欧州委員会/科学環境政策 2017年5月18日
自浄セメントから放出される TiO2 ナノ粒子:
新たな研究がどのくらい、どのように環境中に漏れ出すのかを検討


情報源:European Commission / Science for Envuronmental Policy, 18 May 2017
Nanoparticle release from self-cleaning cement:
new study considers how much escapes into the environment, and how
http://ec.europa.eu/environment/integration/research/newsalert/pdf/
nanoparticle_release_self_cleaning_cement_how_much_escapes_and_how_488na1_en.pdf


Source: Bossa, N., Chaurand, P., Levard, C., Borschneck, D., Miche, H.,
Vicente, J., Geantet, C. Aguerre-Chariol, O., Michel, F.M. and Rose, J. (2017).
Environmental exposure to TiO2 nanomaterials incorporated in building material.
Environmental Pollution, 220: 1160-1170. DOI:10.1016/j.envpol.2016.11.019.

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2017年6月15日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/EC/
170518_EC_TiO2-NM_release_from_self-cleaning_cement.html

 二酸化チタンナノ物質(TiO2-NM)が光触媒セメント−新たなタイプである自浄(防汚)セメント(訳注1)−から環境中にどのくらい放出されるかに関して、新たな数値が最近の研究で示された。実験的テスト結果に基づき、研究者らは、セメントの多孔性に依存しつつ、光触媒セメントの TiO2-NM の 0.015% から 0.033%が数年間のセメントの使用期間中に環境中に放出される可能性があると見積もっている。その研究は、より安全なナノ製品(すなわち、ナノ物質を導入している商業化された製品)の設計はもちろん、 TiO2-NM の環境リスクに情報を提供することに役立つであろう。
 TiO2-NMを含有する光触媒セメントは、舗装用ブロック、道路表面、及び壁パネルを含んで多くの建築用材料中で使用されており、そのための市場が新たに出現している。そのナノ物質はセメントに自浄特性と空気浄化特性をもたらす。2012年にはヨーロッパで年間 4,000トンの光触媒セメントが製造されていたと見積られ、それはヨーロッパの全セメント製造量(2億3,550万トン)のほんの一部ではあるが、無視できる量ではない。

 このセメントの潜在的な環境リスクは、約束される便益とともに検討される必要がある。例えば TiO2-NM は水生動物に有害影響を持つかもしれないことを研究が示唆している[原注1](訳注2)。

 セメントの設計がそのようなリスクにどのように影響を及ぼすかに新たに光を当てるために、この研究は、 TiO2-NM が建築材料として使用されている間に材料からどのように放出されるのか、どのくらい放出されるのか、そして放出される時の TiO2-NM の特性を調査した。実際に、セメントは安定的な材料ではなく、厳しい環境条件(雨、凍結/溶融の繰り返し、など)にさらされると分解と風化を受けやすい。

 研究者らは、セメントの多孔性(それが含む多くの小さな孔)が放出にどの様に影響するかについて、特に関心をもった。研究者らは、セメントの劣化進行を模擬するためのテストを実験室規模で実施した。彼らは TiO2-NM を含有した白色のポルトランドセメント(世界中で使用されている最も一般的なセメント)の 3種類の小粒を7日間、水中に浸した。その後、セメントから漏れ出した TiO2-NM の量をはかるためにその水を化学的に分析した。彼らは TiO2-NM はもっぱら粒子として放出され、溶解したチタンは検出されなかった。

 3種類のセメントは最初の多孔性が異なっており、それは X 線3次元画像によって決定された。このセメント多孔性は、セメントペーストの養生時に使用される水の含有量に関係する(原注2)(この研究では水・セメント比(w/c)は 30%、40%、及び50%)。最初のセメントペーストの水含有量が多いと、セメントが固まったときに多孔性がより高くなる。研究者らは、セメントの多孔性が高いと TiO2-NM の放出が高いという仮説を想定した。

 予測されたように、セメントは7日間にわたり分解し、その表面層は多孔性が増した。分解と多孔性の進行は水含有が高いセメントほど速かった。重要なことに、粒子放出に重要な役割を果たすであろうセメントの表面層は 30%、40%、及び 50%のセメントについて多孔性がそれぞれ 9.6%、14.1%、及び 41%増加した。

 7日間の加速エージング の後、TiO2-NM の総放出量は、30%、40%、及び 50%のセメントについて、それぞれセメントの平方メートル当たり 18.7、33.5 及び 33.3 ミリグラム(又はセメント1グラム当たり、TiO2-NM 4.12、8.72、及び 9.21 マイクログラム)であることが計算された。これらの数値はセメントに当初含まれていた総 TiO2-NM 重量の 0.015〜0.033%であった。

