聴いた、観た、買った ---淡々と音喰らう日々。

1999.08.01-15

>08.16-31
<07.16-31
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★は借りた新着、☆は新規購入。


とか言いつつ、7/31夜に見た『サタデー・ナイト・ライブ』70年代選集(BS1)の感想から。この回は主にフォーク&ロック系アーチストの"貴重映像"という編集。なぎら健壱を絡めたユルい進行はともかく、色々見られて面白かった。中でも、Redboneの"Hey, You"が拾い物。数年前、シンディ・ローパーが"Hey, Now"としてカヴァー、というか、"Girls Just Wanna Have Fun"と掛け合わせてリバイバルさせていたが、何これ全く別物じゃん。ズシズシ重いファンクロックに、少々鼻にかかった渋いヴォーカル。また、イーグルス参加前のジョー・ウォルシュが予想外に良かった。というか、イーグルス内ではあのうねるような這うようなギターソロがパーツ程度の扱いだが、ここでは「オレにはこれしかないっ」つう感じで前面に出て延々と押しまくる。なかなかに圧倒的。あと、リトル・リバー・バンド(オーストラリアン・ロック世界進出のハシリでした。懐かしい)っておしゃれなオジさんバンドだったのね(この日のオンエア曲は「レミニッシング」)。知らなかった。もっと泥臭い曲しか聴いたことがなかったもので。
それにしても、飛行機事故で亡くなったミュージシャンって多いんだなあ。この日見た中でもジム・クロウチともう一人か二人。有名なところではリッチー・ヴァレンスがそうだっけ(ずっと古いけど)。航空大国というのはこういう面にも表れるのか。ううむ。

いかん。こんなもんボサーッと見てたら荷造りが進まん。さあ急げ急げ。

8/1 さて沖縄である。台風襲来を目前に引き返すんじゃないかと思われたANA便は、それでも何とか那覇空港に着陸。着地と同時に強い横風に煽られた感じがしたが、よく降りたもんだ。後から聞いてみると他社便は既に欠航。おいおい、そんな日に飛んでいいのか全日空。とりあえず生きてることに感謝。

嵐のため路線バスは市内で大渋滞に遭遇、1時間以上かけてホテルに到着するも、間髪を入れずにタクシーでマチグヮー(市場)に繰り出す。ここは一大アーケード街なので、多少の風雨は平気なのだった。そしてここが那覇でも一番楽しいところである。早速、楽器屋さんの店先にゴーヤー(苦瓜)の形のシェーカーを発見し購入。それから公設市場の2階の食堂でゴーヤーチャンプルー、ミミガー(豚の耳皮)刺身、足テビチ(豚足の煮込み)といったお馴染みの惣菜をつまみにビールで喉を潤す。続いて1階の生鮮市場を見学(というか見物。商売の皆さん、いつもいつもすみません)。ある魚屋さんでは、体長25cmばかりもあるセミエビを取り出して地面を這わせて見せてくれたが、息子は怖がって後ずさりをする始末。次にチラガー(豚の顔の皮)を見せるが、やっぱり怖いらしい。微妙なお年頃のようだ。
風雨が強くなってきた上、子供が眠くなったこともあって夜遊びを諦めたのは心残りだが、チラガースモーク、ゴーヤー茶、泡盛など一通りの物資調達は完了。名物ブルーシールアイスクリームも食った。まあ、子供連れでは民謡酒場に行ける訳でもなく、夜といっても飲み食いだけだったろうし、良しとしよう。

ホテルに戻ると、ロビーで島唄の生演奏をやっていた。ラッキー。うたっしゃー(歌い手)は男女それぞれいて、三線に太鼓もついて総勢5名か。結構豪華な編成。カチャーシー(速いテンポの踊りの曲)など演るとにぎやかで良い。ところで、実はこのとき初めて、サンバ(三板:板3枚から成るカスタネットに似た打楽器)の演奏を生で見た。紐でつながった3枚の板をそれぞれ指の間に挟み、それをもう片方の手の指で軽快に(カラララッと)鳴らすのだが、あれは難しいと思う。箸が正しく握れないような人には無理なんじゃないかな←それは自分だっつうの。
このとき改めて認識したのだが、ミディアムテンポ以上の踊りの曲のリズムは、やはり独特だ。3連符の3つ目にだけ強勢がある、跳ねるようなビート。敢えて文字で書くと「ッッカ、ッッカ、カララ、ッッカ」てな感じか。あるいは掛け声「イャサーサ、ハイーヤ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ」のリズム、と言えばわかる向きもあろう。特徴的なのは、頭拍の強勢がほとんどないこと。こういうビートは、日本の内地の民謡にほとんどないんじゃなかろうか。いや世界的にも稀少か?

