フランス国立農学研究所(INRA)
プレスリリース 2017年1月20日
食品添加物 E171
二酸化チタン・ナノ粒子への
経口暴露が初めて発見される


情報源:INRA Press releases, 20 Jan 2017
Food additive E171: first findings of oral exposure to titanium dioxide nanoparticles
http://presse.inra.fr/en/Resources/Press-releases/Food-additive-E171

紹介:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2017年1月22日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/research/
170120_INRA_Food_additive_E171_first_findings_of_oral_exposure_to_TiO2.html


 フランス国立農学研究所(INRA)の研究者らと彼らのパートーナー[1]は、一般的に食品中で、特に砂糖菓子で使用される二酸化チタンからなる着色添加物(E171)(訳注1)への経口暴露の影響を研究した。彼らは、 E171 が動物の腸管バリアを貫通し、体の他の部分に達することを初めて示した。 E171 粒子のナノスケール断片の吸収に関連する免疫系疾患が観察された。研究者らはまた、この添加物への慢性経口暴露は暴露させた動物の40%に、結腸に前がん病変−非悪性発がん段階−を自然に発生させることを示した。さらに E171 は、実験目的で事前に発生させた病変の進行を加速させることが見いだされた。この発見は、この添加物が結腸・直腸がんの初期段階を引き起こし、その進行を助長する役割を果たすことを示したが、それらを人間、又はもっと進行した段階にそのまま当てはめることはできない。これらの発見は『Scientific Reports』の2017年1月20日号に発表された。

 化粧品、日焼け止め、塗料、及び建材など多くの製品中に存在する二酸化チタン(TiO2)はまたヨーロッパでは E171 として知られ、食品産業で製品を白くする又は不透明にするための添加物として広く使用されている。それは、歯磨きや医薬品はもちろん、お菓子、チョコレート製品、ビスケット、チューインガム、栄養補助食品中で一般的に見いだされる。マイクロ粒子又はナノ粒子からなる E171 は、 50%以上のナノ粒子を含有していないので(一般的には10〜40%含有)、”ナノ物質”としてラベル表示されることはない。国際がん研究機関(IARC)は、吸入による二酸化チタンへの暴露(職業暴露)のリスクを評価し、グループ 2B (ヒトに対する発がん性が疑われる)と分類している。

 現今、E171への経口暴露は懸念があり、特にお菓子をたくさん食べる傾向のある子どもたちに懸念がある。INRA の研究者らはその製品を全体(すなわち、マイクロ−及びナノ粒子の混合物)として調査し、また、それを一つのモデル粒子と比較することにより、ナノスケール粒子だけの影響も評価した。

二酸化チタンは腸バリアを通過し血流に入り込む

 研究者らはラットに、1日当たり体重 1 kg 当たり 10mg の E171 を経口投与した。この投与量は人間が食品摂取を通じて経験する暴露と同等である(データ:欧州食品安全機関2016年9月[2])。彼らは、生体内(in vivo)で二酸化チタンが腸により吸収され、血流中に入り込むことを初めて示した。実際に研究者らは二酸化チタン粒子を動物の肝臓中に発見した。

二酸化チタンは腸及び全身の免疫反応を変更する

 二酸化チタン・ナノ粒子は、小腸及び結腸の内面に存在し、腸内で免疫反応を起すパイエル板(Peyer's patches)(訳注2)の免疫細胞の核に入り込んでいた。研究者らは、パイエル板中でのサイトカイン(訳注3)の生成の欠陥から結腸粘膜の微小炎症の進行まで、免疫系の不安定を示した。E171 への暴露は、生体外(in vitro)で 活性化されると、全身性免疫の代表である脾臓中で炎症性サイトカインを生成する免疫細胞の用量を増大させる。

二酸化チタンへの慢性暴露は結腸・直腸がんの早期段階を起し、進行を促進する役割を果たす

 研究者らは、100日間、飲料水を通じての定期的な経口投与により、ラットを二酸化チタンに暴露させた。事前に実験用発がん性物質で処理したラットのグループでは、 二酸化チタンへの暴露は腫瘍性病変のサイズの増大をもたらした。健康なラットのグループでは、 E171 への暴露は11匹中4匹が腸管上皮に腫瘍性病変を引き起こした。非暴露ラットは100日間テストの最終日まで何ら異常を示さなかった。これらの結果は、E171 は動物の結腸がん初期段階を引き起こし、進行を促進することを示している。

