AZoNano 2022年7月6日
特集
ナノ物質の安全性は
どのように確保されるか?

プリヨム・ボース博士(インド・マドラス大学)

情報源:AZoNano Jul 6 2022
EDITORIAL FEATURE
How are Nanomaterials Safety Stored?
By Dr. Priyom Bose,
Ph.D. Plant Biology and Biotechnology
from University of Madras, India
https://www.azonano.com/article.aspx?ArticleID=6216

訳:安間 武 (化学材料問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/index.html
掲載日:2022年7月20日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/news/220706_
AZoNano_How_are_Nanomaterials_Safety_Stored.html


 過去数十年の間に、ナノ物質は、製薬、医療、農業、食品、化粧品、及び他の多くを含む様々な分野で適用されてきた。ナノ物質は非常に小さく、吸入可能で、溶解性が低く、組織に浸透して相互作用する可能性があるため、安全に保管、取り扱い、廃棄する必要がある。

ナノ物質と人間と環境へのリスク

 ナノ物質は、そのサイズが 1 nmから 100nm の範囲の物質であり(訳注1)、棒状、球形、ドット、チューブ、シートなどのさまざまな形態がある。

 ナノ物質は、多くの独自の特性(例えば、熱的、電気的、光学的、化学的、生物学的)を備えた大きな表面積対体積比を示す。用途の範囲を広げるいくつかの特性は、抗菌、断熱、UV 遮蔽、機械的強度の強化、撥水性、セルフクリーニングなどである。

 一部のナノ物質は自然界に自然に存在する(砂や花粉など)が、ほとんどは人工的に製造されている。それらは非常に小さいため、バルク材料とは異なる挙動を示す。科学者たちは、天然のナノ粒子への暴露は、工学的又は人工的に合成されたナノ粒子への暴露を大幅に上回っていると報告している。

 人間がナノ物質にさらされる様々な場合がある。たとえば、ナノ物質は、吸入、誤って注射又は摂取されたり、皮膚に接触したりする可能性がある。塗料、化粧品、電子機器、繊維、食品包装などに使用されているため、人間は、人工ナノ物質にもさらされているが、全てのナノ粒子が有害というわけではないことに注意する必要がある。

 人間の健康と環境に対するナノ物質のリスク評価に関連して利用できる研究はほとんどない。いくつかの研究によると、吸入されたナノ物質は気道に沈着し、炎症を引き起こし、肺の細胞や組織に損傷を与える可能性がある。

 いくつかのナノ物質は、細胞膜に容易に侵入し、細胞内小器官(intracellular organelles)に損傷を与え、細胞機能を破壊する可能性がある。さらに、研究者たちは、いくつかのナノ物質が自然発火性又は容易に可燃性であると報告した。これらのナノ物質は、望ましくない爆発や火災の脅威をもたらす。

ナノ物質のリスク評価

 ナノ粒子暴露がユーザーに及ぼす長期的な影響に関する研究は多く存在しないため、厳格な予防措置を講じることが重要である。全てのナノ物質に関連するリスクの全範囲を評価し、暴露後の有害な影響を減らすための効果的な予防/管理措置を開発することが不可欠である。

 産業では、欧州連合と国内法がナノ物質の生産と使用を規制している。ナノ物質に関連するリスクを評価する際の難しさのひとつは、異なる構造特性(サイズ、形状、分子状態など)に関連する様々な特性である。

 多くの産業で一般的に使用されているいくつかの金属ナノ物質には、酸化亜鉛と二酸化チタンがある。これらは人間には無害である(non-toxic to humans)(訳注2)が、微生物生態系に影響を与えるかもしれない抗菌特性を示す。したがって、全ての生物へのナノ物質暴露の徹底的なリスク評価が非常に重要である。

 科学者らは、物理的構造に基づいてナノ物質を分類することを推奨しており、各グループはさらにリスク評価、つまり、発がん性、変異原性、又は毒性の兆候についてナノ物質を分析する。ナノ物質の分類に重要な要素は、溶解性、表面積、及びサイズである。

