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シリーズ「先進国って何?」

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■ 動物ジャーナル84 2013 冬

先進国って何? (九)

ドイツ篇 その三

ふざけるな犬税=犬税の様相、及び苦悩する動物保護施設

青島 啓子


 今回は、先進国ドイツの施策として日本の愛護諸氏から高い評価を得ている犬税の、探索結果をご報告します。加えて、不良飼い主抑制の効果ありとする犬税実施にもかかわらず、手前勝手な理由による遺棄に悩まされる保護施設の一例をご紹介します。
 ドイツ篇も三回目になりますが、度々述べますように、目的は「真実・実状の追求」です。
 手軽に言いふらされる先進国ぶりの内容を、踏みとどまって確認していただきたい、確認対象には本稿も含めてほしいと思います。
 ついでに。「ドイツ」の正式名称の訳語は「ドイツ連邦共和国」、十六の連邦州からなり、各々独立した州政府をもちます。今回の犬税問題をお読みいただくにあたり、その決定や施行の権限は州政府がもち、犬税の額その他も一様ではないことを念頭にお置き下さるよう、お願いいたします。

犬税反対を訴える団体有志のキャンペーンロゴマーク
(TASSO e.V. www.tasso.netより)

「飼えなくなりました、よろしくお願いします」と老舗保護施設前に遺棄された犬2・猫6の入ったケージ
( 「 シュツットガルト・ツァイトゥング」2013年5月14日付)

 ふざけるな犬税 Hundesteuer

今年、日本では

 年があらたまり、新聞紙面には「どうなる今年のくらし」という類の特集記事が目立つようになりました。
 最大のテーマはやはり消費税のアップで、3%増税になるとどのくらい値上りするか、いろいろな品目について一覧表が作られたり、三月末までに買う方がよいのはどういうものか紹介されたりしています。
 ここに至るまでには、「高齢化社会に対応する為にも安定財源として増税が必要」と政府は主張、他方「税収が増えると、またもやムダ使いするのではないか」「本当に社会福祉だけに使うのか」と反対も厳しく、双方の論がにぎやかに交わされました。
 そのような議論の中、OECD(経済協力開発機構)は『対日本審査報告書・二〇一一年度』において「日本の公的債務の残高はすでに国内総生産の二倍にもなっている。せっせと節約しても高が知れているのだから、早く増税すべきである。20%くらいまで上げる必要があるかもしれない」との見解を示しました。
 これは日本政府にしてみれば、もっけの幸い・渡りに船、だったでしょうけれど、片方で「日本の」会計検査院が『二〇一三年度会計検査院調査報告』を昨年十一月に発表、そこには税の無駄遣い、不適切会計処理が山ほどしるされていました。指摘された「不都合」を実行したのは内閣府をはじめ法務省等の中央省庁、独立行政法人、なんと裁判所まで。無駄遣い総額は、四九〇七億四五一〇万円。不況どこ吹く風の中、みんなで赤信号を渡ったのでした。
 ちなみに『二〇〇九年度会計検査院決算検査報告』では、一兆七九〇四億八三五四万円。三〜四年前には13年度の三倍以上の不届き出費があったということ、何故この年を取出したかというと「動物問題に関わる」環境省がリストに含まれていたからです。それは環境省の高松事務所が実際には完成していないパンフレットを計上していて、検査院の調査をごまかすために慌てて作ったものの、誤字脱字が多くてとうとうバレてしまったというもの、お粗末ギャグのような事例でした。
 減少しつつあるとは言え、過去から延々続くこの壮大な浪費は、社会福祉や困窮者のケアに尽力する人々からどう見られるでしょう。私たちの周辺で申せば、「今月は不妊手術をする子が多いので、食費をきりつめなければ。缶詰はグレードをおとして」と悩むボランティアさんたちが、もしこの数字を把握したなら、怒りを通り越して絶望の極に達すると思われます。限りある自費と限りなき慈悲の心との間で、常に揺れ動き、苦しんでいる人々なのですから。
 とにもかくにも、消費税増税は確定しました。
 四月からは、市民平等(語呂合せです、念のため)、公平に、一律に8%が課せられることになります。経済状況の先行き不安定もあって、売り手側が急激な値上りにならない工夫をしていると伝えられますし、経済評論家から主婦向けに「買いだめしないこと、節約すること」とアドヴァイスが発せられてもいます。
 税金の無駄遣いをそのままに、取りやすいところから奪い取ろうとする姿勢を、人々はどのように看取するか。今年の花見酒はほろ苦いことでしょう。

