「まえがき」から引用する。
目次に見るように本書は主として占有の問題,ラテン方陣,有限射影空間,差集合および Hadamard 行列を取り扱う.
章末に問題があり、巻末に問題の解答がある。参考書は全般と章ごとに分かれていて、第3章の参考書に、高橋磐郎「組合せ理論とその応用」が挙げられている。
本書の用語は見ていると面白い。まず、p.1 で全完置換という用語が定義されている。これは、 現在では完全順列とか攪乱順列などという。
また、一般に包除原理と呼ばれている方法を、本書では取込みと押出しの方法あるいはふるいの方法と呼んでいる。
p.4 以降は、夫婦円座の問題について解説されている。以下引用する。
`n` 組の夫婦を円卓のまわりに座らせるのに,男女は交互に並び,なおどの夫も自分の妻とは隣に座らないようにしたい. その方法の数を求めるのが Lucas の夫婦円座の問題 ( problème des ménages ) である.
`1` と `2` は夫婦,`3` と `4` が夫婦,…,`2n-1` と `2n` は夫婦で,奇数は夫を,偶数が妻を表わすとしておく.また円卓の席には順に `1, 2, cdots, 2n` と番号を打っておく.
さて妻たちは偶数番号の席につくか,または奇数番号の席につくかであって,どちらも `n!` 通りの座り方がある. それを決めてしまうと,夫たちを座らせる方法の数は一定で,それを `U_n` で表すと求める数は `2n!U_n` となる. `U_n` がいわゆる円卓数で,これを求めればよい.
以下、`U_n` の公式が導出される。また `U_n` の漸化式が、補助数列 `V_n` とともに示されるとともに、次の数値の表が p.10 に示されている。
n | `U_n` | `V_n` |
---|---|---|
0 | 2 | 1 |
1 | -1 | -1 |
2 | 0 | 1 |
3 | 1 | 0 |
4 | 2 | 3 |
5 | 13 | 13 |
以下、本書では `n=12` までの表があるが、それは省略する。
第 4 章はブロックデザインである。ここで、 `q`-二項係数が定義されている。以下、 p.93 から引用する。ここでいきなり `q` が出てきているが、ガロア拡大体の次数である。
`q` は変数としてその多項式 `[m]` は
`[0] = 1, [m] = q^m - 1`で定義し,Jordan の階乗記号に相当する多項式 `[m]_k(k = 0, 1, 2, cdots)` は`[m]_0 = 1, [m]_k = [m][m-1]cdots[m-k+1] (m ge 1, k ge 1)`で定めておく.特に階乗に相当する `[m]!`は`[0]! = 1, [m]! = [m]_m (m ge 1)`とおき,さらに `q`-二項係数 `[[m],[k]]` は `m ge k ge 0` に対して`[[m],[k]] = [m]_k/[k]! = ([m]!)/([k]![m-k]!) = ((q^m-1)(q^(m-1)-1)cdots(q^(m-k+1)-1))/((q^k-1)(q^(k-1)-1)cdots(q-1))`なるものとする.
これがどのように役に立つのかが実はよくわからない。ただ、次の問題の解答にこの `q`-二項係数が使われていることがわかる。
pp.109-110 にある問題4から引用する。
3. カークマンの女生徒問題 15 人の女生徒のクラスを 3 人ずつの 5 組に分けて,それぞれ違う場所に遠足に行く. 翌日も 15 人を 3 人ずつの 5 組に分けて遠足に行くのだが,前の日にいっしょに行った生徒が同じ組には入れない.その次の日も 3 人ずつ 5 組に分けるが,それまでにいっしょに行った者どうしは別々の組に入れる. このようにして 1 週間繰返すのには,どのように組分けをしたらいいか.
解答を p.232 から引用する。
3. `K = "GF"(q), q = 2^4 `は `"GF"(2)` 上 4 次多項式 `x^4+x+1` の根 `alpha ` の添加で生ずるものとし, 法 15 の加法群の元を女生徒とみて,`alpha^i + alpha^j + alpha^k = 0` なる 3 人を一組に入れる. これは `K` の 2 次元空間と 1 対 1 に対応し,全部で `[[4],[2]] = 35 `個だけある. それら 35 個の平面を 5 個ずつ 7 組にわけて,各組の中の平面が `K^times` に一致することが要求されている. `alpha^i + alpha^j + alpha^k = 0` ならば `alpha^(i+1) + alpha^(j+1) + alpha^(k+1) = 0` だから, 変換 `(i, j, k) rarr (i+1, j+1, k+1) `によって分類して,次の 3 類を得る.
`a = {(0,1,4), (1,2,5), (2,3,6), cdots, (14, 0,3)}`
`a = {(0,2,8), (1,3,9), (2,4,10), cdots, (14, 1,7)}`
`a = {(0,5,10), (1,6,11), (2,7,12), (3,8,13), (4, 9,14)}`
`#A=#B=15, #C=5` である.さて
`X={(0,1,4),(2,3,6),(8,9,12),(14,1,7),(5,7,13)}, `
`Y=2X+(10,10,10) = {(10,12,3),(14,1,7),(11,13,4),(0,2,8),(5,9,6)}`
とおいて,第 1 日目は `C` を取り,第 2, 3, 4 日目には `X, X+(1,1,1), X+(4,4,4)` を取って, 第 5,6,7 日目には `Y, Y+(2,2,2), Y + (8,8,8)` を取ることにすればよい.
この文脈を追うのは大変だ。老後の楽しみにとっておこうと思ったが、もう今が老後なのだ。
索引を見ると、「山本の定理」と「山田の定理」というのがある。山本の定理は本書 p.163 にある補題 20.1. のことだが、ここで引用するには目がちらちらしてわかりにくいので省略する。 また、山田の定理は本書 p.227 にある 定理 26.5. のことである。こちらは簡潔な記述だが、やはり引用は省略する。
さて、ここでいう山本や山田とは誰だろうか。山本とは、おそらく著者である山本幸一である可能性が高い。山田とは、おそらく山田美枝子のことだと思われる。
第6章 Hadamard 行列で、p.201 には、本書で,今までのところで存在が確認できていない最小次数は Hadamard 行列は 156 次のものである.
と書かれている。
Wikipedia によれば、まだ生成されていないアダマール行列の最低次数は668となった。
という記述がある。時の流れを感じる。
数式は MathJax を用いている。
書名 | 組合せ数学 |
著者 | 山本幸一 |
発行日 | 1989 年 11 月 10 日 初版第 1 刷 |
発行元 | 朝倉書店 |
定価 | 3600 円(本体) |
サイズ | A5 版 |
ISBN | 4-254-11444-3 |
備考 | 川口市立図書館で借りて読む |
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