④シンハラ動詞「見る」の活用2
かしゃぐら通信2005.11.11 2008-Jan-25 / 2015-Feb-07 /2016-Feb-13


 JB先生の動詞語尾変化表を日本語学校文法の動詞活用と較べたらどうなるでしょうか。
 日本語学校文法の動詞活用は未然・連用・終止・連体・仮定・命令と分けます。これは純然たる文法上の形式と態による意味上の分類とがごっちゃになっていて論理的ではありません。そこのところはオールスター・ゲームのように総てを集めて最強にしたからそうなった、面白くてわくわくする、守りも固いと理解しておきましょう。
 シンハラ語の動詞語尾変化をJB先生は新シンハラ文法書シリーズの「動詞」の15~16ページで紹介しています。動詞を素形と分詞形の2種に分け、それらをさらに終止形、非終止形に分けるという習いはパーリ文法的ですが計4つの表でシンハラ動詞のそれぞれの語形を紹介しています。これらの動詞語尾変化表に例示された動詞からいくつかを選んで日本語学校文法の動詞活用に合うように並べると次のようになります。 

動詞活用名 語根 語尾 動詞活用名(シンハラ語)
未然形 බලන්නේ
balannee
බලන-
bala-

-nnee
අවදාරණ ක්‍රියා ප්‍රත්‍යය
avadaarana kriyaa prathya
強調・取り立てを表す活用語尾。打消し語のනැ naeeを伴う。
連用形 බලමින්
balamin
බලන්ට
balanta
බල-
bala-
-මින්
-min
-න්ට
-nta
මිශ්‍ර ක්‍රියා ප්‍රත්‍යය
missra kriyaa prathya
動詞・助動詞を後置させる活用語尾。
ලක්ෂ්‍ය ක්‍රියා ප්‍රත්‍යය
laksya kriyaa prathya
次に置かれる動詞の行為を限定する活用語尾。
終止形 බලනවා
balanavaa
බලන-
bala-
-ආ
-aa
සාදික නාම ක්‍රියා ප්‍රත්‍යය
saadika naama kriyaa prathya
完成形の活用語尾。完成とは他の単語を用いることなく動詞が示す意味を表せること。名詞的な状態にあると表現される。
連体形 බලන
balana
බල-
bala-
-න
-na
කෘදන්ත ප්‍රත්‍යය
krudantha prathyaya
体言を修飾する活用語尾。
仮定形 බලනොත්
බලතත්
balathoth
balathath
බල-
bala-
නොත්
-thothතත්
-thath
ශුද්ද සාදනිය අසම්භාව්‍ය ක්‍රියා ප්‍රත්‍යය
ssudda saadanataya asambaavya kriyaa
肯定表現で仮定を表す活用語尾。

ශුද්ද නිශාදනිය අසම්භාව්‍ය ප්‍රත්‍යය
ssudda nishaeeDaniya asambhaavya prathya
打消し表現で仮定を表す活用語尾。
命令形 බලන්න
balanna
බල-
bala-
-න්න
-nna
විදි ක්‍රියා ප්‍රත්‍යය
vidi kriyaa prathya
指図を表す活用語尾。丁寧な勧誘を表現する。
"ක්‍රියා පදය" පිටු 15-16යෙහි තිබෙන හතර ක්‍රියා ප්‍රත්‍ය ලැයිස්තුවලින් තෝරාගෙන
සිංහල ප්‍රත්‍යවල ජපන් ක්‍රියා පද වරනැගීම ක්‍රමය අනුව යන පෙළගැස්සීම ය

 語根がbalana-だったり、bala-だったり、落ち着かない面はあるのですが、これはJB先生が分けた動詞語尾変化表の四つの表からピックアップしたパーツをつぎはぎして学校文法の動詞活用に合わせたことから生じた落ち着きの悪さです。とは言え、上の表を見ていると未然形と終止形の語根balana-はbala-に収束させることもできそうに思えて来ます。
 シンハラ語では活用語尾にそれぞれの用法を意味する名をつけます。未然形が「強調/取立て」となっているのは、この語形が強調の倒置語法として使われるからです。「バランネー」は「見るのは」という態を表して、まさにこれから「見る」行為が実行される、「未だ然らざる形」の状態です。まさに日本語の未然形の名の通りの状態を表す動詞語形です。シンハラ語の場合、未然形は動詞語尾がE形で終わります。疑問詞疑問文で疑問詞(疑問マーカー)と対応するのもこのE形の活用語尾。ハグストロムはE形動詞語幹と疑問マーカーの対応を見てシンハラ語にも「かかり結びがある」と考えました。

 「係り結び」のことはまた別のところで触れますけど、それにしても「シンハラ語の話し方」が日本人のシンハラ語会話習得のために援用した学校文法動詞活用と同じ方法でJB先生がシンハラ動詞の「屈折」を説明していることが不思議に思えてなりません。スリランカはセレンディブ。思いもしない偶然の発見と出会い。
 さてさて、動詞の活用からはここでひとまず離れて、次に自動詞・他動詞と使役動詞のことに触れてみましょう。まさかそれも日本語と…、などと思われますか。まさか、まさか。


⓷へ戻る← ◆ →➄へ進む
----- シンハラ語の不思議を説くkindle3冊の本 KhasyaReport -----
熱帯語の記憶1
 エピソード編
熱帯語の記憶2
 日本語とシンハラ語
熱帯語の記憶3
 記憶をたどりゆく