聴いた、観た、買った ---淡々と音喰らう日々。

2000.02.16-29

>03.01-15
<02.01-15
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★は借りた新着、☆は新規購入。


2/16 ディック・リー『オリエンタリズム』 Dick Lee: "Orientalism" (WEA, 1991)
テープで。という訳で、Discman寿命につき今日から懐かしのWalkmanを携帯するが...これも電池切れ。長いこと放って置くからなので仕方ないが、通勤はその分痛勤になるってもんである。あ、言い方が古いや。

2/17 Dick Lee: "When I Play"
ロー・ボルジス Lo Borges: "Meus Momentos" Disc 1
ビーチ・ボーイズ『ペット・サウンズ』The Beach Boys: "Pet Sounds"
(Capitol, 1966)

2/18 Matsuzushi Set Ver. 1.1
テープと言えば、まつずしさんから「名刺代わりに」と頂いたこのテクノのロングミックス60分。以前ご本人に感想を伝えたときは「徐々に上がっていくBPM」などと書いたのだが、実はそんな単純な仕掛けではなさそうだ。シャッフルするリズムパターンのところではスタート時程度のBPMに戻っているみたいなんだけど、それが丁度、テンポが落ちていないように聞こえるよう調整されている模様。そうやって微妙にコントロールされた静かな発熱と、気が付いた時には一回り上の高みにいるという心地よい高揚感、全能感。

Lo Borges: "Meus Momentos" Disc 2

2/19 The Beach Boys: "Pet Sounds"
イヴァン・リンス Ivan Lins: "20 Anos"
椎名林檎「ここでキスして。」
(東芝EMI, 1999/マキシ・シングル)

買い物して実家詣で。またCD増えてるよ、すごいなあ悠々自適は。というわけで、こんなものもあるのかと感心しつつ、ペトリ/ハンニバル Michala Petri/Lars Hannibal: "Air" (BMG, 1997)を引っぱり出す。
リコーダーとギター/リュートのデュオによる録音。ジムノペディ3曲が冒頭と途中に置かれていて、それらの音自身は何だかお手軽ニューエイジみたいな感じなのだが、バッハやグリュックからグリーグ、ニールセンに至るゲルマン/北欧のバロック/古典/民族主義という流れのなかに差し挟むことによって幕間として機能。いわゆるなごみ系ではあるが、よく考えられた選曲。
録音から全てデジタルというせいもあろうが、リコーダーの音が一聴して電子音のようなのが驚き。だがよく聴いてみるとその最大の要因は、ペトリ自身の驚異的なテクニックによっていることが判る。ブレスとタンギングにムラ、ムダがないばかりか、どんな速いパッセージでも運指の乱れによる異音が一切出ないのは、それこそ人間業ではないが、しかし音楽的な貫通力にとってはむしろマイナスに思えるのは、どうしたもんだろう。

2/20 今日も今日とて買物に出かけ、連れ合いはそのまま髪切りに。息子を引き連れて久々にHMVでCDを漁る、というか、飽きられては困るので、予め狙いをつけていたものだけササッと購入。それでもその短い隙を突いてヘッドホンを(音楽を、ではなく)楽しむ息子。おいそんなに引っ張っちゃだめだっつうに。

パコ・デ・ルシア『アルモライマ』 Paco de Lucia "Almoraima" (Philips, 1976)☆
パコといえばこれ、と推す人が多かったので探していた盤。1stトラックのブレリアス(速くて激しい3拍子系の踊り)からして、ラウード(アラブの楽器で、リュートに似ているらしい)を使っているなど意欲的だが、全体のラインアップは伝統的なフラメンコ・ナンバーに依拠している。依拠しているはずなのに、何でこんなにも「静か」なんだろう。パコはフラメンコにまつわるドラマチックな要素---それはかなりの部分、カンテ(歌)やバイレ(踊り)によって担われている---のすべてを削ぎ落として、ギター1本へと純化していこうとするかのような指向性が、ここにも垣間見える気がする。すべての「フュージョン的な」アプローチとは裏腹に、だ。

ボカ・リヴリ Boca Livre (MP,B, 1979/Warner, 1998)☆
ありましたありました、デビュー盤。確か、1978年の "Clube da Esquina 2"が彼らの旗揚げだから、デビューで間違いないだろう。セルフ・タイトルドだし。
カントリー・ウェスタン風のびっくりするようなイントロから入ってしっかりミナス派の香り漂うメロディラインに着地するあたりからして、見事な職人芸。知られた曲としては、ミルトン・ナシメントの"Ponta de Areia(砂の岬)"をア・カペラで採り上げたり、トニーニョ・オルタの"Pedra da Lua(ムーンストーン)"を歌ったりしていて、いずれも好演。1992年録音の "Dancando Pelas Sombras" でも残っているメンバーは4人中2人だが、コーラスワークについてはリーダー格のマウリシオ・マエストロが一貫して仕切っているのだろう、テクスチャに大きな変化はない。