 これらの研究は、添加物 E171 は腸と体全体における二酸化チタンナノ粒子の発生源であり、免疫機能への影響及び結腸の前がん病変の進行をもたらすことを初めて示した。これらの初めての発見は、がんの後の段階における観察を継続するために OECD ガイドラインの下に実施された発がん研究に根拠を与えるものである。彼らは、 E171 添加物の人間へのリスクを評価するための新たなデータを提供している。

 これらの研究は、環境、健康、及び職場に関連する研究のためのフランス国家プログラム(PNR EST)の枠組みの中で、フランス国立食品・環境・職業衛生安全庁(ANSES)により資金提供され、INRA により取りまとめられて、Nanogut  (訳注:2年間のプロジェクト)の枠組みの中で実施された。サラ ベッティーニ(Sarah Bettini)の学位論文契約は、French laboratory of excellence LabEx SERENADEにより資金提供された。

[1] INRA partners for this study: French Agency for Food, Environmental and Occupational Health & Safety (ANSES), CEA-Universite Grenoble-Alpes, Synchrotron SOLEIL, Luxembourg Institute of Science and Technology.

[2] Re-evaluation of titanium dioxide (E 171) as a food additive. EFSA Journal 2016;14(9):4545.

Reference
Sarah Bettini, Elisa Boutet-Robinet, Christel Cartier, Christine Comera, Eric Gaultier, Jacques Dupuy, Nathalie Naud, Sylviane Tache, Patrick Grysan, Solenn Reguer,Nathalie Thieriet, Matthieu Refregiers, Dominique Thiaudiere, Jean-Pierre Cravedi, Marie Carriere, Jean-Nicolas Audinot, Fabrice H. Pierre, Laurence Guzylack-Piriou & Eric Houdeau Food-grade TiO2 impairs intestinal and systemic immune homeostasis, initiates preneoplastic lesions and promotes aberrant crypt development in the rat colon, Scientific Reports, 7:40373, DOI: 10.1038/srep40373


訳注1:E171 訳注2:パイエル板 訳注3:サイトカイン 訳注:当研究会が紹介した二酸化チタンナノ粒子有害影響関連記事
  1. Ask Health News 2019年5月14日 食品添加物 E171 腸内微生物叢に有害影響を及ぼす
  2. フランス国立農学研究所(INRA)プレスリリース 2017年1月20日 食品添加物 E171:二酸化チタン・ナノ粒子への経口暴露が初めて発見される

  3. 欧州委員会共同研究センター(JRC) 2016年1月 二酸化チタン・ナノ粒子の結晶構造の役割:アナターゼではなくルチルが Balb/3T3 マウスの繊維細胞に有害影響を引き起こす [アブストラクト]

  4. PLoS ONE 2012年11月7日 二酸化チタン ナノ粒子 ミジンコの次世代の感受性を高める

  5. C&EN 2012年1月27日 二酸化チタンの分量 キャンディ中のTiO2のレベルは高いので子どもは大人よりこの漂白剤を多く摂取する

  6. Nanowerk 2011年9月19日 二酸化チタン・ナノ粒子 魚の脳を損傷する

  7. Nature Nanotechnology 2011年4月3日 シリカと二酸化チタンは胎盤関門を通過してマウスに妊娠合併症を引き起こす[アブストラクト]

  8. C&EN 2010年9月30日 環境中の二酸化チタン・ナノ粒子

  9. ScienceDirec 2010年5月 単純化された淡水食物連鎖における二酸化チタン・ナノ粒子のミジンコからゼブラフィッシュへの栄養的移動

  10. SAFENANO 2009年7月30日 TiO2 ナノ粒子 マウスの脳の発達に影響を与える

  11. ピコ通信/第131号(2009年7月24日発行) ナノの話(1)ナノ日焼け止め 二酸化チタンや酸化亜鉛のナノ粒子

  12. EHN 2008年11月17日 論文解説 二酸化チタンナノ粒子が脳細胞を傷つける

  13. 米化学会 ES&T 2006年6月7日 TiO2 ナノ粒子 脳細胞にダメージを与える可能性 米EPA研究者らの報告



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