中田宗隆 : なっとくする機器分析

作成日 : 2024-04-19
最終更新日 :

概要

「はじめに」から引用する。

この本では,研究者だけではなく,一般の社会人でも分析機器の原理と基本を理解できるように,わかりやすく説明することに心がけた.

機器分析

機器分析で思い出したのは、私の学生時代に卒業論文を書くための実験と、社会人になって最初に入った会社での体験である。 学生では物理的な分析をして、会社では化学的な分析をした。会社では物理や化学の分析を専門に行なう部署があって、少しだけだがいろいろな実習をしたのだった。そのときのことを思い出しながら本書を紹介する。

顕微鏡

第1章は 3 種類の顕微鏡について説明されている。透過電子顕微鏡、走査電子顕微鏡、走査プローブ顕微鏡である。走査プローブ顕微鏡(SPM : Scanning Probe Microscope)というのは聞き慣れないことばだ。 そう思っていたら、トンネル電流を測るプローブを使う SPM が走査トンネル顕微鏡(STM : Scanning Tunneling Microscope)であることを本書で知った。そういうことか。 ということはトンネル電流以外の原理でプローブを使うものもあるはずだ。そう思って本書を読み進めると原子間力をプローブに使う方式も紹介されていて、 これは原子間力顕微鏡(AFM : Atomic Force Miscroscope)と呼ばれることがわかった。

私が入った会社で行った顕微鏡の実習では、光顕(光学顕微鏡のことをこのように略する)のほか、 電顕(電子顕微鏡のことをこのように略する)もあった。光顕は材料試験を行う部署での実習だったが、電顕の実習は分析の部署に行った。透過電顕の試料を作るのは非常に難しかった覚えがある。 走査電顕の像を見たときには妙に感動した覚えがある。 SPM は実習を行った当時は分析の部署にはなかったが、数年後に分析の部署ではなく表面処理の部署が STM を購入したというので見に行った覚えがある(装置を見ただけである)。 また、私が学生時代所属していた研究室を卒業後訪問したとき、苦労して作った SPM が試運転中だったことを思い出した。

マイクロプローブ

第2章は組成分析用のマイクロプローブについて述べられている。最初に登場するのはオージェ電子分光法(AES : Auger Electron Spectrocopy)である。私は卒業実験でこれを使ったのだが、 すっかりその原理を忘れていた。おまけに、どのような用途で使ったのかも忘れていた。心の余裕ができれば、AES の原理を学びたいと思っている。いや、すぐに本書で学べばいいのではないか、 と思う人がいるかもしれない。実際、そうなのだが、やる気が出ない。

回折装置

第3章は回折装置である。 本章の pp.97-98 で高電圧の危険性について述べられている。 著者は、深夜に実験を開始してからのことをこう回想している。

草木も眠る丑三つ時に実験を開始する.人の話し声などは聞こえず,実験室の中は油回転ポンプと油拡散ポンプの単調な音だけが響いている. そういえば,昨日は電子銃のタングステンフィラメントをつけかえたことを思い出す.電子銃の位置を調整しなければならない. 装置の前の椅子に登り,位置を調整するためのねじをゆっくりと動かし始める.その数センチ上には 50 kV の高電圧のかかった金属カップがむき出しになっている.
「触ったら死ぬ」

それはわかっている.しかし,なぜかは知らないが,触ってはいけないと強く思えば思うほど,触りたいという誘惑が泉のように湧き上がってくる.まるで,悪魔のささやきである.

無事に実験が終わり,朝になり,実験室にやってきた先輩にそのことを話すと,
「大丈夫だよ,電流は少ないから感電して死ぬことはないよ」

との答え.私がほっとしたのもつかの間,
「だけど,高電圧で弾き飛ばされて,壁に頭をぶつけて死ぬかもしれないよ」

どこまで本当のことだったのか,いまだによくわからない.

私が AES とともに卒業実験でお世話になった低速電子線回折(LEED : Low Energy Electron Diffraction)もこの章で述べられている。 実は私も、上記引用文とほぼ同じ状況で、LEED のむき出しの端子に 40 kV の高電圧を触ってしまったことがある。 触りたくて触ったのではなくて、電子銃の調子がおかしいので接触がだいじょうぶだろうかと思って端子を触ってしまったのだった。 触った瞬間は、高電圧で弾き飛ばされという感覚はなく、むしろ触った端子に吸い寄せられるような感覚を味わった。 これは危ないと感じてあわてて手を離した。弾き飛ばされたのではなく自ら力を込めて離れたので頭を打つとかはなかった。ただ、指にやけどのあとが一週間程度残っていた。

分光光度計

第4章は分光光度計について紹介されている。ただ、この章にある装置は、学生のときも社会人のときもお世話になったという印象がない。 本書にあるフーリエ変換赤外分光光度計( FT-IR : Fourier Transform Infrared Spectrophtometer)の名前は会社で何度も聞いたのでひょっとしたらお世話になったかもしれないが、 どんなときにお世話になったのか、具体的な事例が思い出せない。

磁気共鳴

第5章は磁気共鳴についての各種手法が述べられている。前の章と同様、ここの章にある装置は、学生のときも社会人のときもお世話になったという印象がない。 ただ、NMR の応用例である医療用 MRI については、二度目の会社でよく画像を見てきた。ただし私は、装置を見学したことがあるのみで、 自分で被検者になって MRI 画像をとってもらったことは一度もない。

質量分析

第6章は質量分析について解説されている。ただ、ここも学生時代も、社会人時代も、直接の縁はなかった。原理を理解したいと思うが、もう無理だろうな。

述べられていない機器分析

最初の社会人生活を過ごした会社で私が入り浸っていた実験棟は、居室のある研究棟から最も遠いところにあった。 この実験棟には私の研究設備とともにメスバウアー分光の装置があり、専任の研究者がやはりこの棟に入り浸っていた。私の実験はいやだったが、 この棟で過ごす時間は少なくとも安らいでいた。

なっとくシリーズ

書誌情報

書名 なっとくする機器分析
著者 中田宗隆
発行日 2007 年 1 月 20 日 第 1 刷発行
発行元 講談社
定価 2700 円(本体)
サイズ A5 判 226 ページ
ISBN 978-4-06-154570-0
備考 草加市立図書館で借りて読む

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MARUYAMA Satosi