2/22 で、ここんとこ仕事の行き帰りはテープばかり聴いてる訳ですが、営業所の同期から送られてきたテープが1年以上溜まっていたんで、1998年暮れ以降のJ-POP(どうにかならんかこの呼称)総復習みたいな状況になっている。いやー聞き流してると憶えてないのがあるわあるわ。その中から面白かったところをかいつまんで:

未来玲可「海とあなたの物語」 どんな人かは全然知らないが、この曲の盛り上げ方は異様だ。普通 Aメロ-Bメロ(サビ)-A-B-中間部-B'(大サビ)とまとめそうなところ、A-B-中間部-B'でワンコーラス扱い(×2回)。だからいわゆる「1番」が終わる段階でいきなり大サビまで駆け上がってしまう訳で、結構来るなあこれ。書いたのは誰だろう、すごい剛腕。

広瀬香美「ストロボ」「I Wish」 歌詞のあられもなさと無理な構成で基本的には聴けたものではない広瀬だが、しかし細部のコードの処理とかが何故かいいなあ。テンションコードを上手く使った解決が妙にツボにはまる。いやまあ、それだけなんだけど。

Mr. Children「光の射す方へ」 サビしか知らなかったけどその前後とか、特にエンディングすさまじい。歌詞は相変わらずの拗ねた&ナイーブな、私の嫌いな桜井節ではあるが、この曲では一歩踏み込んでより危ないところに生身を晒している緊張感があり、曲と相俟って凄絶な印象を与える。こんなにすごかったのか、これ。見直した。あ、でもこの次くらいのシングル"I'll Be"は逆戻りしててがっかり。

Dreams Come True「朝がまた来る」 これも流して聴いてて知った気になっていたが、思ってたよりずっといい曲。彼らは "Sing Or Die"以降メロディラインの再検討/再建を図っていて、それは成功していると思う。歌詞も併せて随分と内省的に(いい意味で)なってきたし。でも「なんて恋したんだろ」はヤマッ気出してドラムンベースなんか取り入れたのが完全に裏目。サビとかいいのに勿体ない。

SPEED いろいろ聴いたけど、最近はここまでひどい曲歌わされてたんだ。愕然。流すな伊秩。

hitomi "Someday" 音の抜けのいいピチカートファイヴ、みたいな曲なんだけど、この独自路線はいいかも。"Busy Now"あたりからhitomiは面白いかもと思っていたが、地道に頑張っているのだなあ。

太陽とシスコムーン「月と太陽」 モー娘的な売り方を知ってたので敢えて迂回していたが、何だ曲いいじゃん。これもつんく? すげえ。和製R&B女性ボーカルの諸々の傾向の間隙を縫って、スウィートソウルでディスコな秀作。

tohko "Hearts" 今も日向大介がやっているのかな? 少なくとも作風は変わっていない。融通無碍と言えば聞こえはいいが、その実破綻した構成、無謀なだけの転調。歌いにくさを求めているんだとしても、じゃあ何がやりたいの? っていう、器用な人の手遊びでしかない箱庭的な怪作。どうにかお引き取り願えんもんだろうか。

Kiroro「最後のKiss」 これ、誰が何と言おうがサビがユーミンの「ハートブレイク」なんだけどなあ。まあ元ネタ自身が大した曲でもないからどーでもいいけど。しかしその程度の素材を、アレンジの力を借りてそれなりのものに仕上げているのは立派かも。でも何かこのカラ元気感、路線間違ってる気がするが。

川本真琴「ピカピカ」 街の有線では旋律線だけしか聞こえなかったんで「何じゃこりゃ」と思ってたけど、隅々まで聴いてみてビックリ。何だ、ますますケイト・ブッシュじゃん。それも初期ザバダックのような「雰囲気とアイディアだけお借りしました」みたいなんじゃなく、骨太の。ゆったりした2ビートに、細かい刻みの、音程の跳躍が多いメロディを乗せて、サビでペンタトニックな進行に収斂させる構成とか。音だけでなく、「1/2」あたりから脈々と続く、男の子への変身あるいは脱皮願望の歌詞もいいし。以前から期待していた方向なので個人的には高く評価したい。ってまさか、以前書いたこれ読んだわけじゃ...ないだろな、さすがに。

スガシカオ「夜明け前」 出だしの緊張感に較べてサビの流し具合は落差ありすぎないか。どうしたスガ。今のところ3rdの "Sweet" は手控えているのだが、こんな調子なら永遠に手控えるかも。

