2008年6月文部科学省は、2008年4月に行った7回目の全国の公立小中学校施設の「耐震改修状況調査」の集計結果を公表しました。一昨年から耐震化の取り組みを放棄している自治体名の公表や耐震診断の内容(優先度調査、一次診断、二次診断)とその結果についての集計も公表するようになりました。
耐震化工事に不可欠な二次診断は、全体の43.6%と財政難の中ながら着実な前進となっています。
調査の対象は、2階以上または延べ床面積が200を超える非木造建物127,164棟でした。調査の結果、62.3%にあたる79,215棟が耐震性があることが明らかになりました。耐震診断の実施率は、96.1%となりました。
今回、耐震診断実施率は全国的に大きく改善し70%未満の県は解消しただけでなく95%以上の都府県が24を越え、耐震診断実施率を追究する課題は2次診断の実施と速やかな耐震化になりました。
文部科学省は自治体技術職員でも実施できる耐震化優先度調査による早急な取り組みを進め、実際に財政難のため耐震診断が滞る自治体での診断率引き上げに大きな役割を果たしてきました。
43,109棟で実施された耐震診断の内、二次診断が行われたものは18806 棟、43.6%に留まっています。
2008年4月
学校施設の耐震化調査
○ クリーム色は、昭和57年以降の保有水平耐力を持った建物の棟数。
○ 緑色は、耐震補強工事を完了したか耐震診断の結果Is値0.6以上の建物棟数。
○ 茶色は、56年以前の建物で耐震診断未実施か耐震補強工事未対応の建物の棟数。
文部科学省「平成20年4月・耐震改修状況調査」より
1995年1月の阪神・淡路大震災を受けて同年6月、政府は公共建物の耐震診断を急ぐ必要性を認め、「耐震改修促進法」を施行するとともに、「地震防災事業五箇年計画」を策定してそれまで特定地域に対して行っていた耐震工事事業への補助を全国対象に広げ、かつ耐震診断と耐力度調査の費用に対しても国庫補助を行うこととしました。
しかし、2002年5月実施された初めての全国調査では、震災から8年が経過したにもかかわらず、耐震診断すら大きく立ち後れていることが明らかになりました。
文部科学省は、この調査結果を受け2002年7月31日付けで「公立学校施設の耐震診断実施計画の策定について」において、都道府県教育委員会に公立学校の耐震性能の把握と耐震診断実施計画の策定を依頼し、全国的な取り組みの強化を図りました。17年度までに全ての公立学校施設の耐震診断を終えようとする3カ年計画を求めたものでした。
19年4月調査までの耐震診断実施の経過を示すグラフを見れば、3カ年計画のその後も文部科学省は粘り強く取り組みをすすめ一向に動かない市町村名の実情や本音まで明らかにし一気に89.4%と目標達成が見えてきました。
府県別で見ると実施率70%以下の県はゼロになり、70%台は青森県と北海道の2道県となりました。
地震防災対策特別措置法改正でだめ押し
2006年1月施行された改正耐震改修促進法は、地方公共団体に対して耐震改修促進計画の立案を求め、とりわけ公共建築物については速やかな耐震診断、結果の公表、整備プログラム策定を求め指示等の対象に幼稚園、小中学校、老人ホーム等を追加しました。特定建築物の規模要件を強化し、地方公共団体の指示に従わない特定建築物を公表するという内容は、自ら保有する公立小中学校の耐震化を遅らせる口実がなくなったといえます。
2008年6月地震防災対策特別措置法改正が行われ、財政支援策としてIs値0.3未満の耐震補強工事への補助率が2分の1から3分の2に、改築工事への補助率が3分の1から2分の1に引き上げられる一方、耐震診断の実施と結果の公表が義務づけられました。また、専門家の人材紹介などこれまでにない対策も動こうとしています。
2008年4月
学校施設の耐震診断実施についての全国調査
○ クリーム色は、昭和56年以前の建物で耐震診断未実施の棟数。
○ 茶色は、56年以前の建物で耐震診断実施建物の棟数。
前年の第5回全国調査に比べ、耐震診断は一気に加速して最終段階になったことが分かります。
耐震診断の多くが文部科学省の提起した優先度調査で行われたとは言え、実際にはコンクリートの抜き取り検査を省略して行われた自治体も多く、1棟あたり数百万円の費用がかかる2次診断等の本格的な耐震診断が急がれなければなりません。
大都市周辺の衛星都市では、急速な住宅開発に伴い開設された学校施設の老朽化が進み、耐震化の遅れとともに教育環境整備は、緊急で深刻な課題となっています。
大阪市のように一部の自治体では、計画的な建て替え事業や大規模改造事業を通して耐震化を進めて教育環境の良好な維持管理が行われて来ましたが、多くの地方公共団体では、財政状況の良好であったところも含めて公共施設を良好に維持管理することが出来ず、現在も根本的な計画も無く、適切な予算措置を欠いた結果、老朽化した公共施設が隠れた不良債権として存在することになりました。
「三位一体の改革」は、これらの現実を放置したまま地方への「財源移転」が行われ、三位一体の改革により一層の財政危機に追い込まれた多くの自治体は、教育施設整備を後回しにする「判断」を行いました。
学校施設の耐震化においても、構造耐震化のみが全面に出されるあまり耐震化とも不可分なコンクリート壁の露筋部分の補修など外壁メンテナンスが報知される事態が見られます。
耐震化完了した体育館の柱の露筋
全国平均下回る
さいたま、千葉、北九州
財政基盤の強いはずの14の政令指定都市ですら、耐震化の平均値は72.1%です。16,343 棟の内、耐震化工事を終えたものや耐震性が確認されたのは、11,786棟となりました。都道府県同様に、先進都市と遅れる都市の差はやはり大きくなっています。
最も耐震化が進んでいるのは、名古屋市で昨年no
97.2%から99.7%と完了直前となりました。
大阪市の耐震化は87.6%と大阪府全体の平均値(56.9%)を大きく上回っています。出遅れているのは、さいたま市(37.3%)、千葉市(37.3%)
北九州市(24.5%)の3市です。
2002年文部科学省が初めての全国調査を行い、児童生徒の安全に対して無責任とも言える状況が全国的に広がっていることが明らかになりましたが、今回の第7回調査では、耐震化の歩みが全国的に進みだしたといえます。
90%目前になった耐震診断実施率ですが、1棟当たり数百万円の費用がかかる2次診断は、建物の強度、粘り、形状、経年状況を判定し、明確な耐震指標を明らかにし、耐震実施設計を行うためには欠かせません。
これまで全国で2次診断を終えた建物は、18,806棟でした。
大地震で倒壊の危険があるとされるIs値0.3以下の建物は、4,173棟(22.2%)、Is値0.3~0.4の建物4,469棟(23.8%)、Is値0.4~0.6の建物7,731棟(41.1%)で、大地震でも人命に被害がないとされるIs値0.6以上の建物は、わずか2,433棟(12.9%)しかありませんでした。