ゼロ・マーキュリー・ワーキング・グループ 2008年7月24日
アジア地域
余剰水銀貯蔵施設計画
−プロジェクトの紹介−

情報源:Zero Mercury Working Group, July 24, 2008
Planning on An Asia Regional Facility
for The Terminal Storage of Surplus Mercury
An Introduction to The Project
Asia_Storage_Project.pdf

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2008年11月7日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/mercury/zmwg/zmwg_plan_Asisan_Storage_Project.html


背景

 アジア地域の途上国は現在、塩素アルカリ産業や医療分野などを含む様々なソースからの水銀(余剰水銀)を貯蔵する能力が欠如している。このプロジェクトは、余剰水銀の管理に向けて地域対話構築へのインプットを生成するであろう地域諮問委員会又はアジア水銀貯蔵諮問委員会(AMSAC)と呼ばれるべきものを創設するようアジア諸国政府に働きかけることにより重要な地域プロセスを開始するものである。

 AMSACは、地域水銀貯蔵施設に求められる要素−設計、施設開発運営コスト、資金調達、立地候補、その他の事項−を検討するために形成され、運用が開始され始めている。AMSACはまた、地域水銀貯蔵施設に関連する国家の政策及び立法などの地域的戦略を形成するために必要とされる措置に目を向ける更なる役割を演じることができる。

アジア水銀貯蔵諮問委員会(AMSAC)の重要性

 水銀使用とその放出は、人、魚類、環境に大きなリスクを及ぼす。国連環境計画(UNEP)の理事会は地球規模の水銀発散と放出は、健康と環境影響を低減するために、著しく削減される必要があると決意した。環境中の水銀の主要なソースは製品中の水銀であるが、それは最終的には、製品の寿命が尽きて廃棄物の流れに入り込む。もうひとつの大きな源は塩素アルカリ産業による水銀の継続的な使用である。

 人間の活動に由来する水銀の地球環境への発散は年間2,400トンであると見積もられている。製品中での使用のための水銀の世界の年間消費量は概略1,200〜1,600トンである。同様に、水銀法による塩素アルカリ製造プラントは現在12,000〜15,000トンの水銀を使用している。その約20%は途上国での使用であり、その多くはアジアにある。現在、これらの工場が閉鎖される又は転換されるときに、その水銀は地域又はは世界規模で売られ、水銀の環境放出を避けらることができない手工業的小規模金採掘(ASM)にしばしば向けられている。

 手工業的小規模金採掘(ASM)は、インドネシアやフィリピンのようなアジア諸国に普及しており、これらの国やその他の国に水銀が比較的容易に輸出されるということは、ASM の操業による水銀放出という状況をさらに悪化させ、水銀輸入をとめるために政府によって実施されている取組を損なっている。

アジア水銀貯蔵諮問委員会(AMSAC)の下で余剰水銀はどのように検討されるのか?
 AMSAC の意図として、余剰水銀とは特定の国で生成され、合法的かつ本質的な国内水銀需要を満たす必要がないと国が決定した水銀である。したがってそのような水銀は、次のようなひとつ又はいくつかのソースから生じるが、それだけには限らない。
  1. 塩素アルカリ・プラントの解体から生じる水銀
  2. 副次的に生成される水銀
  3. AMSAC及び法の実施を通じメンバー諸国によって決定されるその他の水銀ソース

UNEP及びその他のパートナーによって実行されるその他の活動との関連
 水銀に関する先の二つのUNEP理事会決議は世界の水銀供給を減らすことの重要性を強調した。決議23/9で理事会は各国政府に主要な水銀生産と余剰水銀の市場への導入を抑制することを検討するよう求めた。決議 24/3で理事会は水銀供給の削減を世界の優先事項として確立し、各国政府に水銀の長期貯蔵のための選択と解決に関する情報を収集するよう促した。

 決議 24/3 により、UNEP化学物質部門(UNEP Chemicals)は暫定的に水銀供給パートナーシップを確立した。少なくとも重要なこととして、UNEP化学物質部門は最近、水銀法プラントの閉鎖又は転換による水銀は世界の市場で売られるのではなく貯蔵されるとする原則協定を確立するために、世界塩素協議会(World Chlorine Council)と討議を開始した。そして、水銀製品パートナーシップの下に、医療分野で使用が廃止された水銀製品の適切な処分に目を向けつつ、様々なプロジェクトが計画され又は進行中である。

