Kaputaはダサい、みっともない、
使うべきじゃない

シンハラ語質問箱 Sinhala QA66
2006-5-28 2006-07-17 2015-May-17



シンハラ・フォントはいくつもある。どれを使うかはお好みしだい。数多あるフォントの中でもKaputaは書体がダサい、みっともない、という意見がある…

 

なぜkaputaフォントにこだわる?

   シンハラ・フォントは種類が多い。数多あるフォントの中で、kaputaは書体がダサい、みっともない、という声が上がっている。「かしゃぐら通信」もそう思うことがある。
 シンハラ文字はそもそもサンスクリット文字のように細い線と太い線を組み合わせて優雅に書かれていた。日本語フォントで言えば明朝体の雰囲気。
 それがアルファベットの細ゴジック体のように均一な線で簡略にして書体が形作られているのがシンハラKaputaフォントだから、旧来のシンハラ文字、インド古代文字に限りない憧憬を抱く方々には滅法、物足りなさを感じさせる。
 そんなkaputaフォントに、なぜ「かしゃぐら通信」はこだわる?

   その理由は第一に、フォントの打ち出しやすさにある。
 旧来の、たとえばKandyフォントなどはフォントの打ち出しがアルファベットのキーボード配列と対応していない。Kandyフォント独特の配列はシンハラ文字をタイプライターで打ち出していた時代のキーの配列を守っているからだ。シンハラ・タイプライターに慣れ親しんでいる記者やライターたち、それにお役所の書記官たちはコンピュータ文字のKandyフォントに素直に移行できる。だが、新たにシンハラ文字の打ち込みに取り組む若い人たちはシンハラ文字の打ち出しにとてつもなく悩まされる。そのキー配列はとてもじゃないが、覚えられない。
 シンハラ文字のタイプライター配列をパソコンのキーボードにそのまま組み込んだ。その方式はタイプライター配列の開発者の名をとってウィジェーセーカラ配列(ウィジェーセーカラ・キーボード)と呼ばれている。

ユニコード以前のシンハラ・フォント

 特殊な性格を持っているため世界で孤立するシンハラ語。そこに唯一無比のウィジェーセーカラ配列キーボード。ユニコード・フォント誕生以前の物語だが、シンハラ文字のタイピングは常に議論の的になる。ウィジェーセーカラ・タイピングが良い。いや、駄目だ、カンディ・タイピングのほうが便利だ。論争は際限なく、いつまでもタイピングのシステムが競われ、それは今に続いている。

 今に続いているというのは、正確に言えば、ユニコード時代のシンハラ文字タイピングにこの伝統的ウィジェーセーカラ配列が復活したからだ。ユニコード・シンハラ文字の打ち出しはほとんど神業のレベルが要求される。そんな神業を若いシンハラ人は持っていないから、ユニコード・シンハラ打ち出し用のソフトがさまざま開発されている。


 ウィジェーセーカラ・キーボード配列にはシンハラ語タイプライター時代の伝統がある。カンディ・フォントはその伝統のタイピング技法と異なる部分をたくさん持っていて「改良」の努力が見られるのだが、それでもキーボードに記されているアルファベットが表示する文字とは縁もゆかりもないシンハラ文字が割り当てられていて、そのアナクロな感覚にはついてゆけない。
 そうした中に登場したのがKaputaフォントの配列だった。これはキーボードのアルファベット音に対応するシンハラ文字を配置している。しかも、Kandyフォントが多用するファンクション・キーを極力避けている。大衆紙で販売部数トップのディワイナがこのKaputaフォントでウェブ新聞を発行したのはその汎用性に優れた点を踏まえたからだ。
 Kaputaフォントのキー配列も、たとえばハル・キリーマ(子音記号)などは打ち出しにくい位置にあったのだが、カプタ2004の改訂フォント版が出されて、そのハル・キリーマの打ち出しを便利にした。また、「さ」と「しゃ」の基本文字をSキーに置いてノーマルとShiftで入れ替えるといった工夫も新たに施された。「い」列以降の「う・え・お」の音群を表すイスピッラ、パーピリ、コンブワなどの記号もキーボード右側のキー群に収めて、その結果、Kandyフォントの扱いが格段に易しくなり、打ち出しの速度を速めることができるようになった。「かしゃぐら通信」がKaputaフォントをお勧めするのは、この汎用性と扱いの便利さにある。


ウィジェーセーカラ・タイピングはシンハラ・ナショナリズムをくすぐる。

 最近、サンダルSandaruというフォントが現れた。これはウェブの無料新聞・ランカEニュースが使用するフォントだ。Kandyフォントが持っている優雅な古代性を表現するフォルムが特徴だ。アルファベットのゴジック体に似たKaputaフォントは味気ないが、Sandaruフォントはサンスクリットに始まる明朝体風の線のふくらみを持っていて情緒が感じられる。インド文化復興論者には格好の書体だ。
 ランカEニュースは記事の内容もしっかりとしている。シンハラ社会での事件の受け取り方をよく表しているのだ。
 たとえば、


という記事がこの新聞に載ったことがある。これをKaputaフォントで表すと次のように文字化けする。
※ランカEニュースの記事タイトルは「大統領とプラバカランの書簡は公表できない-明石」という意味5月7日。スリランカ復興援助評価会議を東京で行う前に明石代表はスリランカを訪問したが、プラバカランと会うことができず、残念だが成果は得られなかった。タイトルに触れられた「プラバカランの書簡」とはタミルチェルワンLTTE政治顧問が明石代表に手渡した会談メモのこと。

 上のサンダルNフォントはKaputaフォントの登場で絶滅したと思われたウィジェーセーカラ・タイピングを忠実になぞって生まれた。そのためにカプタで読むとこのように文字化けが起こるのだ。
 シンハラ世界にスタンダード(標準)はない。シンハラ・フォントの世界もスタンダードはない。でもそれは多様性(ダイバーシティ)ということでもない。多様性という言葉で括れるまとまりなどはない。

 ウィジェーセーカラ・タイピングはシンハラ・ナショナリズムをくすぐる。
 文字ソフトのキー配列をユニバーサルにそろえれば種々のシンハラ新聞を読む毎に新たなシンハラフォントをパソコンに組み入れる必要はなくなる。だが、スリランカという南の島の堅実な保守層はユニバーサルをとことん嫌う。徹底して、好んで孤立に佇む。大人のフューダリズム。

 ウィジェーセーカラ配列がシンハラ・ユニコード文字に採用されたことから、シンハラの若い人たちはその面妖なタイピングに行き詰まってしまった。そこで、この難題解決に編み出された妙案がシングリッシュのタイピングでシンハラ・ユニコード文字を打ち出すという離れ業。アルファベットでシンハラ語を表すというテクニックをシングリッシュと言う。
 シングリッシュはすでにSNSで盛んだった。シングリッシュ・タイピングで打ち出されたシンハラ語をシンハラ文字に置き換えれば、誰だって、ウィジェーセーカラを知らなくてもシンハラ文字が打ち出せる。すでにいくつもの変換ソフトが開発されているが、KhasyaReportがお勧めするのは පැන්සල パンサラというユニコード用シンハラ文字への変換ソフト。
 このソフトの詳細はシンハラ語QA102、103で。

 質問箱QA102 シングリッシュでユニ・コードを打ち出す
 質問箱QA103 タブレットでもシンハラ語