犬税反対デモ

 さて、本題に入ります。先ずは写真をご覧下さい。
 これは犬税(=犬保有税 Hundesteuer)反対のデモで、犬税の増税に対し、愛犬家市民が「いい加減にしろ」と怒っています。このデモは二〇〇七年十二月、ザクセン=アンハルト州の首都マクデブルクで行われたものです。犬税の値上げ反対のみならず、犬税そのものに納得がいかないと裁判所に提訴する/「何で馬は非課税なのか」とねじ込む/などが、当時からネット上で伝えられていました。
(近年では、野鳥や野ねずみの貴重種を狩る猫への対応策費用や安易に猫を飼わせないようにするために、飼い猫にも課税すべしとの声が、一部の野生動物保護関係者から出ています)
マクデブルク市といえば、世界史で習った「マクデブルクの惨劇」を思い出される方も多いかもしれません。十六世紀中ごろの宗教問題を背景にしたいわゆる三十年戦争において、参加した傭兵による市民への無慈悲な振舞い(強姦、惨殺、略奪等)を指しますが、この時の壊滅的打撃を経て、時は流れ、第二次大戦末期には、兵器や合成燃料を生産する重工業の軍需拠点であった為、ドイツの都市を完全に葬り去るべきと強く主張する英国の王立空軍が、ナチス降伏のわずか四ヶ月前に無差別絨毯爆撃を行いまたもや町は壊滅、多数の犠牲者を出しました。

包囲されるマクデブルク 
(マテウス・メリアン作、銅版画)ウィキペディアより

 マクデブルクに対する爆撃は、翌月の米英によるドレスデン、またはドイツのコンドル義勇軍によるゲルニカ、一九四〇年日本軍による重慶、さらに東京、横浜、広島、長崎等への無差別爆撃と同じく、市民が爆撃で混乱すれば戦争終結を早める事が出来るという理論や、新しい爆弾・新しい戦術を試したいという功名心からくる残虐な大量殺戮でありました。この戦法は、六万近い死傷者など多大なダメージを受けていた英国民からさえ、戦乱を逃れた沢山の難民が身を寄せていたドレスデン爆撃には非難の声があがったほどです。

爆撃で廃墟になったマクデブルク市内

市役所(中央)とマクデブルク大聖堂

現在の市役所とマクデブルク大聖堂

 第二次大戦で壊滅的被害を受けたマクデブルクは、戦後の東西分割により東側旧ソビエトに属していたため経済情勢はきびしく、一九九〇年の東西再統一後は旧時代の経済を支えていた古い重工業生産施設が仇となって閉鎖され、地元経済は旧西ドイツ資本の流入もあって冷え込み、住民が市外に流出する等、一九九九年の失業率はドイツ平均の二倍を超える20・6%にも達していました。(マクデブルク市編「一九九九年度・福祉レポート」及び「二〇〇七年度労働市場政策と雇用促進」による)
 このようにマクデブルク市は旧東側にあった他都市と同じく、時代の波に翻弄されたものの、近年は13・7%までに改善した失業率等、経済ももち直してきています。
 この経済状況を「待ってました!」とばかりに、市は犬税の約五割アップを決定しました。
 これまで年額66ユーロ(一〇四二八円)だった犬税を二〇〇八年から年額96ユーロ(一五一六八円)にします、二頭以上の場合も税率を上げますと言われたらどうでしょうか? いきなり約五割の上げ幅に納得出来るでしょうか? これでは「何なの! ふざけるな!」と市民が怒り、デモに至る事も無理ないでしょう。
(マクデブルク市編犬税資料より。なおユーロ円換算は08年一月平均為替レートの158円とした)
 しかし、デモの甲斐なく、市側は予定通り粛々と増税を実行し、これまで無かった危険犬種飼い主への税額加算措置も他の自治体と同じく設けました。