8/2 沖縄本島3回目にして初のバスツアー参加。ツアーの感想は「埒外な遠足」に詳述するが、しかしまあ暴風雨の中なので大変である。よく万座毛(恩納海岸の名所で、断崖絶壁の上になだらかな野原が広がる)から真っ逆さまに海に落ちたりしなかったもんである。とりあえず生きてることに感謝。

そしてこの日から2泊は浜辺のリゾートホテルという次第である。翌3日はそこそこ晴れたので、まずはめでたし。とはいえ、息子が海を怖がって、結局海水浴ではなくプール遊びがほとんどであった。とほほ。

8/6 ここのところ、暑さのせいかバーシア『タイム・アンド・タイド』(1987)『ロンドン、ワルシャワ、ニューヨーク』(1989)を比較的よく掛けている(←単純な奴)。元マット・ビアンコという枕詞は要らないくらい、ラテン・フレイヴァーなポップス(ファンカラティーナってほどファンクでもないと思うので、こう呼んでみた)の女王となった彼女だが、今聴いてみてもバックトラックのおとなしさは特異である。つまり、最低限に抑えた、ほとんどスカスカのオケの上に、彼女のヴォーカルとコーラスを分厚く極彩色で塗りたくったのが、この2枚のアルバムの特徴なのだ。ラテン・フレイヴァーとは言うものの、打ち込み中心のパーカスは、それはそれは地味なものである。キーボードの音色の一つ一つも、こんなのでよく「聴ける音楽」に仕立てあげたものだと感嘆するくらいに凡庸。だが、バーシアのヴォーカルの愉しみを最大化(maximize)/最適化(optimize)するのには、その戦略がドンピシャリだったということだろう。むしろバーシア自身のコーラストラックがリズム/グルーヴを生み出していく気持ち良さがあって、この2枚は上出来。

ちなみに、彼女の3枚目にあたる『スウィーテスト・イリュージョン』は持ってたけど売ってしまった。お金もたまってか、ゴージャスなホーンセクションを駆使したりと音作りが分厚くなったのはいいが、楽曲が結構ガタガタで、ヴォーカルの技見せだけが浮いてしまっているように思えたので。あ、でも「オリーヴ・ツリー」って曲は良かったなあ。

ロス・デル・リオ『Shall We マカレナ?』(1996)
わはははは、忘れてたけどこの邦題、最高。実は踊り付きで流行ったあの『マカレナ』よりも他のトラックがいいっす。ちゃんとスパニッシュなギターも堪能できるし、打ち込みバブルガム・ソウルなダンスナンバーもチャーミング。まあ何より、おやっさんたち唄が上手い。

晩に従妹来訪。一緒にジブリアニメ『火垂るの墓』の放映を見るが、しかしこれって…。西原理恵子「凶悪アニメ映画」と呼ぶ訳だよなあ。ダメだよ、空襲で焼け出されてブルジョワ生活を懐かしむ軍人子息の話なんて。

8/8 今日で夏休みはおしまいである。遠く入道雲が見える空は青く高く、いかにも立秋である。夕方、自転車に乗って郊外型SCでお買物。おやつにラーメンを頂いたあと息子が眠そうなので、バギーを借りて乗せたところ、やがてすやすやと寝息に。すわ、と色めき立つ親たち。すかさずケーキとコーヒーでくつろいだのち、やれ本屋だCD屋だと、まさに鬼の居ぬ間の買物である。おお、CD買ったのなんて5月末以来じゃないか。何て非音楽的な生活(笑)。

8/9 矢野顕子『ゴー・ガール』(1999)☆
早速、昨日調達した新着ディスクを一つ一つDiscmanに突っ込みながらの仕事再開である。出たばかりの新譜買うなんて久し振りだなあ…というのが30代子持ちのリアリティよね。世の中の動きの速さが恨めしく感じられる一瞬である。

