水銀汚染防止への
世界の取り組みの概要


掲載:2009年4月24日
安間武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/mercury/UNEP_Mercury.html

このページは、2008年10月 6日 トピックス No.74で紹介した 「地球規模の水銀汚染防止に対する世界の取り組み」 をアップデートしたものです。
■はじめに

 国連環境計画(UNEP)を中心に先進国及び国際NGOが地球規模の水銀汚染防止に取り組んでいます。

 世界的には、水銀の主要な用途は小規模な金鉱山、塩素−アルカリ製造、塩ビモノマー製造、農薬、電池、蛍光灯、歯科用アマルガム、水銀体温計、水銀柱血圧計、工業計器、無機薬品などであると言われています。先進国では廃棄物リサイクルや、非鉄金属、天然ガスなどから水銀の除去設備など、広範な水銀排出源があります。

 先進国では水銀使用の禁止/削減や環境への排出削減に努めていますが、この取り組みの大きな柱は、世界の水銀供給を削減するための”水銀輸出の禁止”と、廃棄物等からの水銀回収で生成される”余剰水銀の安全な長期保管(封じ込め)”です。

 世界的な水銀輸出禁止については、各国の”自主的規制”だけではなく、法的に強制力のある”国際条約”が締結される必要があります。

 国連環境計画(UNEP)、EU、アメリカ、日本、及び国際的NGOの水銀汚染防止に対する取り組みの概要を紹介します。詳細については当研究会のウェブサイト”水銀問題への国際的取り組み”をご覧ください。
国連環境計画(UNEP)

▼ 国連環境計画化学物質(UNEP Chemicals)と国際NGOのネットワークであるゼロ・マーキュリー・ワーキング・グループ(Zero Mercury Working Grpup / ZMWG)の共催で2009年3月4〜5日にバンコクのAmari Watergate Hotelでアジア水銀保管プロジェクト・ワークショップ開催され、当研究会もNGOとして参加しました。
 詳細は 「UNEP/ZMWG 2009年3月4〜5日 バンコクアジア水銀保管プロジェクトワークショップ参加報告」 をご覧ください。

▼水銀輸出の禁止"については、法的拘束力のある枠組を主張するEU諸国などと、自主的取組を主張する米国や中国などとの間で意見が対立していました。 しかしオバマ政権下の米国が「法的拘束力のある枠組を支持する」と突然表明して180度の政策転換をしたため、2009年2月にナイロビ(ケニア)で開催されたUNEP第25回管理理事会で、今後、2013年に向けて"法的拘束力のある条約制定"作業が行われることが決定されました。

▼国連環境計画(UNEP)では2001年より、地球規模での水銀汚染に関連する活動(UNEP水銀プログラム)を開始し、2005年からは、鉛及びカドミウムも対象に加えました(UNEP重金属プログラム)。

▼2008年10月6〜10日、ナイロビ(ケニア)にて「UNEP第2回水銀に関するアドホック公開作業グループ会合」が開催されました。環境省発表資料によれば、各国政府代表、関係国際機関、NGO等約200名が参加し、国際的な水銀管理の枠組みに関する議論が行われました。各国の立場は下記のとおり。
  • EU諸国、スイス、ノルウェー、アフリカ諸国:法的拘束力のある文書として新規単独条約
  • 中東欧:法的拘束力のある文書として新規単独条約又はPOPs条約新規議定書
  • 米国、オーストラリア、中国、インド:自主的取組
  • 日本:法的拘束力のある文書の制定と自主的取組の強化を並行して推進することを提案

欧州連合(EU)

 欧州連合(EU)では、欧州委員会が2006年10月26日にEUの水銀輸出禁止を提案、欧州議会が2008年5月21日にEUの水銀輸出禁止に合意、そして閣僚理事会が2008年9月25日に全ての水銀輸出の禁止及び余剰水銀の長期保管の実施に関する規則を承認しました。2011年3月以降EUからの水銀輸出が禁止され、また余剰水銀について安全な保管(隔離)が求められます。

 またEUでは、塩素-アルカリ産業界が最大の単独水銀ユーザーですが、少なくとも2020年までに水銀プラントを閉鎖するか他のプロセスに転換するすることをすでに約束しています。2020年までの閉鎖で約12,000トンの余剰水銀が排出されると言われています。
 水銀の世界的な供給者はスペイン国営会社マヤサ(MAYASA)であり、水銀セルを廃止したEUの塩素−アルカリ産業から水銀を購入し、それを再販(年間1,000トン)しています。

 ”水銀輸出禁止/余剰水銀の安全保管”で、水銀の環境中への排出を制限するというヨーロッパの戦略の中の重要な部分に決着がつけられました。
アメリカ

 アメリカでは下院が2007年11月13日に水銀の輸出禁止及び余剰水銀の長期保管の実施に関する法案を採択していましたが、上院も2008年9月26日に採択しました。
 議会は2008年9月29日、この法案に難色を示すブッシュ政権にオバマ上院議員(民主党大統領候補)をスポンサーにしてこの法案を送付しました。
10月14日にブッシュ大統領はこの法案に署名し、2013年に発効することとなりました。
日本

