UNEP/ZMWG 2009年3月4〜5日 バンコク
アジア水銀保管プロジェクト
ワークショップ参加報告

参照:Asia Mercury Storage Project Inception Workshop, 4-5 March 2009, Bangkok, Thailand
http://www.chem.unep.ch/mercury/storage/Inception_workshop.htm

報告:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2009年3月10日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/mercury/Storage/0903_04_05_asia_workshop.html


1.はじめに

 国連環境計画化学物質(UNEP Chemicals)と国際NGOのネットワークであるゼロ・マーキュリー・ワーキング・グループ(Zero Mercury Working Grpup / ZMWG)の共催で2009年3月4〜5日にバンコクのAmari Watergate Hotelで開催されたアジア水銀保管プロジェクト・ワークショップに当研究会がNGOとして参加したので、その概要を報告する。

2.背景

▼UNEPの水銀問題への取り組み
  • 国連環境計画(UNEP)では2001年より、地球規模での水銀汚染に関連する活動(UNEP水銀プログラム)を開始し、2005年からは、鉛及びカドミウムも対象に加えた(UNEP重金属プログラム)。

  • UNEPにおける水銀取り組みの大きな柱は、世界の水銀供給を削減するための”水銀輸出の禁止”と、塩素−アルカリ製造装置(水銀隔膜法)の解体や廃棄物等からの水銀回収で生成される”余剰水銀の安全な長期保管(封じ込め)”である。

  • UNEPの水銀への取り組みの特徴のひとつはNGOとの協力であり、国際的に水銀問題に取り組むNGOのネットワークであるゼロ・マーキュリー・ワーキング・グループ(ZMWG)が積極的にこの取り組みに関与している。

  • ”水銀輸出の禁止”については、今年のはじめまでは法的拘束力のある枠組を主張するEU諸国などと、自主的取組を主張する米国や中国と意見が対立していたが、オバマ政権になって米国が法的拘束力のある枠組の支持へと180度の政策転換をしたため、本年2月16−20日にナイロビ(ケニア)で開催されたUNEP第25回管理理事会で、今後”法的拘束力のある条約制定”に向けて作業が行われることことが決定された。

  • 具体的には2009年の後半に、政府間交渉委員会(INC)の準備会合を開催し、2010年にINCを設置、2013年までにその結論を得ること、またINCでは、水銀供給の削減や製品及び製造工程での需要削減等について検討する決定案が採択された。

  • 日本は、ブッシュ政権下のアメリカの方針(自主的取組)を恐らく意識して、2008年10月のナイロビにおける「UNEP第2回水銀に関するアドホック公開作業グループ会合」で法的拘束力のある文書の制定と自主的取組の強化を並行して推進することを提案したと環境省は報道しているが、その後、アメリカの劇的な方針変更後の本年2月のUNEP第25回管理理事会でどのような発言をしたのか明らかでない。

▼水銀保管プロジェクト
  • UNEP はノルウェー及び日本政府の基金を得て、アジアとラテンアメリカで、”水銀供給の削減と水銀保管による解決の調査”プロジェクトを実施中である。

  • フィージビリティ・スタディが実施され、設計、コスト/資金計画、保管場所の選定、その他の必要事項に関する提案がなされる。
▼アジア水銀保管プロジェクト・ワークショップ
 日本政府は $20,000 (US)をこのワークショップ開催のために提供したと言われている。しかし、この会議には参加しなかった。
 このワークショップの狙いは、アジアにおける余剰水銀の封じ込めを支援する地域的なプロセスを立ち上げることにより、生態系への最終的な水銀供給を削減することであり、特に次のことを目標とする。
  • アジアにおいて封じ込まれるべき水銀の予想量に関する専門家の報告書を検証すること。
  • 余剰水銀の長期的な安全保管のために考慮されるべきオプションと問題を検討し、ワークショップに続く詳細なフィージビリティ・スタデイの実施と勧告につなげること。
  • 地域水銀保管施設のような水銀封じ込めのための地域オプションの開発を検討する(管理理事会によって代表されるべき)諮問委員会(Advisory Committee)のような地域支援機構を組織し、そのよう施設の開発と整合性のとれた国家政策の開発を推進すること。
3.参加国・組織