2/24 さる方から頂いたフリー・ソウル系のテープを。ジャズ・ファンク中心の選曲。クラブなんて無縁に過ごしてきた身には縁遠いながらも、親近感のある音ではあったので、こうしてまとめて聴けるのは有難い。

2/26 Ivan Lins: "20 Anos"
マノロ・サンルーカル『タウロマヒア』 Manolo Sanlucar: "Tauromagia"
Boca Livre (1979)
Paco de Lucia: "Almoraima"
やはりパコは「ギタリスト」なのだなあ、と改めて感じる。

スペイン旅行の際にアドバイスを乞うた友人を招んで報告の酒盛り。なんだが、息子がなついて、というか馴れ馴れしく膝に乗ったりとかするものだから話が途絶えること度々。写真を折られないかと冷や汗。
教訓:子供には遊び相手を用意した上で、大人同士の酒盛りを楽しもう。

『アーリー・カンテ・フラメンコ』"Early Cante Flamenco"
ビセンテ・アミーゴ『我が心を風に解き放てば』『魂の窓』 Vicente Amigo: "De Mi Corazon Al Aire" "Vivencias Imaginadas"
ジプシーキングス『ジョビ・ジョバ』 Gipsykings: "Djobi, Djoba"
イヴァン・リンス『今宵楽しく』『ある夜』(2 in 1) Ivan Lins: 2 em 1, "Somos Todos Iguais Nesta Noite" "A Noite"
(EMI, 1977, 1979/1994)

2/27 クィーン Queen: "Greatest Hits" (EMI, 1981)
NHK教育「ハッチポッチステーション」でグッチーズが「ボヘミアン・ラプソディ」と「犬のおまわりさん」を掛け合わせていたおかげで、最近ローテーション入り。しかし、クィーンは中高生の頃はくどすぎてあまり受け付けなかったけど、その後はフレディのボーカリストとしてのパワーに感嘆し、今となっては意外とその音圧が気持ちよかったり。聴き方って変わるものだ。

Lo Borges: "Meus Momentos 2CDs"

図書館で予約していたもの(下記)がようやく入ったので、慌てて取りに行く。ついでに2枚ほどそこらで目についたタイトルをひっつかむ。

ウェイン・ショーター『ネイティブ・ダンサー』 Wayne Shorter feat. Milton Nascimento: "Native Dancer" (CBS, 1975)★
これが予約していたアイテム。実はこの盤については、今まで敢えて遠巻きに見ていた。というのは、トニーニョ・オルタ Toninho Horta: "Diamond Land" (Verve Forecast, 1988)への客演を聴いて、ウェイン・ショーターとMPB勢との共演というのに憶してしまったのだ。で、そのToninhoとの共演はどうだったかと言えば、繊細なバラードの旋律を塗りつぶすがごとく縦横無尽に奔放に吹きまくるショーターのソロしか記憶に残らないような有様だったのだ(まあ1トラックだけだが)。

だが、ここでのショーターの共演の仕方はそういう「後から来てトラクターで根こそぎ」路線ではなく、ミルトンの声や曲とバランスのいい力関係で拮抗している。同時期のミルトンのリーダー作とはテイストが異なるとはいえ、これはこれで堪能できる。フュージョン系のプレイヤーがMPBの大物をゲストに呼ぶのって、Dave Grusin & Lee Ritenour "Harlequin" の例のように、そのトラックだけ借りてきたみたいにMPBテイストになってる、ってのがよくあるが、これはそうではない。明らかにミルトンに感化されて書いたと思われるショーターのオリジナルも差し挟まれて、夕方もまだ明るいうちの陽差しの中のような気分を45分間持続させてくれる。これはやはり一つのメルクマールとなる盤ではあるだろう。

ただ、個人的な好みを少し言えば、ミルトンの曲については同じものをミルトン自身のリーダー作で演ったもののほうが好きだ。その大きな違いは、ソロ楽器のインプロの入り方なんだろうと思う。MPBの大きな特徴として、非常に繊細・微細なコード進行を設定する分、即興においてもそれを最大限尊重する傾向があるように思う(ジャズの影響の強い一部インスト系はやや異なるが、大筋では共通すると思う)。それに対し、とうの昔にモードをくぐり抜けたジャズのアドリブの旋律線は、より自由だ。モード、代理コードなどを駆使して、強いテンションとリリースとが目まぐるしい速さで繰り出される。ショーターのこの盤の場合はそれがのべつ続く訳ではなく、丁度いい塩梅で交替するのだが、その変化の瞬間、ミルトン自身の音の流れに慣れた耳には「あ、違うぞ」と思えてしまうのである。本当はどちらがいいというものではない、とはわかるのだが。だって自分にしても、ジャズっぽいものはそれはそれで聴くのだし。



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