欧州委員会2011年10月18日
ナノ物質の定義に関する勧告


情報源:Official Journal of the European Union 20.10.2011
COMMISSION RECOMMENDATION of 18 October 2011 on the definition of nanomaterial (2011/696/EU)
http://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/HTML/?uri=CELEX:32011H0696&from=EN

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2011年10月20日
更新日:2012年3月4日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/eu/EC_RECOMMENDATION_Nano_Definition.html


欧州委員会は、
欧州連合の機能に関する条約(Treaty on the Functioning of the Union)」を、そして特に第292条
訳注1を考慮しつつ、

(1) 2005年6月7日の委員会コミュニケーション”ナノ科学とナノ技術:欧州の行動計画 2005-2009”1は、ナノ科学とナノ技術への安全で統合された責任あるアプローチの迅速な実施のための明確で相互に関連した一連の行動を定義している。

(2) 欧州委員会は、行動計画の中でなされた約束にしたがって、既存の規制のナノ物質の潜在的なリスクへの適用可能性を決定するという観点で、注意深く、欧州連合の関連する法律を見直した。その見直しの結果は、2008年6月17日の委員会コミュニケーション”ナノ物質の規制的側面”2に含まれている。コミュニケーションは、”ナノ物質”という用語は欧州連合の法律の中で特に使われていないが、既存の法律は原則としてナノ物質に関連する潜在的な健康、安全、及び環境リスクをカバーしていると結論付けた。

(3) 欧州議会は、”ナノ物質の規制的側面に関する2009年4月24日の決議”3の中で、欧州連合の法律の中でナノ物質の包括的で科学に基づく定義の導入を特に要求した。

脚注
1 COM(2005) 243 final
2 COM(2008) 366 final
3 P6_TA(2009) 0328

(4) この勧告による定義は、欧州連合の立法及び政策目的において、ある物質が”ナノ物質”としてみなされるべきかどうかを決定するための参考として使用されるべきである。欧州連合の法律の中で、”ナノ物質”という用語の定義は、ハザードやリスクとは無関係に、物質の構成要素をなす粒子のサイズだけに基づくべきである。物質のサイズだけに基づくこの定義は、天然、非意図的、及び工業的に製造された(manufactured)物質を含む。

(5) 用語”ナノ物質”の定義は、利用可能な科学的知識に基づくべきである。

(6) ナノ物質のサイズ測定とサイズ分布は多くの場合難しい問題であり、異なる測定手法は同じ結果をもたらさないかもしれない。調和の取れた測定方法が、この定義の適用はどのような物質にも、また時が経過しても、一貫した結果をもたらすことを確実にするという考えの下に、開発されなくてはならない。調和の取れた測定法方が利用可能となるまで、利用可能な最良の代替手法(best available alternative methods)が適用されるべきである。

(7) 欧州委員会共同研究センター参照報告書”規制目的のためのナノ物質の定義に関する検討”4は、ナノ物質の定義は微粒子物質に目を向け、欧州連合法律で広く適用可能であり、世界中の他のアプローチと調和するものであるべきと示唆している。サイズは、ナノスケール制限のより明確な定義を必要とする定義特性だけ(the only defining property)であるべきである。

(8) 欧州委員会は、新規の及び新たに特定された健康リスクに関する科学委員会(SCENIHR)に対し、規制目的のための用語”ナノ物質”の定義を開発するときに考慮すべき要素に関する科学的情報提供を委託した。その意見”用語”ナノ物質”の定義のための科学的ベース”は2010年にパブリック・コンサルテーションにかけられた。2010年12月8日の意見で5、SCENHIRは、サイズはナノ物質に普遍的に適用可能であり、最も適切な尺度であると結論付けた。定義されたひとつのサイズ範囲は一様な解釈を容易にするであろう。下限は1nmが提案された。上限は100nmが一般的な合意としてよく使用されているが、この値の適切性を支持する科学的根拠は何もない。単一の上限値の使用はナノ物質の分類にとって制約的でありすぎるかもしれず、もっと異なるアプローチが適切かもしれない。規制目的のために、平均サイズ及びサイズの標準偏差を用いるサイズ数分布(number size distribution)もまた、定義を改良するために考慮されるべきである。物質のサイズ分布は、数濃度(number concentration)に基づくサイズ分布(すなわち、あるサイズ範囲内の物質の数を全物質数で割った値)として表現されるべきであり、ナノスケール粒子の質量分率(mass fraction of nanoscale particles)(訳注:全質量に対するある成分の質量割合)とすべきではない。質量分率が小さくても最大の(ナノ)粒子数を含んでいるかもしれないからである。SCENIHRは、ある物質が定義されたナノサイズ範囲に入るかどうかを決定するための代用として、体積比表面積を使用することにより、定義の適用が容易になるある特定のケースを示した。