▼参加国
 アジアのほとんどの主要国(16ケ国)と米国の計17ケ国が参加した。
 バングラデシュ、ブータン、カンボジア、中国、インド、インドネシア、韓国、マレーシア、ミャンマー、ネパール、パキスタン、パプアニューギニア、フィリピン、シンガポール、スリランカ、タイ、アメリカ
 Bangladesh, Bhutan, Cambodia, China, India, Indonesia, Republic of Korea, Malaysia, Myanmar, Nepal, Pakistan, Papua New Guinea, Philippines, Singapore, Sri Lanka, Thailand, United States of America

 日本は不参加:アジアの水銀問題の取り組みに主導的な役割を期待される日本政府は$20,000 (US)をこのワークショップに提供したのに、残念ながらワークショップには参加せず、UNEPの水銀への取り組みにおけるNGOとの協力という重要な側面を重要視していないのではないかとNGO参加者に強く印象付けた。

▼NGOs
 ゼロ・マーキュリー・ワーキング・グループの呼びかけの下に、化学物質問題市民研究会(日本)、代替産業キャンペーン・ネットワーク(タイ)、トクシック・リンク(インド)、グリーンピース東南アジア(タイ)、インドネシア・トクシックフリー・ネットワーク(インドネシア)、バン・トクシックス(フィリピン)が参加した。また、情報提供者という立場ではあるがアメリカのNGOである天然資源保護評議会(NRDC)も参加し、プレゼンテーションを行った。
 Citizens against Chemicals Pollution (CACP), Campaign for Alternative Industry Network (CAIN), Toxics Link, Greenpeace Southeast Asia, Indonesia Toxics-Free Network, Ban Toxics!, Natural Resources Defence Council (NRDC)

▼国際機関
 バーゼル条約地域センター東南アジア(BCRC-SEA)、国連工業開発機関地域事務所タイ((UNIDO)、国連訓練調査研究所(UNITAR)、国際連合開発計画地域センター・バンコク(UNDP)、国際連合開発計画地域センター・コロンボ(UNDP)
 Basel Conention Regional Center, United Nations Industrial Development Organization Thailand (UNIDO), United Nations Institute for Training and Research (UNITAR), United Nations Develpment Programme Bangkok(UNDP), United Nations Develpment Programme Colombo(UNDP)

▼情報提供者
 リソースとしてヨーロッパのコンサルタント会社(GRS、Concorde East/West Sprl)や廃棄物処分会社(K+S Entsorgung GmbH)、米国防総省備蓄センター(DNSC)、アメリカのNGOである天然資源保護評議会(NRDC)がUNEP又はZMWGによって招聘された。
 K+S Entsorgung GmbH, Defense National Stockpile Center (DNSC), Natural Resources Defence Council (NRDC), Concorde East/West Sprl, Plant & Reactor Safety Ld.(GRS)

4.議題及び発表資料
 会議は3月4〜5日の2日間、Agenda に沿って進められたが、その概要は下記のとおりである。
ASIA MERCURY STORAGE PROJECT INCEPTION WORKSHOP AGENDA 4-5 March 2009 Bangkok, Thailand

▼3月4日午前
▼3月4日午後
  • 水銀保管の選択 パート2 EUのアプローチ
    Mercury Storage in Europe and Germany Regulations and General Conditions / Thomas Brasser of GRS
    Underground Waste Disposal in the EU / Alexander Baart of K+S Entsorgung GmbH
  • Substance flow analysis of mercury in Malaysia and Sheduled Wastes Regulation in Malaysia
  • UNEP 水銀計画プロジェクト 範囲と論点
    Mercury Programme Project and Scope of Issue
    Mwrcury Terminal Storage Facility / UNEP Chemicals Branch
  • ワークショップ(アジアの可能性ある保管オプション)
    参加国/組織が東アジア地域、東南アジア地域、及び南アジア地域に分かれて、下記ガイドに示される各国への10の質問について討論した。
    Questions to guide the discussion

