定理:コーシーの判定条件の証明[xx0のとき]


  xx0のときf(x)収束するための必要十分条件は、
任意の(どんな)正の実数εに対して(でも)、
    「 0<|xx0|<δかつ0<|x'−x0|<δならば、  |f(x)f(x') |<ε 」
 つまり「 x, x' ( x0−δ, x0)( x0 , x0)ならば、  |f(x)−f(x') |<ε 」
を成り立たせる、ある正数δが存在するということ、
すなわち、
 ε>0δ>0 x,yUδ(a)(D{a})|f(x)−f(y)|
         (D: fの定義域、Uδ(a):aのδ−近傍) 


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証明

【文献】
 ・[吹田新保『理工系の微分積分学』p.20;
 ・小平『解析入門I』78-9.;杉浦『解析入門』61-62
 ・住友『大学一年生の微積分学』124
 ・Fischer,Intermediate Real Analysis,238-239; Lang, Undergraduate Analysis, 140-141
 
【必要性の証明】
 仮定:
xx0のときf(x)収束。その極限Aとする。  
 結論:
      「 
0|xx0|<δかつ0|x'x0|<δならば、|f(x)f(x') |<ε 」
   つまり「 
x, x'( x0−δ, x0)( x0 , x0+δ)ならば、  |f(x)f(x') |<ε 」
  を成り立たせる、ある正数δが存在するということ
 
この仮定からこの結論を導く証明:
 
(準備1:仮定を言い換えると…)
  仮定「
f(x)Axx0)」とは、その定義に従えば、すなわち、  
   任意の(どんな)
実数εに対して(でも)、
       「 
0| xx0 |<δ ならば、 | f(x)A|<ε 」
    つまり「 
x ( x0−δ, x0)( x0 , x0+δ)ならば、 f(x) (A−ε,A+ε) 」
  を成り立たせる、ある
実数δが存在する。
  ということ。
  ここで、εは正の実数なら任意であるから、ε
/2と置いてもよい。
  すると、
    任意の
実数ε/2に対して、
        「 
0| xx0 |<δ ならば、 | f(x)A|<ε/2 」
     つまり「 
x( x0−δ, x0)( x0 , x0+δ)ならば、f(x)( A−ε/,A+ε/) 」
    を成り立たせる、ある
実数δが存在する。
   となる。                       …@
 
(準備2)
  
|f(x)f(x') ||f(x)AAf(x') | 
        ≦
|f(x)A||Af(x') | ∵絶対値の性質 
  
      …A
 
(本題)
  @より、
   「任意の
実数ε/2に対して、
         
0| x'x0 |<δ ならば、 | f(x')A|<ε/2 
     つまり 
x' ( x0−δ, x0)( x0 , x0+δ)ならば、f(x') ( A−ε/,A+ε/) 
    を成り立たせる、ある
実数δが存在する」
  と言っても良い。
  すると、これと@をあわせて、以下のようにいえる。
   「任意の
実数ε/2に対して、
     
0| xx0 |<δかつ0| x'x0 |<δならば、
          
| f(x)A|, | f(x')A|<ε/2     …※
    を成り立たせる、ある
実数δが存在する」
  さらに、この※の部分を以下のように、言い換えられる。
   「任意の
実数ε/2に対して、
      
0| xx0 |<δかつ0| x'x0 |<δならば、
       
| f(x)A|+ | f(x')A|=| f(x)A|+ | A f (x') |<ε …※
   を成り立たせる、ある
実数δが存在する」
  さらに、この※の部分をAに接続すると、以下のようになる。
   「任意の
実数ε/2に対して、
      
0| xx0 |<δかつ0| x'x0 |<δならば、
       
|f(x)f(x') || f(x)A|+ | A f (x') |<ε …※
   を成り立たせる、ある
実数δが存在する」
  これを簡潔にいうと、
   「任意の
実数εに対して、
      
0| xx0 |<δかつ0| x'x0 |<δならば、
       
|f(x)f(x') |<ε …※
   を成り立たせる、ある
実数δが存在する」
  よって、「
xx0のときf(x)収束する」という仮定の下で、
     任意の正数εに対して、
    「 
0|xx0|<δかつ0|x'x0|<δならば、  |f(x)f(x') |<ε 」
   つまり「 
x, x' ( x0−δ, x0)( x0 , x0+δ)ならば、  |f(x)f(x') |<ε 」
を成り立たせる、ある正数δが存在するということが示された。
【十分性の証明】


 仮定:任意の(どんな)正の実数εに対して(でも)、

         「0<|xx0|<δかつ0<|x'−x0|<δならば、 | f(x)f(x') |<ε 」
      つまり「 x,x' ( x0−δ, x0)( x0 , x0)ならば、   | f(x)−f(x') |<ε 」

    を成り立たせる、ある正数δが存在するということ、

 結論:xx0のときf(x)収束 

 この仮定からこの結論を導く証明:
(方針)
 
