INRAE(仏・国立農学食品環境研究所)2020年10月7日
二酸化チタンナノ粒子:
E171 は胎盤関門を通過する

情報源:INRAE 07 October 2020
Nanoparticles of titanium dioxide:
E171 crosses the placental barrier

https://www.inrae.fr/en/news/nanoparticles-
titanium-dioxide-e171-crosses-placental-barrier


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2020年10月15日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/research/201007_
INRAE_Nanoparticles_of_titanium_dioxide_E171_crosses_the_placental_barrier.html


プレスリリース 2020年10月7日発表]二酸化チタンとは何か? それは、その不透明化特性及び着色特性(白色)のために世界中で広く使用されている重要な食品添加物である。ヨーロッパでは E171 としてよく知られているが、この添加物を含む食品の販売は、予防的理由により、2020年1月1日から1年間、フランスで停止されている[1]。 2017年の 国立農学食品環境研究所(INRAE)(訳注1)の科学者らによる研究[2]は、1年間という期間限定の停止措置を支えるために必要な科学的証拠を提供した。フランス国立計量試験所(LNE)、材料物理学グループ(フランス国立科学研究センター/ルーアン応用科学研究所/ルーアン大学ノルマンディ)、トゥールーズ大学病院、ピカルディ・ジュール・ヴェルヌ大学、トゥールーズ国立獣医学校と協力して、科学者らは人間での研究を続け、E171に存在する二酸化チタン・ナノ粒子が胎盤を通過して胎児環境に到達できるという証拠を提供した。 10月7日に Particl eand Fiber Toxicology で発表された彼らの研究結果は、妊婦のこれらのナノ粒子への曝露のリスクを評価することの重要性を警告している。


 同じ科学者らの以前の研究[2]は、E171の摂取に関連するリスクについて警鐘を鳴らし、腸からナノ粒子の形で血流に流れ込み[2][3]、肝臓や脾臓などの臓器に蓄積することを示していた[4]。慢性暴露後、大腸がんの初期段階を引き起こし、がんを促進するリスク、および免疫応答の変化が観察された[2]。ラットで得られたこれらの結果に応えて(そしてそれらが人間に直接当てはめることは可能ではないにもかかわらず)、フランス当局は2020年1月1日からE171を含む食品の販売を1年間停止することを決定した。

 他の科学的研究は、動物でこの現象を示した。非食品グレードの二酸化チタンナノ粒子は胎盤を通過し、他の影響の中でも、特に胎児の発育を妨げた。しかし、これらのナノ粒子の経胎盤通過の問題は、人間(妊婦)について一度も取り上げられていなかった。では、E171にさらされた場合はどうなるか? 人間の胎児も食事由来のナノ粒子にさらされる可能性があるのか? これらの質問に答えるために、フランス国立計量試験所(LNE)、材料物理学グループ、トゥールーズ大学病院、ピカル・ディジュール・ヴェルヌ大学、トゥールーズの国立獣医学校と協力している国立農学食品環境研究所(INRAE)の同じ科学者らは、胎盤での E171 の伝播に焦点を当てた。

E171添加剤は胎盤を通過する

 科学者らはボランティアの母親から22の胎盤を収集し、妊娠中にこの臓器に蓄積された総チタン・レベルを分析した。 これらの分析は、顕微鏡的および化学的分析と組み合わせて、主にナノ粒子の形で胎盤に二酸化チタンが蓄積することを示した。 したがって、母親らは妊娠中にこの物質にさらされていたことになる。 並行して、母親らの食事が汚染源である可能性があるかどうかを判断するために、科学者らは母体側から E171を胎盤にしみ込ませた(潅流した)。 彼らは胎盤の胎児側のチタンを分析し、粒子が見つかるかどうかを観察した。 結果は明らかであった。E171からの二酸化チタンナノ粒子は母体側から胎児側に渡されていた。

新生児は子宮内で二酸化チタンに暴露している

 科学者たちはまた、子宮内での発育中の新生児の二酸化チタンへの曝露にも焦点を当てた。これを達成するために、彼らは胎盤で行ったのと同じテストを使用したが、今回は胎便(meconium)サンプルで行った。新生児からのこれらの最初の便は、妊娠中の化学物質への曝露の優れた指標を提供するからである。繰り返しになるが、結果は明らかであった。二酸化チタンのナノ粒子が胎便で発見され、胎児が母親の血液を介してこの物質に曝露されたことを示している。