 日本では国際的観点からの有害金属対策戦略として平成18年度及び平成19年度に各2回、検討会が開催されましたが、水銀の輸出禁止及び余剰水銀の長期保管に関する積極的な動きは見えません。

 日本はアジアで水銀輸出をしている唯一の国です。アメリカと欧州連合は2008年秋に水銀輸出禁止を立法化しました。水俣の経験を有する日本こそ、水銀輸出の加害者であることをやめ、率先して水銀輸出禁止を立法化し、水銀汚染防止への世界の取り組みに貢献すべきです。

生産(国内鉱出・リサイクル・回収)の概要
 (平成18年度 第2回 有害金属対策策定基礎調査専門検討会 資料3)
 http://www.env.go.jp/chemi/tmms/1802/mat03.pdf

  • 1974 年の北海道紋別市の竜昇殿鉱山の閉山を最後に、水銀鉱山の生産はなくなり、海外鉱出の水銀精錬も現在は行われていない。
  • 含水銀廃棄物からの水銀のリサイクル・回収は、大半が野村興産株式会社 イトムカ鉱業所(北海道北見市)で行われている。
  • イトムカ鉱業所では廃蛍光管、廃乾電池中の水銀をリサイクルするとともに、精錬副産物や汚泥などに含まれる水銀を回収している。
  • 製品からの水銀リサイクル量は、年20トン程度であるが、精錬副産物や汚泥などからの水銀回収量は年によって変動している。
我が国における水銀のマテリアルフロー調査結果
 (平成19年度 第2回 有害金属対策策定基礎調査専門検討会 資料2)
 http://www.env.go.jp/chemi/tmms/1902/mat02.pdf

上記資料によれば日本では:
  • 水銀の輸出入量(2001〜2006年の6か年)
     ここで言う「水銀」とは純粋に金属水銀であり水銀鉱石や製品中の水銀は含まない。
    輸出量平均は2001年〜2005年の5ヵ年の平均61.801トンを示しているが、最大輸出量であった2006年の248.935トンはなぜか含めていない。これを含めると6年間平均は92.990トンとなる。



  • 国内需要(2001〜2005年の5か年)
     我が国では、水銀は電池、電球、歯科用アマルガム、水銀体温計、水銀血圧計、無機薬品としての需要があり、需要量は5 ケ年平均で約14tである。



  • 水銀のマテリアルフロー
     我が国における水銀に関するマテリアルフローの精緻化を目的に、データ収集や水銀を取り扱っている業者へのヒアリングなどの基礎調査を引き続き行っている。  現在、業界からのデータが上がりつつある。それらを加えた現段階のマテリアルフローを示す。


国際NGOの取り組み

ゼロ・マーキュリー・ワーキング・グループについて
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/mercury/zmwg/zmwg.html

背景
 ヨーロッパの環境NGOであるEuropean Environmental Bureau (EEB)が、Ban Mercury Working Group 及び Mercury Policy Project (MPP) と連携して、2006年4月7日に公式に設立された。しかしこのグループは実際には2005年の初頭から運営されている。これはNGOの国際的なワーキング・グループである。

目的
 このグループが目指すことは、EU及び全世界で環境中の水銀を最小に低減するために、我々が管理することができる全ての源からの水銀の排出、需要、供給を”ゼロ”にすることである。
 ゼロ・マーキュリー・ワーキング・グループの目的は下記のことを確保することである。
  • 水銀の採掘は世界的に廃止されること
  • 水銀の使用はEU及び地球規模レベルで廃止され、水銀は環境的に安全で有毒性の少ない物質に代替されること
  • 人の活動に由来する全ての源からの水銀排出は管理され、最終的には可能な限り廃絶されること
  • 人間の活動に由来して排出される水銀への人と野生生物の暴露は全面的に廃絶され、可能な限り最大限直ちに削減されること
  • 上述の目的を推進する一方で、革新的なリスク・コミュニケーションと特に脆弱なグループの水銀暴露に対する予防的アプローチを促進すること
UNEP水銀プログラムへの取り組み

■ナイロビ(ケニア)「UNEP第2回水銀に関するアドホック公開作業グループ会合」
 European Environmental Bureau (EEB)を中心とする国際環境NGOがUNEPの水銀取り組みに参加しており、2008年10月6〜10日、ナイロビ(ケニア)にて「UNEP第2回水銀に関するアドホック公開作業グループ会合」にも出席し、会議後、下記の声明を発表しています。
■余剰水銀保管プロジェクト
■資料

世界の水銀排出源
出典:Mercury Policy Project, January 2009

排出源別


製品中水銀の大気排出地域別




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