ChemSec News 2019年2月6日
企業のロビーイングは
EU で強い影響力を持つと CEO 報告書


情報源:ChemSec, February 6, 2019
Report says corporate lobbying is a major force in the EU
https://chemsec.org/report-says-corporate-lobbying-is-a-major-force-in-the-eu/

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2019年3月6日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/eu/eu/ngo/190206_ChemSec_
Report_says_corporate_lobbying_is_a_major_force_in_the_EU.html

 研究及びキャンペーン団体である Corporate Europe Observatory(CEO:欧州企業監視)による新たな報告書の中で、欧州連合の加盟国は、”企業権益に対して彼らの政策決定に悪意ある有害な方法で影響を及ぼすことを許している捕らわれた国家 (captured states)である”と述べている。

 同報告書は、広い範囲の分野−化学分野もそのひとつ−での企業のロビーイングを明らかにしている。具体的なひとつのケースは 2016年から続いている二酸化チタンの発がん性分類に関する戦いである(訳注1)。

 二酸化チタンは、日焼け止めや塗料のような日用品中に見いだされる”白色化”化学物質であり、欧州委員会はそれが発がん性物質として分類され規制されるべきかどうかを評価中である。

 2016年にフランスは、欧州化学物質庁(ECHA)に二酸化チタンを”吸入による発がん性物質”として分類するよう求める要請書を提出した(訳注2)。それを受けて実施されたパブリック・コンサルテーションは多数のコメントで溢れた。CEO 報告書によれば、パブリック・コンサルテーションに対する 500件のコメントのほとんど全てが二酸化チタンの分類に反対する産業側からのものであった。

 最終的に欧州化学物質庁(ECHA)のリスク評価委員会は、二酸化チタンを吸入したときに”(ヒトへの発がん性が)疑われる物質”として分類することにより当初の提案の評価の格付けを下げる提案をし、彼らの意見を欧州委員会に送った。しばらくの間、結論は延期された後、 REACH 委員会は来週、二酸化チタンの分類に関して投票を行うことになっている。

 本件の場合、中心的なロビー団体は”二酸化チタン製造者協会(TDMA)”であり、同協会は名前が示すとおり、二酸化チタン製造者から構成されている。同団体のメンバーのうち二人はスロベニアとイギリスの製造者である。

 偶然にも二酸化チタン製造者協会(TDMA)はこれらの国の政府の中に同調者を見つけている。

 本件に関する最近の欧州委員会と加盟国の協議で、イギリスはスロベニアとともに、全てのタイプの二酸化チタンについて、発がん性の分類に反対の立場を明確にし、(発がん性分類の)代わりにもっと弱い”ハザード・コミュニケーション”ラベル(危険情報伝達表示)を提案した。

 イギリスとスロべニアからの企業ロビーイングと代替案は、他の加盟国もまた ECHA リスク評価委員会により提案された分類について懸念を提起しているので、うまくいっているように見える。

 特にヨーロッパにおける二酸化チタンの最大の製造国であるドイツは、その分類に反対であると述べている。

 Corporate Europe Observatory(CEO:欧州企業監視)による報告書は、市民社会グループは企業側の特権的アクセス又は財源に対抗できないので、加盟国の EU の意思決定に及ぼす影響に大きな不均衡があると主張している。例えば、加盟国のある常任代表部の委員は 1年間に 500回以上の会議をもった。

 これらの会議の 73%は企業権益との会合であり、わずか13%が NGOs と労働組合との会合であった。ロビーイストとの会合に関する何らかの透明性を示したのは、19の常任代表部のうち、わずか 4 代表部だけであった。他の代表部は不透明のままであった。

 ”我々はこの調査の結果について非常に懸念を持っている。科学に基づくべき決定に対して産業側ロビー団体がいかに大きな影響を及ぼしているかを明らかにした”と、 ChemSec の上席政策顧問フリーダ・ホックは述べている。

 しかし、産業側のロビー活動は 2つの加盟国に影響を及ぼそうとしただけではない。二酸化チタン製造者協会(TDMA)は、分類に反対している、よく知られた広報会社及び 欧州化学工業連盟(Cefic)の両者から助言を受けていた。

 オンラインのニュース・ウェブサイト『 Politico 』は、全ての国の当局者との会合を要求するロビーイストによる産業側からの”よく組織された圧力”について述べる EU 当局者の言葉を引用している。

 同様にフランスの新聞ル・モンドは、ある加盟国の環境省の役人が二酸化チタンについて討議するための産業側との会合に合意した時に、24人を下らないを産業側の人間がやってきたと、報じている。

 良いニュースとしては、欧州議会は先週、透明性に関する前例のない規則を採択し、欧州議会の議員はロビーイストとの会合のリストをオンラインで発表することを義務付けた。

 ”Corporate Europe Observatory(CEO:欧州企業監視)による報告書、及び議会で新たに採択された透明性規則が”議論のきっかけとなり、EU 機関内での企業のロビーイングにもっと透明性をもたらすことが望まれる。


訳注1
世界の発がん性分類 (IARC、NTP、EPA、OSHA、EU)

訳注2
フランス食品環境労働衛生安全庁(ANSES)、二酸化チタンの吸入による発がん性を1Bと分類することを欧州化学品庁(ECHA)に提案したことを発表(食品安全委員会 2016(平成28)年6月3日)

訳注:関連記事
訳注:当研究会が紹介した二酸化チタンナノ粒子有害影響関連記事
  1. フランス国立農学研究所(INRA)プレスリリース 2017年1月20日 食品添加物 E171:二酸化チタン・ナノ粒子への経口暴露が初めて発見される

  2. 欧州委員会共同研究センター(JRC) 2016年1月 二酸化チタン・ナノ粒子の結晶構造の役割:アナターゼではなくルチルが Balb/3T3 マウスの繊維細胞に有害影響を引き起こす [アブストラクト]

  3. PLoS ONE 2012年11月7日 二酸化チタン ナノ粒子 ミジンコの次世代の感受性を高める

  4. C&EN 2012年1月27日 二酸化チタンの分量 キャンディ中のTiO2のレベルは高いので子どもは大人よりこの漂白剤を多く摂取する

  5. Nanowerk 2011年9月19日 二酸化チタン・ナノ粒子 魚の脳を損傷する

  6. Nature Nanotechnology 2011年4月3日 シリカと二酸化チタンは胎盤関門を通過してマウスに妊娠合併症を引き起こす[アブストラクト]

  7. C&EN 2010年9月30日 環境中の二酸化チタン・ナノ粒子

  8. ScienceDirec 2010年5月 単純化された淡水食物連鎖における二酸化チタン・ナノ粒子のミジンコからゼブラフィッシュへの栄養的移動

  9. SAFENANO 2009年7月30日 TiO2 ナノ粒子 マウスの脳の発達に影響を与える

  10. ピコ通信/第131号(2009年7月24日発行) ナノの話(1)ナノ日焼け止め 二酸化チタンや酸化亜鉛のナノ粒子

  11. EHN 2008年11月17日 論文解説 二酸化チタンナノ粒子が脳細胞を傷つける

  12. 米化学会 ES&T 2006年6月7日 TiO2 ナノ粒子 脳細胞にダメージを与える可能性 米EPA研究者らの報告



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