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Essay-1  絶滅危惧種の「地学」


2009/x/x 記


高校理科の選択科目で「地学」を開講している高校は少ない。私は高校に入学したら「地学」を履修したいと中学時代から思ってきたのだが、残念ながら私の出身高校では当時「地学」は開講されておらず、履修することができなかった。仕方なく、「地学」を開講している高校がある隣県の弘前市の教科書取扱書店まで教科書を買いにいった覚えがある。

平成21年度入学者向けのセンター試験(大学志望者の多くが受験する試験)で、地学Tを受験した人は25,921人であった。物理T、化学T、生物Tの受験者数は、それぞれ143,646人、200,411人、176,043人であるから、地学Iだけが、他の3科目より受験者数が著しく少ないのが実態だ。

2009年6月ごろ、私が所属する日本気象予報士会のメーリングリストで、「地学」は絶滅危惧種であることが話題になった。

その中で、宮城県のある高校の先生は、本業が「地学」であるにもかかわらず、「地学」を開講している高校が少ないため、ここ数年は、地学以外の科目を教えているとあった。この方によれば、教員の新規採用は化学や生物が多く、地学や物理は少ないのだそうだ。

また、安井至先生のホームページ「市民のための環境学ガイド」の記事「:高校生の理科と環境科学(06.07.2009)」の中で、「高校における新課程履修状況に関する平成18年度入学者を対象とした調査」の一部が紹介されている。これによれば、九州大学工学部入学者の高校地学の未履修率はほぼ100%である。驚くことに工学部の地球環境系の学生ですら高校地学をほぼ100%履修していない現状があるとのことだ。確かに、私が進学した大学でも理学部の地学系の学生ですら高校時代「地学」を履修したことがあるという人はあまり聞かない。

また同調査によれば、九州大学の教育学部入学者の高校理科の未履修率は、物理と地学は90%ほどだ。予報士会のMLでも触れられていたが、小中学校では、地球環境をきちんと教えることができる先生も時間もない」という話をあちらこちらで聞く。

高校時代、理系に進む生徒の多くは、私も含めて「物理」と「化学」の組み合わせで履修していた。これには、カリキュラムを組むうえで、理科だけ3科目も4科目も履修することはできないという学校側の事情もあろう。

これをカバーするべく、私は大学で専門課程に進む前の一般教養課程(1〜2年生)で、物理、化学、地学のほか、高校時代勉強していない生物も履修した。また実習は、地学実験、物理学実験のほか、生物学実験も選択することにした。実験を週3で入れたため、毎週3回の実験レポート提出で多忙になってしまったが、カエルの解剖実験なども初めて経験し、高校時代不足していた部分を少しばかり補うことができたと思う。また、専門外の基礎をかじることができ、自然現象を見るうえで、視野が広がったかもしれない。

ところで、大学で「地学」を専攻するのであれば、高校時代、物理や化学ではなく「地学」を履修しておくべきと思われるかもしれない。確かに、高校時代「地学」を履修していれば「なお可」ではある。 しかし、「地学」の基礎は、やはり、「数学」であり、「物理」であり、「化学」であり、「生物」である。このため、大学で「地学」を専攻したいのであれば、その基礎として、高校物理や高校化学は必須ではないかと思う。これにプラスして、地学や生物も履修していれば理想的だ。

復活はあるのか、高校地学?! 地球環境がこれまで以上に着目されているこの時代、中立的な立場の教科書で客観的に地球環境の基礎を勉強できる機会はぜひとも必要だ。 大学で理系に進学しない人であれば、高校地学を是非とも選択して欲しいものである。学校側も「地学」を開講して欲しいものである。 この世の中、高校地学の存在価値を認めることができる人はどれだけいるのだろうか?


参考資料
(独)大学入試センター 大学入試センターHP http://www.dnc.ac.jp
安井至 市民のための環境学ガイド http://www.yasuienv.net/