HM's Page

2004年台風15号による秋田県水稲の塩害(潮風害)




 2004年日本列島に上陸した台風は、気象庁の統計開始以来最多の10個となり、連日台風被害に関するニュースが報道された。昨年の台風は西日本に上陸または接近後、北日本を指向して北東進する事例が多く、秋田県でも相次ぐ台風の接近で、各方面で風水害に見舞われた。
 なかでも、8月20日の台風15号は、対馬海峡通過後、勢力を保ったまま日本海中部を通り、津軽半島に上陸したため、東北地方日本海側では猛烈な風が吹き、秋田市では統計開始以来第3位となる最大瞬間風速41.1m/sを記録するなどした。
 この暴風のため、県内の沿岸部(県北の能代山本地方を除く)では、水稲などに深刻な塩害(潮風害)が発生した。
 この塩害は、秋田県としては過去に例がないほど深刻なものであり、象潟町では10a当たりの平均収量が50kg(12月20日農水省発表)となり、例年の10分の1以下となった。また、水稲被害額は大潟村1村で60億円、秋田県全体では157億円となり、秋田県中央部の作況指数(12月1日農水省発表)は69まで落ち込んだ。農水省の「秋田県中央部」の範囲とは、県中央から県南にかけての沿岸部のことであり、「ヤマセ」の影響を受けず、安定した収量が期待できる地域である。事実、これまで作況指数が90を下回ったことは、1970年以降では1993年の89、1回しかない。このように安定した収量を期待できる地域で、作況指数が70を下回り、所によっては、収量がゼロとなる水田が現れたのであるから、秋田県沿岸部の農業関係者の間には衝撃が走った。






図2 2004年台風15号の経路
国立情報学研究所北本朝展氏のデジタル台風(HP)から引用


 この著しい被害は、台風の接近に伴い日本海から吹きつけた強い潮風による塩害のためである。大しけの海上から暴風によって飛塩粒子が運ばれ、水稲に付着したものの、降水量が著しく少なく、台風通過後は晴天が続いたため、塩分が十分洗い流されなかったことが原因であると考えられている。


塩害(潮風害)発生の過程

@暴風により水稲の穂や葉茎が揺さぶられ、籾ずれ、葉の傷害、倒伏などが発生
A大しけの日本海から暴風によって運ばれてきた飛塩粒子が、水稲表面の傷に付着
B台風通過時の降水が極めて少なかったため、飛塩粒子が洗い流されず、塩分が水稲体内に侵入



観測記録 (8月20日)

@最大瞬間風速 (m/s)
  秋田
最大瞬間風速 41.1
起時の風向 SW
順位 3位
順位とは、官署及びアメダスでの観測値の統計開始以来の順位のことである。
気象データは気象庁HPから収集


A最大風速 (m/s)
  秋田 大潟 本荘
最大風速 23.2 18 20
起時の風向 SW SSW SW
順位 3位 1位 3位
順位とは、官署及びアメダスでの観測値の統計開始以来の順位のことである。
気象データは気象庁HPから収集


B有義波高の最大
  山形県温海
波高 8.19 m
周期 12.2 sec
起時 5h 
気象データは気象庁HPから収集


C日降水量(mm)
  秋田 大潟 本荘
20日 4.5 4 8
21日 なし 0 0
22日 なし 0 0
気象データは気象庁HPから収集


D日照時間 (h)
  秋田 大潟 本荘
20日 2.5 3.0 1.6
21日 11.5 10.6 11.3
22日 9.8 9.9 10.0
気象データは気象庁HPから収集


 台風15号は、佐渡島と山形県から秋田県の沿岸部に、過去に例がないほどの深刻な潮風害をもたらしたが、秋田県では強風時の風向が地域の収量の明暗を分けた。県北の能代山本地方では、強風時の風向が南であったため、飛塩粒子が陸上へ運ばれず、目立った塩害は発生しなかった。一方、風向が南西となった県中央部から県南沿岸部では収量ゼロの水田があるなど深刻な被害が発生した。たった数時間の強風時間帯の風向が地域の収量を左右したのである。
 新聞報道によると、塩害は水稲のほか街路樹や果樹など広範囲に及び、秋田市など沿岸部の街路樹では8月中に落葉が進み、9〜10月には新緑となった。また、県内第2位の規模を誇る天王町のナシ園でも8月中に落葉し、9月に花芽の7割が開花し幼果を実らせるなど、翌年の収穫は絶望的となった。
 潮風による塩害は、1回の嵐(数時間の強風)で、水稲の収量をゼロにしてしまうほど恐ろしい災害であり、いざという時のためにより効果の高い対処法の普及が望まれるところである。


 
 
※本稿は、日本気象予報士会会報「てんきすと」に掲載されたものに一部加筆修正を施してWEB用にまとめたものです。なお、水稲作況指数の地域別データは、東北農政局秋田統計・情報センターに照会して入手しました。また、台風経路図は、国立情報学研究所北本朝展氏のデジタル台風(HP)から、気象データは、気象庁(HP)から入手しました。