2011年4月に行った10回目の全国公立小中学校施設の「耐震改修状況調査」集計の結果、耐震化率は全国平均で80.3%となり、この一年間の伸び率はこれまでで最大の7.0%(11年は6.3%増)に達し、耐震性のない建物(耐震診断未実施含む)は前年の33,134棟から約10,000棟減少し、22,911棟になりました。3月11日発生した、東日本大震災の影響を受け、岩手、宮城、福島の東北3県は、集計から除かれています。
都道府県別の耐震化全国一は、98.2%の静岡県で、神奈川県97.7%、愛知県95.5%、三重県95.2%、東京都94.1%、山梨県93.7%、滋賀県91.1%と続き、90%台は7都県となりました。耐震化80%台には長野県、京都府、香川県、鹿児島県、和歌山県、岐阜県、熊本県、宮崎県、青森県、秋田県、兵庫県の11府県でした。
最下位は、59.1%の広島県で、山口県61.7%、茨城県64.1%と続きました。
東日本大震災の影響のため、岩手県、宮城県、福島県が調査集計から除かれ、今回調査対象になったのは、11万6,397棟(前年は12万4,038棟)です。新耐震基準により昭和57年以降に建てられた4万8,583棟と昭和56年以前建築の6万7,814棟の内、耐震性ありと判明したか耐震改修を終えた建物4万4,903棟の合計9万3,486棟で、耐震化率は80.3%となりました。この1年間に耐震補強工事が行われた学校施設は、5,000棟を上回ります。
昨年調査と内容を比較すると、高い耐震化率を達成している保有棟数の多い東京都、神奈川県、愛知県等の都県が引き続き耐震化のための取り組みを進めていることに加え、対前年比で見ると熊本県(16.5%)、青森県(13.6%)香川県(13.0%)、徳島県(12.6%)、秋田県(11.5%)、長崎県(10.9%)、高知県(10.4%)、滋賀県(10.0%)、山形県(10.0%)等の急速な取り組みを示した県の取り組みが、過去最大の7.0%という伸び率を生み出したことが明らかになります。
耐震化が必要な建物は、22,911棟ありますが、今後の耐震化の取り組みを考えると「未対策棟数」の大きな府県の取り組みが問題となります。大阪府2,055棟、北海道1,765棟、千葉県1,408棟、福岡県1,152棟、埼玉県1,022棟、茨城県1,050棟と1.000棟を超える6道府県だけで8,452棟となっています。
2011年4月
学校施設の耐震化調査
○ クリーム色は、昭和57年以降の保有水平耐力を持った建物の棟数。
○ 緑色は、耐震補強工事を完了したか耐震診断の結果Is値0.6以上の建物棟数。
○ 茶色は、56年以前の建物で耐震診断未実施か耐震補強工事未対応の建物の棟数。
文部科学省「平成23年4月・耐震改修状況調査」より
全国平均下回る
北九州市など9市
18の政令指定都市での耐震化の平均値は86.4%で全国平均よりも6.1%高くなりました。16,047 棟の内、耐震化工事を終えたものや耐震性が確認されたのは、13,970棟となりました。都道府県同様に、先進都市と遅れる都市の差はやはり大きくなっています。
2010年には、静岡市が政令指定都市では初めて100%を達成しましたが、今回、浜松市と新たに加わった相模原市が100%達成となりました。一昨年トップの名古屋市は、微増にとどまる99.8%でした。
平均を上回る川崎市(98.7%)、大阪市(97.7%)、横浜市(96.2%)、京都市(93.8%)、神戸市(92.4%)、福岡市(86.6%)など上位9市と、全国平均を大きく下回る北九州市の48.9%をはじめとする9市との格差があり、二極化の傾向が見られます。震災の影響を受け、仙台市の調査結果が除かれています。
2002年文部科学省が初めての全国調査を行い、児童生徒の安全に対して無責任とも言える状況が全国的に広がっていることが明らかになりましたが、今回の第10回調査では、前年を上回る過去最大の伸びがあり、耐震化率も80%になりました。耐震診断も簡易な「耐震化優先度調査」から耐震化工事を前提にした一次診断、二次診断等の比率が高まり診断精度が上がるにつれ、震度6強または震度7の巨大地震で倒壊または崩壊する危険のあるIs値0.3以下の建物比率が高くなる傾向にあります。