YouTube-deにアップされた犬税関連動画 http://goo.gl/VOcfzZ

「法的定義によれば、糞処理などの特別及び直接的代償サービスは行われない」とある。
犬税について(マクデブルク市ホームページより)

犬税は地方税、ただし目的税にあらず

 ドイツの犬税は後述しますが、日本の地方税に該当します。
 日本の地方税は幾つかに分類され、国民健康保険もその一つのようで、加入者が自身の市町村に納める保険料は、正確には「保険料」ではなく、地方税法に基づく「保険税」であるとのことです。
 その他の例として、原発の有る自治体が発電に使う核燃料棒に課税する核燃料税や、ゴルフ愛好家のプレイ料金に含まれるゴルフ場利用税などがあり、自治体が決定・徴収等の権限をもっています。が、過去には京都の古都保存協力税のように、事前の話合いが足りず、「京都市が八月八日の約束を守るまで拝観を停止します」と清水寺が大きな立看板で猛抗議し、僅か三年で頓挫したという失敗例もありました。
 そもそも地方税とは何か? 総務省によると「教育、福祉、消防・救急、ゴミ処理といった、私たちの生活に身近な行政サービスの多くは、市町村や都道府県によって提供されています。地方税はこうしたサービスをまかなうための財源であり、その地域に住む住民などが広く共同して負担しあうもの」「地域社会での会費」であるとのことです。
 地方税には普通税と、使途限定を前提にした目的税が有り、目的税として動物に関する例を挙げれば、鳥獣保護や狩猟に関して行政が仕事をする為の費用にあてるために十年程前に改正された「狩猟税」や、近年大阪府泉佐野市が検討を始めた「犬税」(法定外目的税)が目的税にあたります。

たとえば泉佐野市の犬税案

 泉佐野市は関西国際空港オープン以降、空港内消防署の運用経費や、はかばかしくない景気によって地価が下り、それに伴い税収がおち込んだので、財政の健全化を図るべく色々な対策をとっており、関西国際空港へ行くための連絡橋通行料を二〇一八年まで100円加算し、同市に入る連絡橋利用税(法定外普通税)もその施策のひとつです。
 一部の不良飼い主による犬糞放置問題は、後に触れるベルリン同様、悩みの種であり、ただでさえ節約に努める泉佐野市にすれば、環境整備にかかるお金を得る方法を考えざるを得ない状況です。ただし、仮に同市議会で犬税実施が成立したとしても、直ちに課税することは出来ず、最終的に総務省の審査と同意が必要になります。
 ちなみに泉佐野市議会会議録によると同市が受けた犬の苦情(糞の放置)は二〇一〇年度二十件、11年度二十八件、12年度六十六件と年を追って増加、一部の公園では外柵の金属ポールが犬の放尿によって穴が開いてしまったとか。これらは一部飼い主のマナーの悪さが原因ですが、もし犬税が導入されると犬飼育者全てに一律に課税されることになります。糞の清掃やマナーアップに使う為の税だとしても、また非犬飼育者や犬飼育を懐疑的に思う人の賛同が得られ易いとしても、糞をきちんと持ち帰る適正飼育者が課税に納得するでしょうか。また「犬税払っているんだから、糞は市が片付けろ!」という不届き者が出ない保障もありません。
 市は、畜犬未登録者も見逃さず、公平に犬税を課すとのことですが、東京を含む全国市町村における畜犬登録者への怠慢対応を見れば、どこまで税徴収の公平を保てるか、徴収コストに見合った税収額になるか、検討を始める目的税としての泉佐野市犬税の前途は多難と言わざるを得ず、今後の同市検討会での議論が注目されます。

 他方、ドイツで犬税反対、廃止せよという主張の中には「犬税で集めた金を何に使っているのかサッパリ分らない」という声があります。犬の糞害つまり清掃業務や飼い主に対する注意喚起等に使われる費用の原資としての犬税ならその不平も当然ですが、実はドイツの犬税は目的税ではありませんので、右のような不平・非難は的を射ているとは言えません。(ただし単純な勘違いとも言えない事情もあり。後述)

