2013年4月に行った12回目の全国公立小中学校施設の「耐震改修状況調査」集計の結果、耐震化率は全国平均で88.9%となり、この一年間の伸び率は4.5%(前年は同じく4.5%増)になり、耐震性のない建物(耐震診断未実施含む)は前年の18,508棟から約5,000棟減少し、13,412棟になりました。
厳しい環境ながら、懸命に取り組み耐震化率100%を達成した設置者は、過半数の912(51.2%)となりました。
都道府県別の耐震化全国一は、昨年に続き99.2%の静岡県で愛知県99.0%、宮城県98.7%、東京都98.2%、三重県97.5%、山梨県97.2%、神奈川県97.1%、滋賀県96.7%、長野県95.1%、鹿児島県94.5%、熊本県94.4%、京都府94.1%、和歌山県93.8%、埼玉県93.1%、青森県91.8%、徳島県・宮崎県91.3%、岐阜県91.2%、秋田県90.5%、兵庫県91.0%と続き、90%台は21都府県となりました。最下位は、全国平均伸び率4.1%を2ポイント上回り68.6%とした広島県でした。
今回調査対象になったのは、12万460棟です。新耐震基準により昭和57年以降に建てられた5万2,736棟と昭和56年以前建築の6万7,724棟の内、耐震性ありと判明したか耐震改修を終えた建物5万1,181棟の合計10万7,048棟で、耐震化率は88.9%となりました。
今回は10%を超える伸びを示した府県はなく、5%を超える伸びを示したのは、栃木県(8.5%)埼玉県(7.2%)山形県(7.0%)、茨城県(6.9%)高知県(6.7%)熊本県(6.3%)広島県(6.1%)長崎県(6.1%)大分県(5.9%)山口県(5.8%)徳島県(5.5%)、奈良県(5.4%)の12県でした。
非耐震棟数は、大阪府(1,331棟)北海道(1,129棟)千葉県(891棟)広島県(745棟)茨城県(649棟)岡山県(525棟)福島県(513棟)福岡県(500棟)兵庫県(460棟)山口県(436棟)新潟県(387棟)長崎県(381棟)埼玉県(312棟)沖縄県(330棟)14の道府県で合計8,465棟となり、これは全国で残る非耐震建物の63%を占め、耐震化を進める上でこれらの道府県の取り組みが事業を左右することになります。
文部科学省
2013年4月
学校施設の耐震化調査
○ クリーム色は、昭和57年以降の新耐震基準で建てられ、保有水平耐力を持った建物の棟数。
○ 緑色は、耐震補強工事を完了したか耐震診断の結果Is値0.6以上の建物棟数。
○ 茶色は、56年以前の建物で耐震診断未実施か耐震補強工事未対応の建物の棟数。
文部科学省「平成25年4月・耐震改修状況調査」より
全国平均下回る
北九州市など7市
19の政令指定都市での耐震化の平均値は93.2%で全国平均よりも4.3%高くなりました。19,516 棟の内、耐震化工事を終えたものや耐震性が確認されたのは、18,181棟となりました。都道府県同様に、先進都市と遅れる都市の差はやはり大きくなっています。
2012年には、静岡市、浜松市、相模原市、仙台市、福岡市が100%達成となりましたが、今回、さいたま市、川崎市、名古屋市がこれに加わり、100%達成市は8市となりました。
平均を上回る大阪市(98.3%)、京都市(99.0%)、神戸市(99.3%)など上位11市と、全国平均を下回る7市に分かれます。その中で北九州市、広島市、岡山市、新潟市は70%台にとどまり大きな立ち後れとなっています。とりわけ259棟もの非耐震化棟数を残す北九州市の遅れは深刻です。
11の政令指定都市が抱える非耐震化建物棟数の合計は、1339棟に上り、全国の約10%となります。
今回の第12回調査で、耐震性なしと分類された全国公立小中学校の棟数は、13,412棟ありました。一次診断等は、耐震壁が多い建物に適用される耐震診断で学校では適用例は、少数です。優先度調査は、簡易診断法であるため、耐震補強工事の前提となる診断法とはなりません。なんらの診断が行われない441棟も危険判定としています。13,412棟からこれらを除いた、二次診断等の内訳グラフを下に示します。
耐震補強工事の前提となる10,796棟の2次診断等の結果は、大地震で倒壊の危険性高いと判断される校舎等は1,911棟、倒壊の危険性ありと判定される校舎等は、4,965棟と実に、6,876棟もの危険校舎が全国に残されています。
