文部科学省は、建物崩壊による大規模な人命被害を防ぐために学校施設の構造的耐震化対策を優先してきましたが、続いて外壁、内壁、内装材、設備の落下による被害を防ぐ非構造部材の耐震対策の取り組みを調査しました。今回の全国の公立小中学校施設の「耐震改修状況調査」では、全国公立小中学校3万21校の非構造部材耐震点検実施とその耐震対策状況を調査し、点検実施率は83.2%、対策実施率は60.2%となりました。
第12回調査では、耐震診断が99.8%、耐震化も88.9%に到達することになりました。設置者別では、全体の51.2%、912の自治体、組合が耐震化100%を達成しました。
財政力指数、人口規模と耐震化の関係分析
文部科学省は、財政を口実にする設置者が未だに残る中、財政力指数や人口規模と耐震化比率の関係を分析した資料(2011年5月)の公表も行い、財政力の弱い自治体が懸命の努力を行い耐震化事業達成のため奮闘したことを明らかにしました。
文部科学省は、耐震化率50%未満の設置者(87)、耐震性がない建物棟数が100棟以上を抱える設置者(20)、耐震診断未実施の建物を保有する設置者(187)、二次診断等未実施棟数の多い設置者下位50など、様々な手立てで財政事情を理由に児童・生徒の生命の安全に直結する学校施設の耐震化の遅れを正当化する自治体当局の姿勢転換を求めてきました。
大きく遅れる設置者への個別対応も行うなど、その政策実現の取り組みは回を重ねるほど詳細で、断固としたものに進化してきました。
その中で、短期間に立ち遅れを克服して耐震化率を大幅に引き上げる多くの設置者が現れるとともに、これまで耐震化事業を牽引してきた先進自治体も最終仕上げをやり遂げ、過半数の912設置者が100%到達となりました。
非構造部材耐震化が
問題点を白日に
全国で取り組まれてきた学校施設の耐震化は、コンクリート構造体である柱、梁、壁を補強することに主眼が置かれてきました。
とりわけ、耐震化率が厳しく問われる中で、耐震化率の数字を引き上げるために耐震指標の悪い危険な建物が、「工事費がかさむ」ために後回しにされる傾向が見られます。
優先度調査に見られるように倒壊の危険性の高い建物を早期に見つけ出して、倒壊の危険性のある建物を優先的に耐震化するはずのものが、費用がかかるために後回しにされたり、「工事が難しいから」と耐震化と切り離せない老朽化対策が放置されたままとなっています。
文部科学省が、緊急対策の次の重要課題と位置づける天井材、照明器具、窓ガラス、外装材、内装材、設備機器、家具等の非構造部材の耐震化の推進は、学校整備事業全体に大きな影響を与えることとなります。
12回を重ねた構造体の耐震化調査が次第に進化することで遅れた自治体が、「工事が長期化する」、「費用が多額すぎる」、「市債発行を極力しない」など様々な言い訳を行って、児童・生徒の生命保護の課題に正面から向き合わない実態を白日の下にし、責任が問われる事態になったことを一層明確な形で再現することになるでしょう。
現場管理職員削減響く
非構造部材の耐震性の点検は、構造体の耐震診断とは異なり、一定の研修を受ければ自治体技術職員でも出来るものです。
設計図書を確認し、図面通りの現場施工が行われているか、維持管理の水準と老朽化を現場で点検することになります。
外装材のモルタル、タイル、パネル等が安全な状態であるか等は、日頃からの学校施設の安全管理業務の一部となっているはずですから、学校現場をよく知る職員なら一定のレベルの点検は可能と言えます。
自治体は住民生活を支える多くの現場部門を抱えていますが、国、府県、市町村で現在取り組まれる「行政改革」は、現場の事情を知らない行政管理を進める部局が全国一律の手法を絶対視して取り組んできました。住民のための現場を支える必要な職員を軽視し、現場要員を削減してきたことが、「職員の業務量的に困難」という回答になっています。
「緊急性が低いと判断」するのは、「住民の幸せ無くして、自治体労働者の幸せは無い」という私たちの綱領、理念からは考えらません。
文部科学省「平成25年4月・耐震改修状況調査」より
1995年1月の阪神・淡路大震災を受けて同年6月、政府は公共建物の耐震診断を急ぐ必要性を認め、「耐震改修促進法」を施行するとともに、「地震防災事業五箇年計画」を策定してそれまで特定地域に対して行っていた耐震工事事業への補助を全国対象に広げ、かつ耐震診断と耐力度調査の費用に対しても国庫補助を行うこととしました。
しかし、2002年5月実施された初めての全国調査では、震災から8年が経過したにもかかわらず、耐震診断すら大きく立ち後れていることが明らかになりました。
文部科学省は、この調査結果を受け2002年7月31日付けで「公立学校施設の耐震診断実施計画の策定について」において、都道府県教育委員会に公立学校の耐震性能の把握と耐震診断実施計画の策定を依頼し、全国的な取り組みの強化を図りました。17年度までに全ての公立学校施設の耐震診断を終えようと簡易優先度調査を専門家会議の強力を得て提起する等、上のグラフを見れば、文部科学省の粘り強い取り組みはようやく最終段階を迎えました。
2006年1月施行された改正耐震改修促進法は、地方公共団体に対して耐震改修促進計画の立案を求め、とりわけ公共建築物については速やかな耐震診断の実施と、診断結果の公表、耐震改修整備プログラム策定を求め指示等の対象に幼稚園、小中学校、老人ホーム等を追加しました。特定建築物の規模要件を強化し、地方公共団体の指示に従わない特定建築物を公表するという内容は、自治体が自ら保有する公立小中学校の耐震化を遅らせる口実をなくしたのです。
耐震改修を求める各法令では、結果の公表を求めていますが改正耐震改修促進法は様々な口実で公表を避ける自治体等の学校設置者の姿勢と責任を糾す上で大きな効果をあげました。
四川大地震における学校施設の倒壊と人命の被害を受け、2008年「地震防災対策特別措置法」(6月)と「教育振興基本計画」(7月)が策定・施行され、地震によって倒壊の危険性の高い公立小中学校施設1万棟を5年計画で優先して耐震化を図ることとし、Is値0.3未満の建物については、補助率を1/2から2 /3へ引き上げるなど前倒しのための予算措置を20年補正予算、21年当初予算、21年補正予算と国としての財源的措置は十分に行ってきたと言えます。また、公債費償還金への補助も加え、実質自治体負担は、10%を切る水準となっています。
耐震化の課題だけに留まらず、急速な住宅開発により開設された学校の維持管理の負担は増大し老朽化が深刻です。学校施設耐震化の遅れる市町村を現状の水準で放置したまま地方への財源移転が行われ、国が責任を負うべき義務教育施設の安全性は深刻な打撃を受けつつあります。