 AMSAC プロセスは理事会決議と水銀の市場からの排除及びそれに続く貯蔵を促進する最近のパートナーシップ活動の双方に対応するものである。
利害関係者

AMSAC プロセスに関与する利害関係者は、国連環境計画(UNEP)化学物質部門、日本環境省環境保健部、及びゼロ・マーキュリー・ワーキング・グループ(ZMWG)である。

 AMSAC 代表として、下記の諸国が参加の目標とされる。

1. バングラディシュ(Bangladesh)
2. ブータン(Bhutan)
3. ブルネイ・ダルサラーム(Brunei Darussalam)
4. カンボジア(Cambodia)
5. 中国、中国−香港、中国−台湾(CHINA, China-Hong Kong, China-Taiwan)
6. インド(India)
7. インドネシア(Indonesia)
8. 日本(Japan)
9. 朝鮮民主主義人民共和国(Democratic People's Republic of Korea)
10. 韓国(Republic of Korea)
11. ラオス人民民主共和国(Lao People's Democratic Republic)
12. マレーシア(Malaysia)
13. モルディブ(Maldives)
14. モンゴル(Mongolia)
15. ミャンマー(Myanmar)
16. ネパール(Nepal)
17. パキスタン(Pakistan)
18. フィリピン(Philippines)
19. シンガポール(Singapore)
20. スリランカ(Sri Lanka)
21. タイ(Thailand)
22. ベトナム(Viet Nam)

さらにいくつかのオセアニア諸国が最初のAMSAC会議にオブザーバーとして参加することが期待される。

プロジェクト要素

 AMSACを立ち上げ、確立するために二つの主要な要素がある。AMSACそのもの結成と最初のAMSAC会議の実施である。

AMSAC プロセスの目標

 AMSAC プロセスの最終的な目標は、欧州連合や米国で現在実施中の取組と首尾一貫した安全な地域水銀貯蔵能力の開発のための道を整えることである。このアジアの貯蔵能力なしには、余剰水銀供給はアジアやその他の場所で流通し続け、それにより手工業的採掘やその他の分野における世界的需要を減らそうとする取組を損なうことになる。国連工業開発機関(UNIDO)は国連環境計画(UNEP)への最近の報告書の中で、水銀の地球規模での供給を制限することは手工業的小規模金採掘(ASM)のための世界的需要削減戦略における重要な要素である。

プロジェクトのスケジュール

 最初のAMSAC プロセスは2008年7月に開始し、2009年3月に終了することが予想される。

以上


ゼロ・マーキュリー・ワーキング・グループ(ZMWG)

 ゼロ・マーキュリー・ワーキング・グループ  http://www.zeromercury.org/ は、欧州環境事務局(EEB)とマーキュリー・ポリシー・プロジェクト/バン・マーキュリー・ワーキング・グループにより2005年に設立された世界中の公益非政府組織56団体以上が参加する国際的な連合である。同グループの目的は、EUレベル及び地球規模で環境中の水銀をなくすことを目指して、我々が管理することのできる全てのソースから水銀の排出、需要及び供給の”ゼロ”を達成することである。

 ZMWGのAMSACプロジェクトの主席コーディネータはバーゼル・アクション・ネットワーク・アジア太平洋の代表、リチャード・グティエレス氏(J.D., Ll.M.)である。
 グティエレス氏は、フィリピンおける公認弁護士である。グティエレス氏は、米国シアトルを拠点とする非政府組織であるバーゼル・アクション・ネットワーク(BAN)で7年間活動した。グティエレス氏はまた、国連環境計画の世界水銀アセスメント(UNEP Mercury Global Assessment)の起草と開発に関与したバン・マーキュリー・ワーキング・グループ((Ban HgWg)と呼ばれる非政府組織の世界的連合の設立に積極的に参加した。
 グティエレス氏は、フィリピンのマカティにあるアテネオ・デ・マニラ大学法学部で法学士号を、ニューヨークにあるコロンビア大学で法学修士号を得た。





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