全国で2次診断等を終えた16,117棟の建物の内、大地震で倒壊の危険があるとされるIs値0.3以下の建物は、3,229棟(20.0%)、Is値0.3~0.5の建物7,599棟(47.2%)、Is値0.5~0.6の建物3,125棟(19.4%)で、大地震でも人命に被害がないとされるIs値0.6以上の建物は、2,163棟(13.4%)しかありませんでした。一次診断された建物棟数は、全国では1,664棟に留まり、診断結果は0.3以下363棟(21.8%)、0.3〜0.5は811棟(48.7%)、0.5〜0.8は405棟(24.4%)、0.8以上は85棟(5.1%)でした。文部科学省は、耐震改修を促進するために自治体技術職員でも行える耐震化優先度調査を奨励してきました。一次診断は、鉄筋コンクリート構造で耐震壁の多い建物の耐震診断に適用され、二次診断はそれ以外の建物を対象とします。優先度調査は、コンクリートの劣化調査を行うものの、数段階の判定を重ね簡易判定するもので、精密な構造計算を基に行うものではありません。
耐震診断でよく出てくる「Is値0.6」は、1968年の十勝沖地震と1978年の宮城県沖地震での建物被害と建物の耐震性評価を統計処理する作業の結果、定められました。
建物被害は、無被害(または軽微)から小・中・大破、倒壊と5分類します。建物の耐震性評価は、建物強度、粘り強さ、建物形状、経年状況などを総合的に判定して段階的に数値化し「耐震指標」とします。数字の小さいものから大きいものへ危険⇒安全となります。
その後、被害を受けた建物を「耐震指標」別に並べたものが、下のグラフです。中破以上の被害を受けた建物が、左下の山となります。全体の傾向を見ると耐震指標0.6以上(グラフの右側)では、中破以上の被害が無いことがハッキリと判ります。このような明確な傾向を示すポイントが閾値と言われ「Is値」となります。
1981年以前の建物に対して行われる現在広く行われている耐震化は、減災を目指すものです。
1981年施行の新耐震基準も、2段階の耐震性能を定めています。
1 中地震に対しては、構造的被害が軽微であること。例えば、鉄筋コンクリート造りの場合、1/200の変形に耐えて、構造耐力が維持されることを設計に当たり確認すること。
2 巨大地震に対しては、人命に被害がないように崩壊しないことを確認すること。
素人考えでは、新耐震基準ならどんな地震が来ても大丈夫と思いがちですが、100年に1回あるかどうかのために、そんなに費用をかける必要はないという話しです。
新耐震基準を策定する経過の裏話で、策定の最終段階で当時の建設省と大蔵省の官僚トップが協議して決めたということで、純粋な学問的裏付けにより最終判断されたのではないことは驚きです。
耐震改修促進法は、 1981年以前の建物の耐震改修を求め改修目標をIs値0.6として、2015年に耐震化率90%達成を目指しています。
十勝沖から宮城県沖にかけては、2つの地震以外にも三陸沖地震等マグニチュード8クラスの地震が繰り返し発生しています。1896年の明治三陸地震では、10mを超える津波が各地を襲い死者2万2千人、1万2千戸の建物等の巨大被害を被りました。
1968年3月の十勝沖地震では、北海道、青森県の被害が中心でしたがむつ市役所の倒壊や八戸工業専門学校を始めとする教育施設、公共施設の近代建築物の鉄筋コンクリート柱の剪断破壊が修復不能となる大きな被害をもたらし、1971年の「建築基準法施行令」と「鉄筋コンクリート構造計算規準」の改正となりました。
1978年6月の宮城県沖地震は、初めて人口60万の大都市(仙台市)を震度5の地震が襲ったもので、住民生活とその基盤が大きく破壊され都市ガスの供給ストップ、地盤の液状化と建物倒壊、停電による信号機不全と交通渋滞、都市型災害に対する防災の課題をあきらかにしました。なにより全半壊建物の被害の大きさを受け、建築基準法が1981年大改正されました。
Is値0.6は、震度5程度の中地震において、中破以上の被害がない程度の耐震化であり、「無被害」や「軽微な被害」を目標に置いたものではないことを理解する必要があります。