2008年6月文部科学省は、2008年4月に行った7回目になる全国公立小中学校施設の「耐震改修状況調査」の集計結果を公表しました。一昨年から耐震化の取り組みを放棄している自治体名が公表され、昨年は2次診断等の結果を明らかにしました。
改正耐震改修法を受け、地方公共団体は保有する公共施設の耐震化の取り組みを強めなければならなくなり、診断結果と学校名の公表についても迫る立場を鮮明にしました。過半数に当たる981の設置者が学校名を住民に明らかにしています。
調査の対象は、2階以上または延べ床面積が200を超える非木造建物127,164棟でした。調査の結果、62.3%にあたる79,215棟が耐震性があることが明らかになりました。増加は昨年同水準の3.7%と微増にとどまりました。
耐震診断の実施率は、全国平均で89.4%から96.1%となり95%を越える都府県が24になり耐震診断の取り組みは完了期を迎えたと言えます。
これまで6回の調査結果は、都道府県による大きな格差が問題となっていましたが、昨年からさらに耐震診断実施率は全国的に大きく改善し70%未満の県が解消するだけでなく、70%台も2道県となりました。
調査は、都道府県教育委員会を通して全国の全ての公立小学校、中学校の学校にある建物の内で地震に対して危険性が大きい建物を指定し、学校施設を管理する市町村教育委員会に調査用紙を配付して行われました。
文部科学省は、前回の発表資料、都道府県別に各自治体の調査結果に加え数百万円の費用をかけた本格的な耐震診断(2次診断等)を行った18,806棟の結果の内訳を公表しました。
文部科学省「平成20年4月・耐震改修状況調査」より
1995年1月の阪神・淡路大震災を受けて同年6月、政府は公共建物の耐震診断を急ぐ必要性を認め、「耐震改修促進法」を施行するとともに、「地震防災事業五箇年計画」を策定してそれまで特定地域に対して行っていた耐震工事事業への補助を全国対象に広げ、かつ耐震診断と耐力度調査の費用に対しても国庫補助を行うこととしました。
しかし、2002年5月実施された初めての全国調査では、震災から8年が経過したにもかかわらず、耐震診断すら大きく立ち後れていることが明らかになりました。
文部科学省は、この調査結果を受け2002年7月31日付けで「公立学校施設の耐震診断実施計画の策定について」において、都道府県教育委員会に公立学校の耐震性能の把握と耐震診断実施計画の策定を依頼し、全国的な取り組みの強化を図りました。17年度までに全ての公立学校施設の耐震診断を終えようとする3カ年計画を求めたものでした。
上の耐震診断実施の経過を示すグラフを見れば、3カ年計画のその後も文部科学省は粘り強く取り組みをすすめ一向に動かない市町村名の実情や本音まで明らかにしてきました。
府県別で見ると実施率70%以下の県はゼロになり、70%台は青森県と北海道でした。
2006年1月施行された改正耐震改修促進法は、地方公共団体に対して耐震改修促進計画の立案を求め、とりわけ公共建築物については速やかな耐震診断、結果の公表、整備プログラム策定を求め指示等の対象に幼稚園、小中学校、老人ホーム等を追加しました。特定建築物の規模要件を強化し、地方公共団体の指示に従わない特定建築物を公表するという内容は、自ら保有する公立小中学校の耐震化を遅らせる口実がなくなりました。
学校施設の耐震化の遅れは、自治体での抜本的な取り組み強化と国のさらなる財政支援が欠かせません。 大都市周辺の衛星都市では、急速な住宅開発により開設された学校において老朽校舎が膨大な規模で集積してきました。先験的な一部の地方公共団体では、計画的な建て替え事業や大規模改造事業を通して耐震化を進めて来ましたが、財政状況の良好であった地方公共団体でも根本的な計画を欠いたために膨大な隠れた不良債権として学校施設が存在することになっています。
学校施設耐震化の遅れる市町村を現状の水準で放置したまま地方への財源移転が行われ、国が責任を負うべき義務教育施設の安全性は深刻な打撃を受けつつあります。
08年5月の中国・四川大地震における学校施設の被害の広がりが日本においても学校施設の安全対策の遅れを指摘する声が広がり、補助率の引き上げと専門家派遣など自治体に不足する有効な支援策が課題となっています。