この新譜についてはきっとキビシイ批評があると思う。私だって、ジェフ・ボーヴァの打ち込みが多用されて、ドラムンベースの出来損ないになりかかったトラックはそんなに好きではない。だが敢えて私はこのアルバムの支持に回ろう。
何がいいか。色々あるが、アメリカのフォーキーなイディオムが、長年かかって体に馴染んだ矢野顕子がここに居る。それは、メセニーやヘイデンとの交流、アメリカのトラディショナルな歌曲やハンク・ウィリアムスのカヴァーといった流れの上に、今作では大きく開花しているのだが、実はその佇まいはむしろ「かつての矢野顕子」、そう、70年代後半の彼女を思わせる部分が、何故かある。ある種「普遍的にアーシーな感覚」とでも言おうか…もちろん本当に普遍的って訳はないのだろうけど。(「アーシー」ってこなれない横文字だけど、土っぽいという意味と、地に足着いたという意味を併せ持っているので、あえて使う。)
だから、この作品はきっぱりと時流に逆らっている。しかし、そのアーシーな感覚と程よい中庸さ(過度ではなく)、そして---ここが実は大事なのだが---無駄を削ぎ落とし、40代を生きる現実をリアルに切り取った歌詞(秀逸!)があいまって、日々の音楽たるアクチュアリティ(あーやだな横文字。何て言うのかな、「現実の肌ざわり」とでも言おうか)を支え、聴く自分を深く頷かせている。
傑作という評価は多分、いつまでも得られないだろう。しかし、これは私にはとても大切な作品になりそうだ。とりあえず子供を持ち、次代へとつながる時間の中で、時流の速さに取り残されそうになりながら生きている自分にとっては。

シコ・サイエンス&ナサォン・ズンビ『カオスのマンギ・ビート』(1994)☆
とりあえず借りたいと思っていたんだけど、図書館にも行けない状況だったところへ、CD屋に丁度並んでいたものだからエイと買ってしまった。いかん、こんな衝動買いしていては家が建たん(汗)。いやどのみち東京では建たんか(号泣)。
ブラジルはバイーアよりも更に北、つうことは更に赤道に近いペルナンブーコ州レシーフェ出身のグループ。「マンギ・ビート」とは彼ら自身の命名で、マングローブのように多数の根(ルーツ)を持つ、という比喩らしい。ヒップホップに影響を強く受けつつ、ブラジルの伝統的な音楽やルーツたるアフリカ音楽などを強引に混ぜ合わせたビートというが、むしろ強烈なブラジルのリズムそのもににラップをかぶせた、という感じだなあ。R&B色はきわめて薄いし、ヒップホップの代表的な手法であるループとかスクラッチとか、あるいはブレイクビーツ(とは呼ばないのかな、ヒップホップの場合)などは、ほとんど影をひそめている。ひょっとすると、彼らがオールドスクールのヒップホップに影響されたということと関係あるのかも。あの頃って、打ち込みとか生楽器にラップ乗せるのが結構多かったし。
なので、これはブラジルのリズムが好きな(私みたいな)リスナーにはいいんだけど、ヒップホップとしては、どうなんだろう。01さんあたりの見解を伺いたかったりしますが。

8/10 矢野顕子『ゴー・ガール』
Diskmanではなく家のステレオで聴くとまた特にいいのだ。機器のせいではなく、聴く環境。確か矢野はかつて『ホーム・ミュージック』というコンピレーションを出していたが、それに倣って言えば、究極の『ドメスティック・ミュージック』か。ヘンな言い方だが、仕事一途で、家で過ごす時間の流れというものを持っていない人には、この作品は何のことだかわからないかも知れない。

8/11 ベン・フォールズ・ファイヴ『ラインホルト・メスナーの肖像』(1999)☆
これは以前、美容室で全編聴いていて是非買おうと思っていた、BF5の2年ぶり3枚目。前作は、どうにも1作目の延長上で縮小均衡しているような感じもしないでもなかったが、今作はベン自身のソロ・プロジェクトを経過したせいか、桁違いに洗練されていて、それでいながらブッ飛ぶようなアイディアに満ちている。もはや「ピアノトリオの」BF5という域をはるかに越えている。マスターピースと言っていいだろう。シングルカットの「アーミー」をどこかの有線で耳にした時は、あらら大編成のホーンとか使って普通のポップスになっちゃって、と思ったりしたが、ところがどっこい。もちろんこれが一番キャッチーな曲なのだが、それですら奇抜な楽器の組み合わせ、出し抜くような展開、そしてゴリゴリとした異様な音圧に満ちている。
意外だったのは、ビートルズ的イディオムがかなり後退していること。割とそっちの人だと思っていたが、全然。むしろ今回の指向性は最盛期のバカラックを思わせすらする。

