2 u^{-2} f_\phi \sin \phi \cos \phi - 2u^{-1} f_{\phi u} \sin \phi \cos \phi + u^{-1} f_u \sin^2 \phi + u^{-2}f_{\phi\phi} \sin^2 \phi \end{eqnarray}

ここで、`f` が `C^2`級であることから、`f_(phiu) = f_(uphi)` であることを用いた。次に、`f_(yy)` を求めよう。

\begin{eqnarray} f_{yy} &=& (f_y)_u \sin \phi +u^{-1} (f_y)_\phi \cos \phi \\ &=& ( f_u \sin \phi +u^{-1} f_\phi \cos \phi )_u \sin \phi +u^{-1} (f_u \sin \phi +u^{-1} f_\phi \cos \phi)_\phi \cos \phi \\ &=& ( f_{uu} \sin \phi -u^{-2} f_\phi \cos \phi + u^{-1} f_{\phi u} \cos \phi) \sin \phi +u^{-1} (f_{u \phi} \sin \phi +f_u \cos \phi +u^{-1} f_{\phi\phi} \cos \phi - u^{-1} f_{\phi} \sin \phi) \cos \phi \\ &=& f_{uu} \sin^2 \phi - 2 u^{-2} f_\phi \sin \phi \cos \phi + 2u^{-1} f_{\phi u} \sin \phi \cos \phi + u^{-1} f_u \cos^2 \phi + u^{-2}f_{\phi\phi} \cos^2 \phi \end{eqnarray}

ここで `f_(xx)` と `f_(yy)` の和を計算すべく、計算結果の右辺の各項を比べると、第 2 項、すなわち `f_phi` の項と第 3 項、すなわち `f_(phiu)` の項は和をとると打消しあって 0 になることがわかる。計算すると、

\begin{eqnarray} f_{xx} + f_{yy} &=& f_{uu} (\cos^2 \phi + \sin^2 \phi) +u^{-1} f_u(\sin^2 \phi + \cos^2 \phi ) + u^{-2} f_{\phi \phi} (\sin^2 \phi + \cos^2 \phi) \\ &=& f_{uu} + u^{-1} f_u + u^{-2} f_{\phi \phi} \end{eqnarray}

が得られる。先の「基礎解析Ⅱ」のことば、途中の複雑さに比較すれば,結果は簡単な式になる.の通りだ。これで第1ステップは終わりだ。次は第2ステップだ。

第1ステップと第2ステップとでは、`u -> r, phi -> theta` の対応関係がある。したがって、`f_(zz) + f_(u u)` がすぐに求まる。

`f_(zz)+f_(u u) = f_(rr) + r^-1f_r + r^-2f_(thetatheta)`

もう一つ、用意しておく式がある。`square` を使った第2式を再掲する。

`square_y = square_u sin phi + u^-1 square_phi cos phi`。

この式の `u, y, phi` の関係は、極座標の図をよく見るとそのまま `r, u, theta` の関係に置き換えられる。したがって、`square = f` として `f_u` に関する次の式が成り立つ。

`f_u = f_r sin theta + r^-1 f_theta cos theta`。

では、まず、`f_(x x) + f_(yy) + f_(zz)+f_(u u)` を計算する。

`f_(x x) + f_(yy) + f_(zz)+f_(u u) = f_(u u) + u^-1 f_u + u^-2 f_(phiphi) + f_(rr) + r^-1f_r + r^-2f_(thetatheta)`
`f_(x x) + f_(yy) + f_(zz) = u^-1 f_u + u^-2 f_(phiphi) + f_(rr) + r^-1f_r + r^-2f_(thetatheta)`

もう少しだ。`f_u`に関する式と、(A.2) の第2式 `u = rsintheta` を使って `u` を消去する。

なっとくシリーズ

書誌情報

書名 なっとくする演習・量子力学
著者 小暮陽三
発行日 2000 年 12 月 10 日 第 1 刷発行
発行元 講談社
定価 2700 円(本体)
サイズ A5 判 272 ページ
ISBN 4-06-154531-0
備考 越谷市立図書館で借りて読む

まりんきょ学問所読んだ本の記録 > 小暮陽三 : なっとくする演習・量子力学


MARUYAMA Satosi