(9) 国際標準化機構(ISO)は、用語”ナノ物質”を、”任意の外形寸法がナノスケール、又は内部構造又は表面構造がナノスケールであるような物質”として定義している。用語”ナノスケール”は約1nmから100nmのサイズ範囲として定義されている6

脚注
4 EUR 24403 EN, June 2010
5 http://ec.europa.eu/health/scientific_committees/emerging/docs/scenihr_o_032.pdf
6 http://cdb.iso.org

(10) サイズ数分布は、ナノ物質は最も典型的には特定の分布中に異なるサイズで存在する多くの粒子から構成されるという事実に基づいている。サイズ数分布を特定しないと、特定のある物質が、ある粒子は100nm以下であり、他の物質はそうではないような場合に、定義を満たすのかどうか決定するのは困難であろう。このアプローチは、物質の粒子分布(particle distribution of a material)は数濃度(すなわち粒子数)に基づく分布として表現されるべきとする SCENIHR の意見に従うものである。

(11) サイズ範囲が1nm〜100nmの粒子を含む物質のサイズ分布が、ある値以下ならナノ物質に特有な特性を示さないであろうと予測できる特定の値を示唆する明確な科学的根拠は存在ない。SCENIHRの科学的助言は、0.15%の閾値を持つ標準偏差に基づく統計学的なアプローチを使用することであった。そのような閾値によってカバーされるであろう広い範囲にわたる物質と、規制という文脈での使用のための定義範囲を適合させる必要性を考えれば、その閾値はより高くあるべきである。 この勧告で定義されるナノ物質は、1nm〜100nmのサイズをもつ粒子が50%以上を構成すべきである。SCENIHRの助言に従えば、たとえ1nm〜100nmの範囲の粒子の数が小さくても、ある場合には目的とされる評価を正当化するかもしれない。しかし、それは、そのような物質をナノ物質とする誤った分類に導くことになりかねない。それにもかかわらず、環境、健康、安全、又は競争力の懸念が、50%以下の閾値の適用を正当化する特定の法的なケースがあるかもしれない。

(12) アグロメレート(agglomerate)又はアグリゲート(aggregate)粒子は、非束縛(unbound)粒子と同じ特性を示す。さらに、ナノ物質のライフサイクルの間に、粒子がアグロメレート又はアグリゲートから放出されるようなケースもあり得るであろう。したがって、この勧告での定義は、構成要素をなす粒子が1nm〜100nmのサイズ範囲にある場合は、アグロメレート又はアグリゲートの粒子もまたナノ物質として含む。

(13) 現在、乾燥固体物質又は粉体について、体積による比表面積を窒素吸着法“BET法”で測定することができる。これらのケースでは、比表面積は潜在的なナノ物質を特定するための代用として使用することができる。新たな科学的知識が、将来、この方法やその他の方法を他のタイプの物質に使用する可能性を広げるかも知れない。物質によっては、比表面積の測定とサイズ数分布との間に矛盾があるかもしれない。したがって、サイズ数分布の結果が支配的であり、ある物質がナノ物質ではないことを示すために比表面積を使用することはできないということが規定されるべきである。

(14) 技術的開発と科学的進歩は速いスピードで進んでいる。勧告された定義は、それが必要に対応することを確実にするために2014年12月までに見直しの対象となるべきである。特に、その見直しは、50%というサイズ数分布閾値を上げるべきか下げるべきか、そして、ある分野で使用されているナノポーラスやナノコンポジット物質など複雑なナノコンポーネント物質のようなナノスケールで内部構造又は表面構造を持った物質を含めるべきかどうかを評価すべきである。

(15) 実行可能であり、特定の法的脈絡の中で、その定義の適用を容易にすることが確かな場合には、物質の代表的なセット(組)中のナノ粒子の典型的な濃度についての知識はもちろん、ガイダンスや標準化された測定法が開発されるべきである。