8/12 カエターノ・ヴェローゾ『リーヴロ』(1997)☆
もはや重鎮と言うべきか、ブラジルMPBの「司令塔」、実に7年振りのスタジオ録音のリーダー作。前作『シルクラドー』 (1990)ではアート・リンゼイのプロデュースにより、彼の語り口の鋭利さが巧みに強調されていたが、今回はむしろ熟成した味わいとでも言うべきか。リズム隊はチンバラーダ軍団などの活躍で強烈なリズムを叩き出す一方、ストリングスとホーンのアレンジは流麗なスタンダードを指向する。それに乗せたカエターノの歌声はまろやかで、それでいて何て若々しいんだろう。もう55歳でしょ、この時点で。
しかし、こういう作りだと、『シルクラドー』や、ジルベルト・ジルとの『トロピカリア2』を経由せずに来たリスナーには、取っ付きにくいだろうなあ。彼の甘美さと毒気を知った人のための、とっておきの美酒、という感じか。

8/14 ベン・フォールズ・ファイヴ『ラインホルト・メスナーの肖像』
昨夜から延々と激しい雨。昼になると意外と空は明るくて、これで降り続けてるのが不思議なくらい。雲が厚くないのに豪雨ってことは、次から次へと海の水吸い上げては持って来て、ここに撒いてるってことか?

そんな天気なので子供を連れて出る訳にもいかず、当然子供は超不機嫌。たまらん。そこで、同じ境遇に喘いでいるであろう保育園友達一家を呼ぶことに。するとどうだ。期待以上の成果が! 子供らは勝手に一緒に楽しくやってるから、目の届くところにさえいてくれれば、親たちが構う必要まるでなし。ということで、ビール片手に雑談。夢のようだああ。

『Walt Disney Children's Favorite Songs Volume 3』
とかを子供サービスで掛けてたが、彼らは遊びに夢中で歌などそっちのけになってきた。ということは、私が好きなもの掛けてりゃいい訳ね。うおお天国。

『ロジャー・ニコルズ&ザ・スモール・サークル・オヴ・フレンズ』(1967)
安里勇『海人(ウミンチュー)』(1996)
そのお友達夫妻は数少ない沖縄好き仲間なので、島唄聴きつつ、チラガースモークつまんで雑談。ボサノヴァの話なども出たので、続いてブラジルものをいくつか。何つう天国。

ジョイス『フェミニーナ』『水と光』(1980/81, 2 in 1)
イヴァン・リンス『アウア・イオ〜魂への讃歌』(1991)
トニーニョ・オルタ『ムーンストーン』(1989)

8/15 昼間、自転車で近くの友人宅へ。子供たちを水遊びさせてる横で、ビール飲みつつ雑談。その友人は最近、戦後日本歌謡曲史を少し掘り下げたいという。あるバンドの人と話していて、橋幸夫と前川清は歌が巧いという結論になったのがきっかけらしい。あと、橋幸夫って「裏クレイジーキャッツ」的なコミカルソングを結構歌ってるし(以前、リゲインか何かの宣伝にも使ってた)。こういう切り口は、「歌謡曲」とか「演歌」とかいうレッテルで一様に封じ込められていたものを、新たな視点で再評価することにつながるので、面白い聴き方だと思う。しかししかし、思うのだ、音楽好きの人と話すと、それぞれ方向性がバラバラ。その逆に、音楽にあまりコダワリのない人は、聴くものがみんな同じ。それがメガヒットの構造なんだろうけど、そう思うとなんか音楽を愛していることが空しくなるよなあ。

ジョニ・ミッチェル『逃避行』
夜はまた別の友人が訪ねてきて、ビール→泡盛を片手に話し込む。そんな時間の1枚。



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