今回2次診断等を終えた10,796棟の建物の内、大地震で倒壊の危険が高いとされるIs値0.3以下の建物は、1,911棟(17.7%)、倒壊の可能性があるIs値0.3~0.5の建物4,965棟(46.0%)、Is値0.5~0.6の建物2,300棟(21.3%)で、大地震でも人命に被害がないとされるIs値0.6以上の建物は、1,620棟(15.0%)しかありませんでした。
文部科学省は、取り組みの初期において耐震改修を促進するために自治体技術職員でも行える耐震化優先度調査を奨励してきました。優先度調査は、コンクリートの劣化調査を行うものの、数段階の判定を重ね簡易判定するもので、耐震改修工事にかかるためには、構造計算を伴う一次診断、二次診断は欠かせません。
耐震診断でよく出てくる「Is値0.6」は、1968年の十勝沖地震と1978年の宮城県沖地震での建物被害と建物の耐震性評価を統計処理する作業の結果、定められました。
建物被害は、無被害(または軽微)から小・中・大破、倒壊と5分類します。建物の耐震性評価は、建物強度、粘り強さ、建物形状、経年状況などを総合的に判定して段階的に数値化し「耐震指標」とします。数字の小さいものから大きいものへ危険⇒安全となります。
その後、被害を受けた建物を「耐震指標」別に並べたものが、下のグラフです。中破以上の被害を受けた建物が、左下の山となります。全体の傾向を見ると耐震指標0.6以上(グラフの右側)では、中破以上の被害が無いことがハッキリと判ります。このような明確な傾向を示すポイントが閾値と言われ「Is値」となります。
1981年以前の建物に対して行われる現在広く行われている耐震化は、減災を目指すものです。
1981年施行の新耐震基準では、2段階の耐震性能を定めています。
1 中地震に対しては、構造的被害が軽微であること。例えば、鉄筋コンクリート造りの場合、1/200の変形に耐えて、構造耐力が維持されることを設計に当たり確認すること。
2 巨大地震に対しては、人命に被害がないように崩壊しないことを確認すること。
素人考えでは、新耐震基準ならどんな地震が来ても大丈夫と思いがちですが、100年に1回あるかどうかのために、そんなに費用をかける必要はないという話しです。
今回の震災の学校被害調査においても、震度6強のエリアで新耐震基準の校舎が厳しい判定を受けたり、新耐震基準相当の補強をしていた校舎が再補強が必要となる事例もありました。
倒壊して人命を失わないという目標は、ほぼ十分に達成しておりその有効性は証明されたといえます。
新耐震基準を策定する経過の裏話で、策定の最終段階で当時の建設省と大蔵省の官僚トップが協議して決めたということで、純粋な学問的裏付けにより最終判断されたのではないことは驚きです。
耐震改修促進法は、 1981年以前の建物の耐震改修を求め改修目標をIs値0.6として、2015年に耐震化率90%達成を目指しています。
十勝沖から宮城県沖にかけては、2つの地震以外にも三陸沖地震等マグニチュード8クラスの地震が繰り返し発生しています。1896年の明治三陸地震では、10mを超える津波が各地を襲い死者2万2千人、1万2千戸の建物等の巨大被害を被りました。
1968年3月の十勝沖地震では、北海道、青森県の被害が中心で「むつ市役所」の倒壊や八戸工業専門学校を始めとする教育施設、公共施設の近代建築物の鉄筋コンクリート柱の剪断破壊が修復不能となる大きな被害をもたらし、1971年の「建築基準法施行令」と「鉄筋コンクリート構造計算規準」の改正となりました。
1978年6月の宮城県沖地震は、初めて人口60万の大都市(仙台市)を震度5の地震が襲ったもので、住民生活とその基盤が大きく破壊され都市ガスの供給ストップ、地盤の液状化と建物倒壊、停電による信号機不全と交通渋滞、都市型災害に対する防災の課題をあきらかにしました。なにより全半壊建物の被害の大きさを受け、建築基準法が1981年大改正されました。
Is値0.6は、震度5程度の中地震において、中破以上の被害がない程度の耐震化であり、「無被害」や「軽微な被害」を目標に置いたものではないことを理解する必要があります。