    討議のための質問
    1. あなたの国には国家の水銀削減計画が適切にあるか? あるなら、関連する政策/規制が適切にあるか? 現在の活動は何か?(例えば、水銀量把握、情報普及活動、リサイクリング、廃棄物管理など)

    2. 現在、あなたの国は水銀輸出国(net exporter)か? どこの国に送られ、どのような目的で使用されているか知っているか? それらの用途は地球規模水銀汚染問題に影響を与えているように見えるか?

    3. あなたの国は、国内又は世界の水銀需要の削減を推進するために水銀保管”ツール”を利用するか?

    4. 現在、約束することはできなくても、あなたの国の当局は余剰水銀の保管というアイディアを受け入れるか?

    5. 公衆の健康と安全を確保するために必要な水銀保管おける主要な技術的な(あるいはその他の)側面は何か? 環境に対する責任を確保するためにはどうか?

    6. その他、水銀保管に関して社会的に考慮されるべきことは何か?

    7. 保管のコストに対応するためにどのような資金的オプションがありえるか?

    8. 水銀保管に関して政治的に考慮されるべきことは何か?

    9. 水銀保管施設を実施するために目を向けるべき法的/規制的論点は何か?

    10. 水銀保管施設の実施を成功させることに対する可能性ある障壁にはどのようなものがあるか?

    参加国/組織
    • 東アジア地域
      政府:中国(政府1、研究所1)、韓国(政府/大学1、研究所1)、ミャンマー(政府1) (日本、モンゴル、北朝鮮、ラオスは不参加)
      NGO:化学物質問題市民研究会(日本)
      リソースパーソン:David J. Lennett of NRDC、Thomas Brasser of GRS

    • 東南アジア地域
      政府:カンボジア、インドネシア、マレーシア、パプアニューギニア、フィリピン、シンガポール (ブルネイ、ベトナムは不参加)
      NGO:、代替産業キャンペーン・ネットワーク(タイ)、インドネシア・トクシックフリー・ネットワーク(インドネシア)、バン・トクシックス(フィリピン)
      リソースパーソン:Peter Maxson of Concorde East/West Sprl

    • 南アジア地域
      政府:バングラデシュ、ブータン、インド、ネパール、パキスタン、スリランカ (アフガニスタン、モルディブは不参加)
      NGO:トクシック・リンク(インド)、グリーンピース東南アジア(タイ)
▼3月5日午前
  • 地域別ワークショップ継続
    東アジア地域
    • 日本政府はもともと会議そのものに参加せず、4日の地域別ワークショップには中国政府とミャンマー政府も参加を拒否したので、韓国政府、当研究会(日本)、NRDC(米)、GRS(EU)だけで討議した。5日の地域別ワークショップには中国政府とミャンマー政府も参加したが国としての発言はほとんどなく低調であった。NRDCリードの下に韓国と当研究会が主に発言した。

    • アジアで日本が水銀輸出大国であり(リサイクル等で回収される余剰水銀を輸出している)、他のアジア諸国は中国を含めてほとんど輸出していないことがわかった。

    • 中国では国内の水銀需要がまだ大きく、国内用途に水銀採掘をしており、代替がないという理由で使用を規制していないなど他の(先進国)と事情が大分異なることがわかった。このような事情が4日の中国のワークショップへの参加拒否と関係あるのかもしれない。

    • 余剰水銀保管施設は、地域共有施設(セントラル)とするのか、各国が自前の施設(ローカル)を持つのか、判断基準を確立すべきとの議論があった。特に保管場所の選定にあたっては、コミュニティーの合意が必要であることが確認された。