(16) 勧告中で述べられている定義は、リスク管理に関連するものを含めて、これらの物質のための追加的な要求を確立する可能性のある欧州連合の法律又は規定のどのような部分の適用範囲についても早まった判断又は反映をすべきではない。ある場合には、たとえそれらが定義の範囲に入っても、ある物質を特定の法律又は法的規定の適用範囲から除外する必要があるかもしれない。同様に、例えば、1nmより小さい又は100nmより大きいサイズを持ったある物質を追加物質として、ナノ物質のための特定の法律又は法的規定の適用範囲に含める必要があるかもしれない。

(17) 医薬品分野で普及しつつある、また専門化されたナノ構造システムですでに使用されているという特別な状況がある中で、ある医薬品や医療機器を定義する時に、この勧告中の定義は、”ナノ”という用語の使用に先入観を持つべきではない。

であるがゆえに、この勧告を採択した。
  1. 加盟国、欧州連合、及び産業界は、ナノテクノロジー製品に関する法律と政策及び研究プログラムを採択し実施する時に、用語”ナノ物質”について、次の定義を使用するよう要請される。

  2. ”ナノ物質”は、非束縛状態(unbound)、又はアグリゲート(aggregate)又はアグロメレート(agglomerate)の状態であり、サイズ数分布が50%以上であるような粒子については、1 又はそれ以上の外形寸法が1nmから100nmの範囲にある、天然、非意図的、又は工業的に製造された物質を意味する。

     特別の場合には、そして環境、健康、安全、又は競争力に関する懸念について正当化される場合には、50%というサイズ数分布閾値は、1%から50%の間の閾値によって置き換えてもよい。

  3. 上記第2項の例外として、1又はそれ以上の外形寸法が1nm以下のフラーレン、グラフェンナノフレーク、及び単層カーボンナノチューブはナノ物質とみなされるべきである。

  4. 上記第2項の目的のために、”粒子(particle)”、”アグロメレート(agglomerate)”及び”アグリゲート(aggregate)”は次のように定義される(訳注2)。
    1. ”粒子(particle)”は、物理的境界を持つ物質の微細な断片を意味する。
    2. ”アグロメレート(agglomerate)”は、外部表面積が個々の要素の表面積の和とほぼ同じであり、弱く束縛された粒子又はアグリゲートの集合を意味する。
    3. ”アグリゲート(aggregate)”は強く束縛された又は溶解された粒子を意味する。

  5. 技術的に実行可能であり、特定の法律で要求される場合には、上記第2項の定義に従うかどうかは、体積による比表面積に基づき決定されるかもしれない。体積による比表面積が60 m2/cm3より大きい物質は、第2項の定義に入ると考えられるべきである。しかし、サイズ数分布に基づいてナノ物質であるとされる物質は、たとえ比表面積が60 m2/cm3より小さくても、第2項の定義を満たしているとみなされるべきである。
公式版で下記追加 (12/03/03)
  1. 2014年までに1項から5項に規定されている定義は科学的及び技術的発展に基づく経験に照らして、見直しが行なわれるであろう。見直しは、50%というサイズ数分布閾値が増加されるべきか又は減少させるべきかに関して特に焦点を当てるべきである。

  2. この勧告は、加盟国、EU機関、及び認定事業者に向けられている。
Done at Brussels, 18 October 2011.
For the Commission
Janez POTO.NIK
Member of the Commission


訳注
■訳注1:
   CONSOLIDATED VERSION OF THE TREATY ON THE FUNCTIONING OF THE EUROPEAN UNION

■訳注2:アグリゲート及びアグロメレート
出典:工業用ナノ材料に関する環境影響防止ガイドライン/環境省
http://www.env.go.jp/chemi/nanomaterial/eibs-conf/guideline_0903.pdf
  • アグリゲート(aggregate):強く結合した又は溶融した粒子からなるもので、その表面積が個々の構成物の表面積の合計よりもかなり小さな粒子(共有結合や焼結、複雑な物理的絡み合い等の強い力)
  • アグロメレート(agglomerate):粒子及びアグリゲートあるいは両者が弱く集合したもので、その表面積が個々の構成物の表面積の合計とほぼ同じもの(ファンデルワールス力やそれと同様の単純な物理的絡み合いなどの弱い力)
(アグリゲートやアグロメレートは2次粒子とも呼ばれる)

■EU関連機関の情報/意見
■ステークホールダーの意見


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