KhasyaReport ひなたやまカフェ 032

自家製自家消費の紅茶


春が来れば茶葉は成長する。いかんせん、この6月は気温差が足りない。最高気温が去年より6℃も低い。紅茶の香りが引き出せない。


 去年から始まった異変なのだけど、この山里は平均気温が3度も高くなった。気温の上昇は急激で冬からいっぺんに夏へ季節が移ったみたいだ。でも今年の6月、前半はやけに温度が低い。最高気温が昨年より6℃も低い。
 5月までは暑かった。雨の日は少なくて、たまに降れば熱帯スコールのような集中豪雨。だから、春先の山菜は取れなかったけど、その反面、スコールを受ける木の成長はやけによかった。お茶の木も例外じゃない。
 




 茶木の育ちはよかったのだ。2度目の茶葉を摘むのがちょっと遅れたら、茶の木は風船が膨れるように大きく育った。枝は伸びすぎるほど。アッサムの茶木だけど、山へ持って行って植え込んだのが枯れて、今は庭にある木だけになったのだが、今年は爆発寸前に育った。辺りを見回せば山裾の竹も、コナラも、杉も、猛威を振るう台風のように渦巻いて成長している。
 5月4日に26℃を記録して今年初めて夏日になって、6月7日までの間に夏日が延べ10日にもなった。熱帯さながらだ。日中、25℃を上回り、夜は10℃を下回る。この激しい変動が茶葉に芳香を授けぬわけがない。

 茶の新芽を夕刻に摘んで、一晩寝かして萎れさせる。翌日、萎びかけている葉を掌に入れてふわっともむ。こうして茶葉に細かい傷をつけて発酵を促す段取りを終えたら笊に置いて風通しのよう涼しい場所に寝かせておく。3日もすれば茶葉は黒褐色に転じる。クンクンやれば紅茶の香りを振りまく。うまく発酵が進めば笊の上を通る風はブランディの香りを辺りにふりまく。
 紅茶の出来は年々で異なる。温度と湿度次第だ。涼しくて湿り気があってという年なら放っておいてもおいしい紅茶ができる。こうして作る紅茶はダージリンとはいかないけれど、キーマンぐらいには仕上がる。

 2番茶の収穫を待っていた。ここ数日はやけに冷え込む。夜間が冷えるのはいいが、日中も気温が10℃台で上がらない。どうしたのだろうと地上波TVの気象リポーターが解説する番組を見たら、「天気明朗なれど波高し」みたいなことばかり言ってて気象変動の実態がつかめない。
 そんな時には頼りになる気象サイトがある。ECMWFヨーロッパ中期予報センターだ。ここで高層天気図を見る。850hPa(海抜1,500m)の温度を東アジア域で確認する。ECMWF/日本を含む東アジアの850hPa気温状況

 このところ、偏西風が日本列島で南に蛇行して列島の北半分を覆って動かない。富山、新潟から東北にかけて上空が冷え込んでいる。これでは日中、暖かくなるわけがない。去年のカレンダーに書き込んだ気温の数値と比べたら最高温度が6度も低い。千葉房総の人も暑くなったり寒くなったり大変だよ、豆も野菜も育ちがよくないと電話口で嘆いたけど、千葉は850hPaの暖気と寒気の境目にある。東北の寒さが降りてくる日があるのだ。

紅茶を煎じた後の茶葉。ほとんど原形を保ったまま。これでも紅茶がじわじわと染み出してくる。

 一日の寒暖差が大きくなるのを待っていたら茶葉はどんどん成長してしまい紅茶にするには大きくなり過ぎた。蝋質が葉の表面を覆わないうちなら紅茶にできないことはないとばかり、茶摘みして2番茶に取りかかった。
   紅茶を作り始めた頃は製茶のセオリー通りに茶葉の汁が滲み出るまでしっかり揉んだのだけど、今はそんな苦労は止めている。経験で分かったことがある。先のざっくばらんの製茶作法でも紅茶は仕上がるということだ。
 それで、今年の2番茶だけど、滅法香りが出ない。遠くて微か。甘味も渋みも遠い。

 それでも、このお茶がすがすがしい。四谷トモカの紅茶はいつも褒められたけど、あれはスリランカのプッセルラーワに買い出しに行って仕入れたもの。あの紅茶を自家製で再現したくてアッサム樹を育てた。今年の2番茶はキーマンまでも行かなかったけど、このかしゃぐら紅茶は地産地消。いや、自家製茶自家消費。なかなかの代物さ、と思うことにした。これ、今、ここでしか飲めないから。


    2017-Jun-11


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