KhasyaReport ひなたやまカフェ 038

お茶の時間/明源寺


昼は真夏の25℃。夜は冬の3℃。日本の東北の初夏、と言う
より、熱帯高地の気候だ。アッサムの新芽の伸びが昨年と違
う。柔らかな新芽の先を指で摘むと、もう甘い茶の気配が…

 何年か前に同じアングルで写真を撮った。時期は6月上旬で、今回よりちょっと遅い撮影だ。新芽が時期を早めて伸びている。気候が変わった? 暖かくなった?
 ここ一、二年の気象異変は温度上昇に特徴がある。昨年は例年より3℃温度の高い日々が続き、今年はその傾向がくっきりと表れている。昼は3,5℃高く、夜は一桁前半の最低気温が記録されている。
 この状況が茶木に悪いはずがない。スリランカ高地の茶どころ、ランボダと同じだ。リキュールの甘い香りを嗅ぐわせる甘い茶が生まれる。写真のアッサムが芯葉をまっすぐに青空に向けているのは、ここが茶づくりに適した高地であること、それに増して日中の極度な気温上昇という異変が関わってのことのようだ。
 この山里のあたりは平安時代に仏寺がいくつもあった。里の集落に接する小高い山の上。今は寺山と称されるこの山は平安期から明治初期まで毘沙門山と呼ばれていた。ここに、今年のNHK大河ですっかり高名になった藤九郎盛長が頼朝を補佐し源氏必勝を祈願した毘沙門天を祀る真妙寺という一宇があった。なぜ陸奥の山奥に藤九郎盛長が、なんて素朴な疑問が生まれるだろうが、それは最近の山形新聞(2022-04-22)の記事を辿ってほしい。明源寺住職が謎を解きほぐしてくれる。
 
 毘沙門天を祀る毘沙門堂は今、柏倉集落の小高い河岸に建つ明源寺に移されている。その明源寺境内に茶木がある。丸く小さな茶葉を広げる中国種だ。明源寺の坊守さんはこの境内の茶葉を摘んで中国茶を作る。台湾の茶作法で茶を淹れる。これを頂いた。
 明源寺の坊守さんが作る茶はかそけき香りの高級台湾茶のよう。祭英文総督がデジタル担当大臣オードリー・タン氏の下、新型コロナの封じ込めに成功したとき、ツイッターに「オランダワッフルと台湾茶で自家で静かにお祝いします」と書き込んだ。台湾が新しい輸出商品として力を入れている高級台湾茶を祭総督は控えめに宣伝した。
 台湾茶にワッフル。これがいい。虜になった。台湾高山茶を注いだカップの淵にオランダ・ワッフルを置けば、じんわりと蕩けて真ん中から崩れかかる。これを、おっとっと、すかさず口に運ぶ。とろけたワッフル、実にうまい。
明源寺で製する中国茶もカップにオランダ・ワッフルを載せて飲んでみたい。

明源寺の茶の作法。坊守さんは境内裏手の山
から茶葉を摘んできて、中国茶に仕立てる。
寺で茶を戴くなんて、もう功徳の極み。柏倉
では平安時代の茶木が命をつないでいる。
◎明源寺茶をもっと知りたいなら→
上の画像をPDFダウンロードして読む(当り前
だけど無料)
  

 私はアッサム種を使ってスリランカ式の紅茶を作る。プッセルラーワ・エステートで昔ながらに作る手作りの紅茶が手本だ。リキュールの濃厚な味と香り。クジャク椰子の蜜でつくるタラグリをかじりながらスリランカの濃厚な紅茶をすする。熱帯の島の高地で味わうだいご味だ。四谷TOMOCAをご存じの方は、はるか昔の30年近くも前のことだけど、Tokyu Journalが誉めたあの紅茶の香りとタラグリの味を記憶にとどめておられるかもしれない。
 茶葉を萎凋させながら思う。この数日、最低気温は一桁前半と14、5℃を行ったり来たり、最高気温は夏日の25℃を越えた。五月だぜ、なんてこった。昨年の異常気象の時と同じだ。
 山里にやってきて夏用エアコンを捨てたのはもう20数年前だけど、一昨年から温度が35℃を超えることがあって、簡易な窓用エアコンを取り付ける羽目になった。稼働日は夏の一週間ほど、日中のみ。この灼熱の湿気を含んだけだるさは熱帯スリランカのものとは違う。


   茶はこころを開放する


   明源寺ご住職は今、境内山手の茶木の手入れに汗を出している。今はちょっと荒れているけど、次の茶摘みシーズンにはここの茶木の極上茶が檀家衆を始めとしたみんなにふるまわれる、かしら。当家の一本のアッサムからも葉を摘んで紅茶に仕立てて、明源寺へ持って行こう。中国式、スリランカ式の茶の淹れ方は異なっていて、味も香りも違うけど、茶の楽しみは同じだ。茶の香りは世界の終わりにいら立つ心を開放する。
 我が家でアッサムを摘んで茶葉を萎凋させながら思う。そうだ、台湾のオーソリティ野嶋剛さんが次に訪ねてきたら今度は明源寺に連れてゆこう。柏倉で台湾式作法の茶を頂いたら感激するに違いない。

 終末感あふれるこの世界。何やかや、へなへなさせられる。怒ってグレタさんのようにトランプを睨みつけるあのしぐさを真似て奴らを睨みつけた。睨んでどうにかなるものか。我が家の小屋の山風が渡る「ダンツケ処」でカップ一杯の手作り紅茶を飲んで、今年は早くも熱帯の森と化した山を、ナンダ・マーリニが歌う「さくら花」のように諦観の思いで見上げている。

 

  2022-May-21


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