2009年4月に行った8回目の全国公立小中学校施設の「耐震改修状況調査」の集計結果、耐震化率は全国平均で67.0%となり、この一年間の伸び率は最大の4.7%に達しました。
耐震化全国一は、93.4%の神奈川県で、宮城県と静岡県が90.1%と続き、90%台は3県となりました。耐震化80%台には三重県、山梨県、愛知県、東京都の4都県。同じく70%台に滋賀県、長野県、宮崎県、京都府、岐阜県、沖縄県の6府県が入りました。
一方で、3,103棟と大阪府が突出した未実施棟数を抱えることをはじめ、北海道、福岡県、千葉県など12道県で1000棟を超える未実施棟数が残っています。
今回調査対象になったのは、12万4,976棟。新耐震基準により建築された昭和57年以降に建てられた5万180棟と昭和56年以前建築の7万4,796棟の内、耐震性ありと判明したか耐震改修を終えた建物3万3,590棟の合計8万3,770棟、67.0%の耐震化となりました。
耐震化の高い順で70%台のまでの都道府県名と耐震化率を挙げると以下のようになります。神奈川県93.4%,宮城県、静岡県90.1%、三重県89.0%、山梨県86.6%、愛知県86.5%、東京都82.6%、滋賀県78.2%、長野県76.0%、宮崎県75.0%、京都府73.7%、岐阜県72.1%、沖縄県71.0%合計13都府県となります。
平均値周辺の60%台の府県は、16となり、逆に低い50%台は15県、40%台に留まるのは山口県と長崎県の2県です。耐震化の深刻さを表す数字は、「未対策棟数」で、大阪府は3,000棟を超える膨大な建物数を抱えています。北海道2,725棟、福岡県2,252棟、千葉県1,917棟、兵庫県1,701棟、埼玉県1,672棟、茨城県1,472棟、新潟県1,376棟、広島県1,276棟、岡山県1,020棟、福島県1,008棟と11道府県だけで1万9,526棟となっています。
2009年4月
学校施設の耐震化調査
○ クリーム色は、昭和57年以降の保有水平耐力を持った建物の棟数。
○ 緑色は、耐震補強工事を完了したか耐震診断の結果Is値0.6以上の建物棟数。
○ 茶色は、56年以前の建物で耐震診断未実施か耐震補強工事未対応の建物の棟数。
文部科学省「平成21年4月・耐震改修状況調査」より
全国平均下回る
さいたま市など8市
財政基盤の強いはずの15の政令指定都市ですら、耐震化の平均値は77.4%で全国平均よりも10%高くなりました。16,389 棟の内、耐震化工事を終えたものや耐震性が確認されたのは、12,692棟となりました。都道府県同様に、先進都市と遅れる都市の差はやはり大きくなっています。
最も耐震化が進んでいるのは、名古屋市で昨年と同じ99.7%でした。
平均を上回る名古屋市、静岡市(98.0%)、仙台市(98.7%)、大阪市(90.8%)、横浜市(92.0%)、川崎市(94.3%)、京都市(84.3%)など上位7市と、出遅れている全国平均を大きく下回る北九州市の35.2%をはじめとする8市との格差があります。
2002年文部科学省が初めての全国調査を行い、児童生徒の安全に対して無責任とも言える状況が全国的に広がっていることが明らかになりましたが、今回の第8回調査では、耐震化の歩みが本格化する兆しが全国的に見られます。一年間に耐震化率を10%前後向上させる政令指定都市や中核都市等の対象棟数を多く抱える自治体がありました。
95%を超えて終了段階目前になった耐震診断実施率ですが、建物の強度、粘り、形状、経年状況を判定し、明確な耐震指標を明らかにし、耐震実施設計を行うためには数百万円単位の予算が必要な二次診断・三次診断は欠かせません。
今回の調査報告では、全国で2次診断等を終えた18,883棟の建物の内、大地震で倒壊の危険があるとされるIs値0.3以下の建物は、4,328棟(23.1%)、Is値0.3~0.5の建物8,739棟(46.3%)、Is値0.5~0.6の建物3,344棟(17.7%)で、大地震でも人命に被害がないとされるIs値0.6以上の建物は、わずか2,444棟(12.9%)しかありませんでした。
Is値とは、1981年以降の新耐震基準の設計法と異なる古い建物の耐震性を評価するために建物の強度、粘り、形状、経年状態等を評価して出される耐震指標です。
耐震診断でよく出てくる「Is値0.6」は、1968年の十勝沖地震と1978年の宮城県沖地震での建物被害と建物の耐震性評価を統計処理する作業の結果、定められました。
建物被害は、無被害(または軽微)から小・中・大破、倒壊と5分類します。建物の耐震性評価は、建物強度、粘り強さ、建物形状、経年状況などを総合的に判定して段階的に数値化し「耐震指標」とします。数字の小さいものから大きいものへ危険⇒安全となります。
その後、被害を受けた建物を「耐震指標」別に並べたものが、下のグラフです。中破以上の被害を受けた建物が、左下の山となります。全体の傾向を見ると耐震指標0.6以上(グラフの右側)では、中破以上の被害が無いことがハッキリと判ります。このような明確な傾向を示すポイントが閾値と言われ「Is値」となります。
耐震改修促進法は、 1981年以前の建物の耐震改修を求め改修目標をIs値0.6として、2015年に耐震化率90%達成を目指しています。
十勝沖から宮城県沖にかけては、2つの地震以外にも三陸沖地震等マグニチュード8クラスの地震が繰り返し発生しています。1896年の明治三陸地震では、10mを超える津波が各地を襲い死者2万2千人、1万2千戸の建物等の巨大被害を被りました。
1968年3月の十勝沖地震では、北海道、青森県の被害が中心でしたがむつ市役所の倒壊や八戸工業専門学校を始めとする教育施設、公共施設の近代建築物の鉄筋コンクリート柱の剪断破壊が修復不能となる大きな被害をもたらし、1971年の「建築基準法施行令」と「鉄筋コンクリート構造計算規準」の改正となりました。
1978年6月の宮城県沖地震は、初めて人口60万の大都市(仙台市)を震度5の地震が襲ったもので、住民生活とその基盤が大きく破壊され都市ガスの供給ストップ、地盤の液状化と建物倒壊、停電による信号機不全と交通渋滞、都市型災害に対する防災の課題をあきらかにしました。なにより全半壊建物の被害の大きさを受け、建築基準法が1981年大改正されました。
Is値0.6は、震度5程度の中地震において、中破以上の被害がない程度の耐震化であり、「無被害」や「軽微な被害」を目標に置いたものではないことを理解する必要があります。