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定理:
一次写像が単射(1対1写像)であるための必要十分条件―核に関して
[永田『理系のための線形代数の基礎』補題1.3.3(p.20)補題1.6.1(p.36)証明付;志賀『線形代数30講』16講(p.101-2);
砂田『行列と行列式』§5.3-a補題5.26(p.164)]
(舞台設定)
R:実数体(実数をすべて集めた集合)
V:実ベクトル空間 (実数体R上の線形空間・ベクトル空間」)
V' :実ベクトル空間 (実数体R上の線形空間・ベクトル空間」)
(定理)
次の4つの命題は、同値。
命題P: 一次写像f :V→V' が単射(1対1写像)である。
命題Q: 一次写像f :V→V'について、「任意のv∈Vに対して、f ( v )=0 ⇒ v =0」が成り立つ。
命題R: 一次写像f :V→V'について、「任意のv∈Vに対して、v ≠0 ⇒ f ( v )≠0」が成り立つ。
命題S: 一次写像f :V→V' について、Ker f = {0}
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(
証明)
まず、命題Qと命題Rは、「」内が互いの対偶であるから、同値。
そして、Ker fの定義から、命題Qと命題Rは、命題Sと同値。
そこで、命題P⇒命題Sと、命題S⇒命題Pだけを示す。
[命題P⇒命題S]
命題P「一次写像f:V→V' が単射(1対1写像)」は、単射(1対1写像)の定義より、
命題P'「任意のv,v'∈Vに対して、v≠v' ⇒ f (v)≠f (v') 」と言い換えてよい。
命題Pすなわち命題P'が成り立つならば、
命題P2「任意のv∈Vと0∈Vに対して、v≠0 ⇒ f (v)≠f (0) 」
が成り立つ。
命題P2は、命題Rそのものであり、また、これを、「Ker f」の概念を用いて言いなおすと、命題Sになる。
以上、
命題P⇔命題P'⇒命題P2⇔命題R⇔命題S
を示した。
[命題S⇒命題P]
Step1:fが一次写像ならば、任意のv,v'∈Vに対して、f (v+(−v'))=f (v)+(−f (v')) となることを示す。
・仮定(1):fが一次写像
・任意のv,v'∈Vに対して、
f (v+(−v'))=f (v)+f (−v') ∵仮定(1)より、一次写像の定義―要件1ベクトル和の保存を適用
=f (v)+(−f (v')) ∵仮定(1)より、一次写像による逆ベクトルの像を適用
Step2:fが一次写像ならば、任意のv,v'∈Vに対して、f (v)=f (v') ⇒f (v+(−v'))=0 となることを示す。
・仮定(2-1):fが一次写像
・仮定(2-2):f (v)=f (v')
・任意のv,v'∈Vに対して、
f (v+(−v'))=f (v)+(−f (v')) ∵仮定(2-1)より、step1の結果を適用。
=f (v)+(−f (v)) ∵仮定(2-2)より、
=0 ∵逆ベクトルの定義
Step3:fが一次写像ならば、「任意のv,v'∈Vに対して、f (v)=f (v') ⇒v+(−v')∈Ker f」となることを示す。
・仮定(3-1):fが一次写像
・任意のv,v'∈Vに対して、f (v)=f (v') ⇒f (v+(−v'))=0 ∵仮定(3-1)よりstep2の結果が成り立つ。
・f (v+(−v'))=0⇔v+(−v')∈Ker f ∵Ker fの定義
・上記2点を合わせて、
fが一次写像ならば、「任意のv,v'∈Vに対して、f (v)=f (v') ⇒v+(−v')∈Ker f」が成り立つことがわかる。
Step4:
命題S「一次写像f :V→V'について、Ker f = {0}」という仮定のもとで、
任意のv,v'∈Vに対して、f (v)=f (v') ⇒v+(−v')=0 となることを示す。
・仮定(4-1):fが一次写像
・仮定(4-2):Ker f = {0}
・任意のv,v'∈Vに対して、f (v)=f (v') ⇒v+(−v')∈Ker f ∵仮定(4-1)よりstep3の結果がなりたつ。
・仮定(4-2)により、v+(−v')∈Ker f は v+(−v')= 0 を意味する。
・上記2点を合わせて、
命題Sの仮定下では、
「任意のv,v'∈Vに対して、f (v)=f (v') ⇒v+(−v')=0」が成り立つ。
Step5:
命題S「一次写像f :V→V' について、Ker f = {0}」という仮定のもとで、
任意のv,v'∈Vに対して、f (v)=f (v') ⇒v=v' となることを示す。
・step4の結果より、命題Sのもとで、「任意のv,v'∈Vに対して、f (v)=f (v') ⇒v+(−v')=0」が成り立つ。
・「v+(−v')=0」が成り立つならば、この両辺にv'を加えた、「v=v'」も成り立つ。
・上記2点を合わせて、
命題Sの仮定下では、
「任意のv,v'∈Vに対して、f (v)=f (v') ⇒v=v'」が成り立つ。
Step6:命題S「一次写像f :V→V'について、Ker f = {0}」⇒命題P「f :V→V' が単射(1対1写像)」
・step5の結果より、命題Sの仮定下では、「任意のv,v'∈Vに対して、f (v)=f (v') ⇒v=v'」が成り立つ。
・「任意のv,v'∈Vに対して、f (v)=f (v') ⇒v=v'」は、f が単射(1対1写像)であることの定義にほかならない。
・上記2点を合わせて、
命題Sの仮定下では、命題P「f :V→V' が単射(1対1写像)」が成り立つ。
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