 TiO2-NM の放出量は水中での時間が長くなるにつれて徐々に増大したが、研究者等はこれは変化した表面層及びセメントの多孔性増大に関係している信じている。しかし50% と 40% のセメントについては、50%セメントの方が分解と多孔性が高いにもかかわらず、放出粒子量は同等であったということは興味深いことである。50%セメントにおけるナノ粒子放出の明らかな抑制/保持の背景にあるメカニズムを特定するための更なる研究は、製造者らのより安全なナノ製品の設計に役立つであろうと研究者らは示唆している。

 二番目の実験では、研究者らは現実世界にもう少し近い状況を模擬した条件の下で放出されたTiO2-NMの形状を分析するために最初のテストを修正・調整した。水の pH レベルは、最初の実験における約 pH 10 から pH 7 に中和して、河川の水のような天然の地表水に似せた。この低い pH において、残留セメントは、放出されたTiO2-NM を潜在的に取り囲みつつ、より分解するようであった。

 この二番目の実験で水中で検出された TiO2-NM はほとんどすべてシリコン(Si)とアルミニウム(Al)からなる塊の中にあり、(塊になっていない)’自由’ TiO2 粒子はただ一つ検出されただけであった。これらの塊はセメント自身の中には見つかっておらず、研究者らはたとえ TiO2-NM が、層を囲むセメントと共に放出されることが可能であっても、その層は pH 7 で化学的に変換されたとコメントした。このことが自由 TiO2-NMと TiO2-NM Si-Al の塊を直接環境に接触させ、かくして野生生物への有害リスクを増大させるかもしれない。個々には、放出された TiO2 粒子のサイズは 70 から 312 ナノメートル(nm)の間にあり、平均サイズは 148 nm であった。

 実験室規模で設計されたこの研究の条件は、水によるセメント分解の最悪のシナリオとなる条件とすることが意図されていた。それらは研究者ら自身が書いているように非現実的な条件であるが、その研究は TiO2-NM の放出を制御するメカニズムに関する新たなデータを提供するために設計されており、そのことはまたリスク評価と、ナノ粒子の運命と移動を予測するコンピュータモデルのための出発点となり得るものである。

 しかし、研究者らは水中に7日間浸すことは、現実世界において数年から10年のセメント使用期間の経年変化を模擬したと考えている。このことは TiO2-NM の環境へのわずかな放出しかを示していないが、セメントの全ライフサイクルにわたる TiO2-NM の放出についての調査が必要であると彼らは強調している。彼らは、使用期間の終了(ビルの解体、廃棄物管理/貯蔵、など)時点で TiO2-NM の高い放出の可能性があるので、特別の注意が求められることを強調している。


原注
1. See, for example: Fouqueray,M., B. Dufils, B. Vollat, et al,(2012). Effects of aged TiO2 nanomaterial from sunscreen on Daphnia magna exposed by dietary route. Environment
2.セメント養生は、水和作用が継続できるよう打設コンクリート内部の水分レベルを維持するためのプロセスである。典型的な養生期間は28日である。


訳注1:光触媒
訳注2:当研究会が紹介した二酸化チタンナノ粒子有害影響関連記事
  1. フランス国立農学研究所(INRA)プレスリリース 2017年1月20日 食品添加物 E171:二酸化チタン・ナノ粒子への経口暴露が初めて発見される
  2. 欧州委員会共同研究センター(JRC) 2016年1月 二酸化チタン・ナノ粒子の結晶構造の役割:アナターゼではなくルチルが Balb/3T3 マウスの繊維細胞に有害影響を引き起こす [アブストラクト]
  3. PLoS ONE 2012年11月7日 二酸化チタン ナノ粒子 ミジンコの次世代の感受性を高める
  4. C&EN 2012年1月27日 二酸化チタンの分量 キャンディ中のTiO2のレベルは高いので子どもは大人よりこの漂白剤を多く摂取する
  5. Nanowerk 2011年9月19日 二酸化チタン・ナノ粒子 魚の脳を損傷する
  6. Nature Nanotechnology 2011年4月3日 シリカと二酸化チタンは胎盤関門を通過してマウスに妊娠合併症を引き起こす[アブストラクト]
  7. C&EN 2010年9月30日 環境中の二酸化チタン・ナノ粒子
  8. ScienceDirec 2010年5月 単純化された淡水食物連鎖における二酸化チタン・ナノ粒子のミジンコからゼブラフィッシュへの栄養的移動
  9. SAFENANO 2009年7月30日 TiO2 ナノ粒子 マウスの脳の発達に影響を与える
  10. ピコ通信/第131号(2009年7月24日発行) ナノの話(1)ナノ日焼け止め 二酸化チタンや酸化亜鉛のナノ粒子
  11. EHN 2008年11月17日 論文解説 二酸化チタンナノ粒子が脳細胞を傷つける
  12. 米化学会 ES&T 2006年6月7日 TiO2 ナノ粒子 脳細胞にダメージを与える可能性 米EPA研究者らの報告



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