KhasyaReport ひなたやまカフェ 036  ひなたやまカフェIndex
「強い寒気」と日本語の助詞 北極壊れた?-2-

「強い寒気と強い冬型の気圧配置」というけれど、天空に風はなし、暗い雪雲もなし。もんやりとした薄紅の空気が青白い風景に漂う。


 「1月23日から日本の上空に強い寒気が流れ込み、強い冬型の気圧配置となる見込みです。」という気象情報を1月19日、気象庁予報部が発表した。強い冬型の気圧配置に関する全般気象情報第1号1月19日。発表後、続々とマスコミ各社の気象予報が流れたけど、どうも腑に落ちない。各社は「強い寒気」、「強い冬型の気圧配置」という二つの気象用語を助詞でつないで記事を書いているのだけど、その使い方が各社の報道で微妙にずれてる。だから、文意が微妙に違っている。


 1月19日の気象庁情報が流れた翌日の20日にNHKは午後7時のニュースで「強い寒気」を報じた。地球を斜め上から俯瞰したイラスト・ボードを示して北極の渦がゆがんで(壊れて?)日本列島に届かんとする様子を表した。あれ、同じようなイラスト、見たことある。米国の気象情報を知らせるネットTVが、たとえばabcニュースだけど、「北極爆発」のイラストを画面大写しにしているやつ、あれと同じようだった。
 北極の渦は極寒の冷気を包んでる。渦が崩れて--これを爆発blastと言ってる--極寒の冷気が地球の北半球のどこかに流れ落ちてくる。これが日本列島上空にも降りてきた。
 でも、米国のように「ポーラー・ヴォルテックス(北極の渦)が冷気をもたらす」とはNHKニュースは言わなかったし、まして、「北極爆発Arctic blast」という米国で数年前から流行している言い回しを口にするなんて粗相はしなかった。
 20日以降、マスコミ各社は気象庁予報部の情報を流したけど、その言い回しが各社でちょっと異なる。

 「気象庁によりますと強い冬型の気圧配置と上空の寒気の影響で」 2018年1月25日 NHK NEWS WEB
 「上空の強い寒気と冬型の気圧配置で」 NHK 昼のニュース 2018年1月25日東京23区に33年ぶり低温注意報 数年に1度の強い寒気、日本海側で大雪警戒
 「強い冬型の気圧配置の影響で24日、北日本(北海道、東北)の日本海側や北陸で、降雪や風が強まった。」 産経ニュース 2017年1月24日  ※上空に流れ込む寒気や冬型の気圧配置が強まる影響で 2017年12月11日  同上 日本海側は大雪警戒を 上空に寒気、冬型強まる
 「強い冬型の気圧配置が続き、大陸からの厳しい寒気が日本上空に流れ込んだ」 日本経済新聞 2018年1月25日 上空に強い寒気、晴天で放射冷却も進む
 「強い冬型の気圧配置の影響で上空に寒気がとどまり」 毎日新聞 2018年1月25日大阪でも氷点下2.5度 池の水凍りつく
 「気象庁によると、日本列島の上空約5千メートルには、今季一番の強い寒気が流れ込んでいる」朝日新聞デジタル 2018年1月25日 今季一番の寒気現る 27日にかけ大雪に、太平洋側でも


 助詞の言い回しが各社で違う。冬型の気圧配置、上空の寒気にまつわりつく「に」「が」「で」「と」「や」のことだ。たかが助詞のことで何をゆうてるか、と高をくくられるか。シンハラ語のニパータを取り扱っている身には、これがたいそう気にかかる。気象予報のタイトル、記事に現れた助詞を青色でマークすると、

ヨーロッパ中期予報センター2月3日の東アジア天気図予報から。
「北極の舌」が日本列島をなめようとしている。
「気象庁によりますと強い冬型の気圧配置上空の寒気の影響
 「上空の強い寒気冬型の気圧配置
 「上空に流れ込む寒気冬型の気圧配置が強まる影響」 
 「強い冬型の気圧配置 ---- 大陸からの厳しい寒気日本上空に流れ込んだことだ」
 「強い冬型の気圧配置の影響上空に寒気がとどまり」