 人間の臓器や組織に関するこれらの新しいデータは、二酸化チタン・ナノ粒子への人間の出生前暴露を初めて明らかにした。食物に加えて、これらの粒子は他のソースから発生する可能性がある(下記コラムを参照)。 E171で灌流され単離されたヒト胎盤モデルのおかげで、科学者は妊娠中に摂取された食品グレードの二酸化チタンがナノ粒子の形で胎盤に流れ込み、胎児を汚染する可能性があることを示している。これらの人間のデータは、妊娠中の母親の E171への曝露のリスクを評価するために食品安全機関によって利用される可能性がある。発達への潜在的な影響を明らかにし、この広く使用されている添加剤中のナノ粒子の存在に関する決定において当局を導くために、OECD および EFSA ガイドラインに従って実施された研究で補足する必要がある。

 二酸化チタン(TiO2)は、化粧品、塗料、建設資材に使用されているが、非常に一般的な添加剤(ヨーロッパでは E171 として知られている)である農産食品業界でも使用されている。 E171 は、白色化と不透明化の特性を有するので、菓子、チョコレート製品、ビスケット、チューインガム、ソース、アイスクリームなどに使用されている。 フランスでは、 E171 の安全性に関する科学的証拠が不十分なため、2020年1月1日から1年間、食品への使用が停止されたが、歯磨き粉、日焼け止め、化粧用クリーム、粉末、及び医薬品では使用されている。 ただし、E171は、ナノ粒子が 50%以上で構成されていない場合、欧州委員会の勧告によれば「ナノ材料」とは見なされない。 しかし、食品、化粧品などに適用される規制の定義では、閾値は規定されていない。

原注
  1. 農業および食品部門の貿易関係と全ての人にとって健康的で持続可能で入手しやすい食品のバランスに関する2018年10月30日のフランス法の適用(エガリム法)。この措置は、フランスで販売される潜在的に再生可能な食品に 1年間適用される。 この予防原則は非食品には適用されない。 https://www.legifrance.gouv.fr/jorf/id/JORFTEXT000038410047?r=v1pKGxVbGN(in French)(訳注:リンク切れ)

  2. Bettini S, Boutet-Robinet E, Cartier C, Comera C, Gaultier E, Dupuy J, Naud N, Tache S, Grysan P, Reguer S, Thieriet N, Refregiers M, Thiaudiere D, Cravedi JP, Carriere M, Audinot JN, Pierre FH, Guzylack-Piriou L, Houdeau E. Food-grade TiO2 impairs intestinal and systemic immune homeostasis, initiates preneoplastic lesions and promotes aberrant crypt development in the rat colon. Sci Rep. 2017 Jan 20;7:40373. doi: 10.1038/srep40373.

  3. Comera C, Cartier C, Gaultier E, Catrice O, Panouille Q, El Hamdi S, Tirez K, Nelissen I, Theodorou V, Houdeau E. Jejunal villus absorption and paracellular tight junction permeability are major routes for early intestinal uptake of food-grade TiO2 particles: an in vivo and ex vivo study in mice. Part Fibre Toxicol. 2020 Jun 11;17(1):26. 空腸絨毛吸収および傍細胞密着結合透過性は、食品グレードのTiO2粒子の早期腸内取り込みの主要な経路である:マウスでの invivoおよびexvivo研究 doi: 10.1186/s12989-020-00357-z.

  4. 脾臓は免疫と血球の再生に役割を果たす。

参照(オリジナル論文)
 Guillard, A., Gaultier, E., Cartier, C. et al. Basal Ti level in the human placenta and meconium and evidence of a materno-foetal transfer of food-grade TiO2 nanoparticles in an ex vivo placental perfusion model. Part Fibre Toxicol 17, 51 (2020). https://doi.org/10.1186/s12989-020-00381-z


訳注1: INRAE(国立農学食品環境研究所)
INRAEは、2020年1月1日に設立されたフランスの新しい国立農学食品環境研究所であり、国立農学食品環境研究所である INRA と国立農学食品環境研究所である IRSTEA が合併して設立さた。(INRAE/About us

訳注:当研究会が過去に発表した関連記事

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