    • 当研究会は、”日本に関しては汚染者負担の原則から他国に押し付けるのではなく、日本国内に保管施設を建設すべき”と発言した。

  • 地域別ワークショップの討議結果の発表(主要部の概要のみ紹介)
    • 東アジア地域:韓国が代表して発表
      • Q1:各国、具体的な削減計画は発表していない。
      • Q2:日本は余剰水銀を輸出。他の諸国は輸出していない。
      • Q5:人の健康と安全に関わる技術的な側面:保管施設のタイプ、保管期間、輸送
      • Q6:社会的考慮:候補地住民のアクセプタンスが必要
      • Q7:資金:ローカルの場合は政府、製造者、リサイクラー、セントラルの場合は政府が保証
      • Q8:政治的考慮:住民のアクセプタンス
    • 東南アジア地域:インドネシア・トクシックフリー・ネットワークが代表して発表
      • Q1:ほとんどの国は水銀削減計画を持っていないが、カンボジアは水銀排出管理に関する行動計画、フィリピンは関連する水銀行動計画、タイとマレーシアは水銀量の把握を実施中、シンガポールは行動計画を策定中、インドネシアは水銀バッテリーの廃止を計画、パプアニューギニアは大きな鉱山の廃止を計画
      • Q2:ほとんどの国は水銀輸出国ではない
      • Q4:全ての国が余剰水銀の保管に肯定的
      • Q5:技術的側面:10〜15年の時間枠を超える長期保管の概念を再考。地理学的及びコスト的配慮。キャパシティービルディング、技術移転。長期間モニタリング。環境影響評価(EIA)とリスク評価は社会、健康、先住民文化への評価を含むこと。バーゼル条約とのリンク
      • Q6:社会的考慮:パブリック・コンサルテーション、リスク・コミュニケーション、補償
      • Q7:資金:特別基金の設立。民間投資。世界銀行、アジア開発銀行、その他の金融機関。将来の水銀条約における最終保管のための資金的支援
      • Q8:政治的考慮:強い政治的意志。国レベルからASEANのような地域的レベルに上げること。多国間環境条約(MEA)のような国際レベルに上げること。
      • Q9:法的/規制的論点:”汚染者負担原則”
      • Q10:成功への障壁:持続的資金支援。政治的意志。優先順位の設定。法的障害。人的・技術的資源の欠如
    • 南アジア地域:インドが代表して発表
      • Q1:いくつかの国は水銀削減計画を立ち上げている。この地域の国は有害廃棄物/化学物質/物質に目を向けた環境保護法を持っている。水銀情報周知と水銀量把握の取り組みが行われている。
      • Q2:どの国も水銀輸出国ではない。
      • Q3:全ての国は水銀保管”ツール”は役に立つことに同意するが、そのような施設の開発やツールの利用は地理的政治的決定である。
      • Q4:全ての国が余剰水銀の保管に肯定的。
      • Q5:技術的側面:環境影響評価(EIA)を受けること。利害関係者の関与。公衆への告知。輸送や保管施設の運営に関わる全ての人の訓練。生物医学的廃棄物管理と同様に輸送の安全を確保。住宅地域、水源から離れた場所。地震地帯の回避。環境及び健康当局による厳格な管理。
      • Q6:全ての条件はQ5の要件を満たすこと
      • Q7:資金:汚染者負担。官民連携。当初は国営、その後完全民営。
      • Q8:政治的考慮:そのような必要性に関する資金機関を含む国家的合意。産業省、産業界の合意。国民の認知。
      • Q9:法的/規制的論点:国の立法、基準。専用の指針。
      • Q10:成功への障壁:適切な資金支援。技術的ノウハウと長期的支援。設置場所の選定。社会的政治的容認。
▼3月5日午後
  • 地域的支援体制の構築
    • アジアにおけるUNEP水銀保管活動に関する地域的支援体制の形成の可能性
    • 管理理事会によって代表される諮問委員会のような支援体制の確立
  • 次のステップ
    • アジア管理理事会を通じての地域的コンサルテーションとコーディネーション
    • 選定されるべきオプションのための能力仕様を伴ったプロポーザル/フィージビリティスタディの要求を2009年3月末までに発表。フィージビリティスタディの草稿は2009年9月までに完成。
    • アジア管理理事会2009年11月
(以上)


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