定理:x x0 のとき、f(x)A収束するための必要十分条件は
 
x0 収束するどんな数列 { xn }(ただし、xn x0 )に対しても、数列 { f ( xn ) }A収束すること」
 だから、
 結論「
xx0のときf(x)収束」を、
 「
x0 収束するどんな数列 { xn }(xn x0 )に対しても、数列 { f ( xn ) }収束する
 と言い換えてよい。 
 したがって、仮定のもとで、
 「
x0 収束するどんな数列 { xn }(xn x0 )に対しても、数列 { f ( xn ) }収束する
 ことを示せば、証明したことになる。 
(仮定の確認)
 仮定:任意の(どんな)
実数εに対して(でも)、
         「
0|xx0|<δかつ0|x'x0|<δならば、 |f(x)f(x') |<ε 」
      つまり「
x, x' ( x0−δ, x0)( x0 , x0+δ)ならば、   |f(x)f(x') |<ε 」
    を成り立たせる、ある正数δが存在する   …
(1)
  (1) を満たす正数δをとる。
 以下の説明では、δは、
(1)を満たすδのなかの一つの値を意味するものとする。
(準備)
 {
xn }を、 x0 収束する任意の数列(ただし、xn x0 )とする。   …(2) 
 
数列収束の厳密な定義にしたがって、(2)を書き下すと、
 「任意の(どんな小さな)
実数ε’に対して(でも)、
         
nNならば、 0| xn x0|<ε’ 
     つまり、
nNならば、xn ( x0−ε’, x0)( x0 , x0+ε’ ) 
  を満たす、ある(十分大きな)
自然数Nが存在する。」   …(3) 
                * 
0| xn x0|(2)の「ただし、xn x0」から。
 となる。
   * * *
 ε
'は任意の正の実数でよいのだから、ε'(1)で決まったδとしても、(3)は成立する。
 すなわち、
x0 収束する任意の数列{ xn }(ただし、xn x0 )について、
 「
(1)で決まったδに対して、
        
nNならば、 0| xn x0|<δ
    つまり、
nNならば、xn ( x0−δ, x0)( x0 , x0+δ)    
  を満たす、ある(十分大きな)
自然数Nが存在する」   …(4) 
 が成立する。
   * * *
 ゆえに、
数列 { xn }では、(4)で決まったN番目以上の任意の2xl ,xm( l,mN)に対して、 
       
0| xl x0|<δ, 0| xm x0|<δ        …(5)
    つまり、xl ,xm ( x0−δ, x0)( x0 , x0+δ)
                        ただし、δは
(1)で決まったδ。
 が成立する。
(本題)
 
(5)より、x0 収束する任意の数列{ xn }(ただしxn x0 )の、
 
(4)で決まったN番目以上の任意の2xl ,xm( l,mN)に対して、
 
(1)における( )内の条件が満たされている。
 ゆえに、
(1)より、
    
|f( xl )f( xm ) |<ε  ( l,mN ) 
 これは、
コーシー列の定義に他ならない。数列{ f(xn ) }コーシー列である。
 文脈も含めて正確に書けば、
    
x0 収束する任意の数列{ xn }(ただしxn x0 )にたいして、
    
(x0 収束する任意の数列{ xn }を関数fによって変換することでつくった)
    数列{ f(xn ) }コーシー列である。    …(6)
   * * *
 
(6):x0 収束する任意の数列{ xn }(xn x0 )にたいして、数列{ f(xn ) }コーシー列である」は
  
定理「数列が収束するための必要十分条件は、コーシー列であること。」
  により、
 「
x0 収束する任意の数列{ xn }(xn x0 )にたいして、数列{ f(xn ) }は収束する。」…(7)
 と言いかえられる。
   
* * *
 さらに、
 
(7):x0 収束する任意の数列{ xn }(xn x0 )にたいして、数列{ f(xn ) }は収束する。」は
    
定理:x x0 のとき、f(x)A収束するための必要十分条件は
        
x0 収束するどんな数列 { xn }(ただし、xn x0 )に対しても、
        
数列 { f ( xn ) }A収束することである」
    により、
 「
xx0のときf(x)収束」と言いかえられる。
以上、
仮定「任意の正数εに対して
      
0|xx0|<δ、かつ、0|x'x0|<δならば、 |f(x)f(x') |<ε
   を成立させる、正数δが存在する。」
が成り立つならば、
x0 収束する任意の数列{ xn }(xn x0 )にたいして、数列{ f(xn ) }は収束する」
すなわち、
xx0のときf(x)収束する」
ことを示した。


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reference

岩波数学辞典(第三版)』.項目166(pp436).
吉田耕作・栗田稔・戸田宏『平成元年3/31文部省検定済高等学校数学科用 高等学校 微分・積分 新訂版』啓林館、pp.28-33.
小平邦彦『解析入門I (軽装版) 』岩波書店、2003年、pp.78-9。
吹田・新保『理工系の微分積分学』学術図書出版社、1987年、pp.20-23.
神谷和也・浦井憲『経済学のための数学入門』東京大学出版会、1996年、p.95.
和達三樹『理工系の数学入門コース1・微分積分』岩波書店、1988年、pp.27-28.
杉浦光夫『解析入門』東京大学出版会、1980年、pp.57-63.
高橋一『経済学とファイナンスのための数学』新世社、1999年、pp.32-36;42-44.
住友洸『大学一年生の微積分学』現代数学社、1987年、p.124。
Chiang, Fundamental Methods of Mathematical Economics: Third Edition, McGraw Hill,1984. pp.145-147.
Fischer,Emanuel.Intermediate Real Analysis(Undergraduate Texts in Mathematics),Springer-Verlag New York Heidelberg Berlin,1983,pp. 228-231; 238-239.
Lang,Serge.Undergraduate Analysis(Undergraduate Texts in Mathematics),Springer-Verlag New York Berlin Heidelberg Tokyo,1983,pp.135-143.  

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