その5
散歩が終わるとちょうど夕飯の時間だった。夕飯はとても豪華で、1泊2食付きで7000円とは思えないくらい。
こういう品数の多いまともな料理を見ていると、大学4年の夏休みに北海道〜神奈川のロングツーリングをやったとき、旅館でバイトをした事を思い出す。こういうのって出したり片づけたりするだけでも大変なんだよなぁ。
みんなおいしかったけど、鰯の塩焼きが特においしかった。他にも椎茸がやたらおいしくて驚いた。椎茸はあまり好きでないという永田くんも「この椎茸すごいおいしい」と絶賛。確かに椎茸の味なんだけど、未だかつて体験したことないおいしさだった。遅い昼飯だったこともあり、おなかいっぱいで料理を全部食べきれなかった。
部屋は、大きな部屋を襖で区切ってあるだけのようだった。隣の部屋の話し声などは筒抜け。角の部屋だったけど、両隣の部屋も明日のレースに参加する人たちだった。
ありえなかったのがこの隙間。隣の部屋とは襖で区切られているが、上にはこのような隙間が開いていて、つながっている。話し声が聞こえてくるのは当然で、隣の部屋のストーブのにおいなどもこっちまで伝わってくる。全体的にはいい民宿なんだけど、ここだけはちょっと…と思ってしまった。
夕飯後は近くの温泉に行く事にした。民宿のおばちゃんに聞いたら、もうこの時間はほとんど閉まっていて入れるところがないという。でも、湯野上温泉の辺りにある民宿の風呂に入れるよう手配をしてくれたので、そこへ行く事にした。
外は真っ暗で、小雨が降っていて地面が濡れていた。着替えや民宿の浴衣を持って車に乗り込む。湯野上温泉までの真っ暗闇の下りはかなり恐かった。車のライトのみが頼り。
かなり下ると国道121号線に出た。民宿のおばちゃんに教えてもらった通りに道を走っていく。細い道にそれて少し走ると、温泉のある「民宿すずき屋」に到着した。中にはいると陽気なご主人が出迎えてくれた。
さっそく風呂に入る。かなり広い風呂で、確かにご主人が自慢するだけある。しかしシャワーがまともに出なかったので、湯船のお湯で洗う事に。シャワーは3つあるが、一つ使うと他の2つは出なくなる。でも一定間隔で「ピュッ、ピュッ」とちょっとだけ出るのが気になった…。
風呂から上がって着替えていると、同じ1Fにある大広間で宴会をしている宿泊客のグループの笑い声がよく聞こえてきた。それがドリフとかお笑いのテレビ番組のように大爆笑の連続だったので、聞いているこっちもおもしろくなって笑った。やらせなしであそこまで笑える宴会とは、参加者はさぞかし幸せだろう。
明日のレースに出る事を話すと、ご主人は「がんばれよ」と言ってくれた。女将さんと2人で帰り際に少し話してくれたが、2人ともとても陽気で、仲がよく、幸せそうだった。こっちまでいい気分になってくる。こういう風に人に幸せを分けられるような人ってとても魅力的だ。いいなぁ。
帰りはR121沿いにあったセブンに寄って買い出しをした。このセブン、普通のセブンの三色ライン(赤、緑、オレンジ)ではなく、黒、緑、黒という変わったデザインのラインが特徴的だった。こんなセブンは初めて見たので、3人とも驚いた。ちょっと毒々しい配色だが、中身は極普通のセブンだった(当たり前か…)。後にこのセブンを「ブラックセブン」と勝手に名付けた。
このとき浴衣の上に丹前を羽織った格好のままセブンに入った。普段はこんな格好でコンビニに入ることがないので、ちょっと新鮮だった。財布は丹前の「袖の下」に入れて買い物。
再び暗闇の坂道を上って大内宿へと戻ったが、この「一寸先は闇」状態の暗闇がほんとに恐かった。明かりがないと本来は夜は真っ暗闇なんだなぁと再確認する。路面から霧のようなものが出ていて、幽玄な雰囲気があった。この霧の中を走っていると、どこか別世界へと走っているような感覚すらあった。
大黒屋に帰ってくると、出発前に車を停めていたスペースに別の車が停めてあり、うちらが停める場所がなくなっていた。元々駐車スペースが全然ない所なので、これには困った。すぐに宿のご主人が出てきてくれて、入り口付近にそのまま停めていいと言ってくれた。「みんな同じレースに出るんだから、出発時間も同じようなものでしょう」とご主人。うちらが他の人よりちょっと早めに出発すればいい。
部屋に戻ると、早速セブンで買ったサワーで乾杯。レースのしおりなどを読みながら、明日のレースのことなど色々話した。永田くんは連日の睡眠不足と自走した疲れで早々にいびきをかき始めた。この日の夜も彼と一緒の部屋で寝ることの難しさを痛烈に感じつつ(詳細はここには書けないが…)、がんばって寝ようとした。睡眠不足だったこともあり、いつの間にかおれも寝れたようだった。
夜はさらに冷え込み、荷物を減らすために寝る用の衣類は全く持ってきていなかったので、浴衣+丹前では寒かった。浴衣のしたはトランクス一枚なので、これは寒すぎる。そこで、レッグウォーマーを履いた。ちゃんと浴衣を着ているときはあまり違和感がないが、歩いていて浴衣の前がはだけたときはかなり異様な格好に見える。ないよりマシだが、これでも寒かった…。
夜中に永田くんが部屋を出ようとしていた(これはトイレに行こうとしていたらしく、事実らしい)ような記憶があったり、起きてさぁレースに行こうと山田さんも起きたりしているシーン(これは夢のようだ)があったりと、寝ていても不思議な感じがした。
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 |