ナノ物質の安全な取り扱い

 現在、ナノ粒子の安全性に関するガイドラインは明確ではなく、機関や業界によって異なる。ただし、スイス連邦公衆衛生局(FOPH)や米国労働安全衛生局(OSHA)などの一部の組織は、ナノ粒子の安全な取り扱いを促進するためのガイドライン又は推奨事項を個々の施設に提供した。

 ナノ粒子の取り扱いに関する安全ガイドラインの提案のひとつには、ナノ物質の合成中に、層流を使用し、空気流をユーザーに向けることが含まれる。さらに、陰圧と、HEPA フィルターを備えた換気された囲い又は局所排気の使用が推奨されている。

 全ての実験室は、化学成分と形態を示す丈夫な容器に保管する必要がある(例:ナノ酸化亜鉛)。ナノ物質を直接扱う人は、長袖の服、透過性の低い材料で作られた靴、耐薬品性の手袋、化学材料の飛沫から目を保護するための安全眼鏡、白衣を着用する必要がある。研究によると、不織布(高密度ポリエチレンテキスタイルなど)は、綿ベースの製品と比較して、ナノ物質への暴露をより効果的に阻止できることが示されている。

 いくつかの研究では、溶液に懸濁されたナノ物質は危険性が少ないことが示されているが、ナノベースの溶液の噴霧、超音波処理、注入、又は振とうは、吸入暴露のリスクを高める。科学者たちは、マトリックスに固定されたナノ物質は、機械的破壊(燃焼、切断、粉砕など)を受けない限り、危険性が最も低いと述べている。

 報告によると、ナノ粒子を扱う大多数の人々は、ナノ粒子への暴露に関連する危険性を完全には認識していない。それにより、科学者たちは、ナノ粒子の研究所やナノベースの産業職場向けの安全ポスターを作成することで、意識の欠如を最小限に抑えることができると信じている。

ナノ物質の適切な処分

 ナノ粒子の廃棄に関する既存のガイドラインは明確ではないが、未使用のナノ物質を通常のゴミや排水管に廃棄しないことを強く勧めている。通常、個々の研究所は、マクロサイズの化学物質の規制の範囲に該当する化学物質を使用する場合を除いて、特定の廃棄方法が必要かどうかを判断する。

 たとえば、バージニア工科大学、マサチューセッツ工科大学、カリフォルニア大学バークレー校などのいくつかの大学/研究機関は、廃棄前にナノ廃棄物(たとえば、危険及び非危険)を分類している。

 最終的に、全てのナノ粒子は、廃水処理施設、リサイクル施設、埋め立て地、又は焼却プラントに行き着く。研究によると、炭素ベースのナノ粒子は、高温での焼却によって除去できることが示されている。たとえば、カーボンナノチューブは、850℃を超える焼却でのみ破壊できる。欧州連合は、全ての焼却プラントは汚染材料をこすり落とすために煙道ガス処理システムを備えていなければならないと述べた。

References and Further Reading

訳注1:ナノ物質の定義
  • 欧州委員会2011年10月18日 ナノ物質の定義に関する勧告(化学物質問題市民研究会 更新日:2012年3月4日)
    1. 加盟国、欧州連合、及び産業界は、ナノテクノロジー製品に関する法律と政策及び研究プログラムを採択し実施する時に、用語”ナノ物質”について、次の定義を使用するよう要請される。
    2. ”ナノ物質”は、非束縛状態(unbound)、又はアグリゲート(aggregate)又はアグロメレート(agglomerate)の状態であり、サイズ数分布が50%以上であるような粒子については、1 又はそれ以上の外形寸法が1nmから100nmの範囲にある、天然、非意図的、又は工業的に製造された物質を意味する。
       特別の場合には、そして環境、健康、安全、又は競争力に関する懸念について正当化される場合には、50%というサイズ数分布閾値は、1%から50%の間の閾値によって置き換えてもよい。
    3. 上記第2項の例外として、1又はそれ以上の外形寸法が 1nm 以下のフラーレン、グラフェンナノフレーク、及び単層カーボンナノチューブはナノ物質とみなされるべきである。
      (以下略)
訳注2:当研究会が紹介した二酸化チタン・ナノ粒子の”有害影響”関連情報


化学材料問題市民研究会
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