たかだか、些細な助詞だけど

 気象庁予報部は「日本の上空に強い寒気が流れ込み、強い冬型の気圧配置となる」と言った。強い寒気、強い冬型の気圧配置.。この二つの用語を結ぶ助詞は、ここにはない。だけど、「冬型の気圧配置」、「上空の寒気」の気象要素を各社が紙面に書くと二つの気象要素の関係が「と」「で」「や」の助詞で結ばれて、そうして、微妙に意味が変化する。
 「強い冬型の気圧配置で」とすれば「で」の働きで「上空の寒気」は西高東低の冬型気圧配置が原因で現れたことになる。「上空に流れ込む寒気や」にしてしまうと、「や」は例示を表すからそれ以外にも極寒と豪雪の理由がありそうな気にさせる。「強い冬型の気圧配置と」にすれば「上空の寒気」が並列を表す「と」に結ばれて二つの気象要素がハイブリッドに一体化する。「気圧配置が」「厳しい寒気が」のように「が」を使っている記事だけど、「が」は主格を表すだけだから、「と」「で」「や」のように並列、原因、例示といった意味を付ける要素は持っていない。二者の関係を表示する言い回しはこれが予報部発表にもっとも近い。
 で、これらの記事でなにがわかるかと言うと、なんともわかりにくい。わからない。
 これ、シンハラ語のニパー(助詞)だったら、
 「と」=ත්th、「で」=දීdii、「や」=යනාදිyanaadiが対応する。
シンハラ語のニパータは意味を厳格に限るから、
ත්th」=並列、「දීdii」=時間の経過・場所の特定、「යනාදිyanaadi」=例示、と確定できるけど、日本語の助詞はかなり融通無碍だから本来の使用範囲を超えていかようにも意味を拡大解釈させて使える。でも、そもそも、気象庁予報部は二つの要素の関係を表す助詞を使っていない。
 なんか、気象の原点、退けてるみたい。
 そもそも、日本の上空にやってきた「上空の強い寒気」って、低気圧なの?、高気圧なの? どこからやってきたの? 

 これ、アメリカの気象予報だと、わかりやすい。スムーズに説明している。
 「北極爆発で低温と大雪がやってくる」
 とそれだけ。
 地球温暖化阻止のパリ協定から抜けたから、というわけじゃないだろうけど、アメリカは今期、極寒の嵐に襲われている。東部工業地帯ばかりじゃなくて、西部の温暖なところも北極の寒風、暴風にさいなまれている。夏にはエルニーニョの台風、冬にはアークティック・ブラーストの寒風ではたまったものじゃない。
abcニュースの2015年2月16日号の記事から。これと同じような北極爆発のイラストは動画にされてTVの気象予報番組で流される。極渦の蛇行から北極爆発が起こったのは2010年代初めからだ。
 アメリカは日本じゃない。アメリカの話を持ち出してどうする。とツッコミありそうだけど、ヨーロッパ中期予報センターの予報で「東アジア」、「北アメリカ」を見ると、どちらも同じような北極振動の気象図が示される。上空1500メートル辺り、マイナス30℃の低気圧の寒気が降りてきている。
 気象庁が言う「上空の寒気」は北極から降りて来る。北極に太陽の当たらない冬だから、上空1万メートルの成層圏から宇宙の冷気を運ぶのかしら。

 日本のとてつもなく長くて手ひどい寒気。私の住む山里では昨年11月中旬から今に至るまで昨シーズンの最低気温を5℃前後、ずうっと下回っている。
   AERは2月予報で北極の渦の「振動異常」はしばらく収まるとしている。ただ、北欧と東アジアに寒冷な気候がぶり返すだろうとも予測している。
 春先になって北半球に太陽の恵みが帰ってくれば北極最上空の最強極渦は消える。そうなれば「異常気象」なんてなかった、なんてことになるのが世間の習い。大寒のときは寒かったね」となるだけなのだけど、北極、壊れてる。
 北極、壊れた? 来シーズンの冬も、かしら。

  2018-Feb-05


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