付加価値税

 ドイツの犬税の詳細に触れる前に、二〇〇七年に引き上げられたドイツの消費税(正確には付加価値税=VAT)について簡単に記します。
 日本でも今後さらなる増税をする際に、日常生活に欠かせない食料品などと、高価であまり一般的ではない贅沢品との税率を変えるか否か、つまり「軽減税率」の導入について与党税制協議会が検討しています。そして、消費税を10%にする際に軽減税率を導入する、こまかい点は今年の暮までに指針を決める、と二〇一四年度税制改正大綱に記載しました。
 ドイツを含むEU諸国では、品目によって税率が違う軽減税率(付加価値税率)がすでに導入されており、大手インターネット通販アマゾンのドイツ向けサイトには、書籍、DVD、CD、台所及びガーデニング用品、赤ちゃん用品、衣料品等の十七品目それぞれに課される税率が国別で記載されています。
 また、ドイツ財務省ホームページには八品目の税率が掲載されています。(図版参照)
 ロブスターがおそらく贅沢品とされて19%大正海老やブラックタイガーは7%となっています。また、一人当り日本の四・八倍も消費されるミネラルウォーターがワインと同じ税率です。ベビーフードや紙おむつ、子供のビスケットが19%なのに、犬用ビスケットやペットフードが何故7%なのか等々、疑問を呈する報道記事が増税当時見受けられました。
 また増税後にホテル業界から「増税で客が減った、経営環境も厳しいので、よろしく」との陳情があり、政府がそれに応じて十年10月に19%から7%に下げると発表した際には、「不明朗だ/不公平だ」との論調がまき起りました。
 Produkt
Mehrwertsteuersatz
 Mich(牛乳)
7%  
 Hummer(ロブスター)
19%  
 Zeitung(新聞)
7%  
 Busfahrschein(バス料金)
7%  
 Buch(書籍)
7%  
 Wein(ワイン)
19%  
 Theaterkarte(観劇チケット)
7%  
 Schuhe(くつ)
19%  

※ドイツ財務省ホームページより。
 上記表にない品目の一例は以下の通り
  ・ミネラルウォーター:19% ・水道水:7%
  ・ベビーフード、紙おむつ:19% ・ペットフード:7%

 このペットフードの低い税率だけを見て、やはりドイツは動物に優しい!と言われそうですが、低い税率には、それ相応の理由、つまり、犬税をかけていることとのバランスから考慮されていると考えるのが妥当のようです。

ボッタクリ?  犬の飼育は贅沢か?

 今回、ドイツの犬税を取上げるに当り、試しにAbzocke(ぼったくり)、Hundesteuer(犬税)をキーワードに検索してみると、確かにドイツの愛犬家たちが「犬税反対、ボッタクリじゃないか!」と主張しているものが幾つか出てきました。
 知人から聞いた話ですが、昔、主税の仕事をされる公務員で、犬好きの方(故人)がドイツの犬税について「こんな封建的な課税方法は日本では絶対無理。議員も犬を大切にしていると言いながら、これではボッタクリと紙一重じゃないか」と評されたそうです。
 誰でも税金は安い方が良く、願わくはゼロが望ましいと考えていると思います。しかし、その一方で税の必要性も認識しており、市民は、公による説明=なぜ必要なのか/どう使うのかが明確に説明されれば納得する筈です。
 ドイツの犬税の立法権は十六の州政府各々が持っており、ここで定められた犬税は州政府内の市町村が収受するかしないか、及び税額を決める権限を持ち、徴収しています。また、一定の要件を満たした生活困窮者や保護施設から犬の譲渡を受けた者等が免除もしくは一定期間免除される措置が一応とられています。
 州政府とは、日本で言う都道府県ですが、日本と異なり、州独自の憲法を持つ権限を持ち、犬税を課す大義名分は「犬の飼育は贅沢」と定義し、贅沢出来る者は税を払うべしという考えです。
 これは日本において、数あるレジャーの中、用具やウエア、プレイ代にお金がかかり、それを負担できる者は税金を負担する能力(担税力)も高いとして徴収される「ゴルフ場利用税※」=贅沢税と同一の考え方です。
 (※日本のゴルフ場利用税には贅沢税の意味合いに加え、ゴルフ場へ車で向う際に当然道路を通る、その道路を作ったのは自治体、ゴルフ場の開発許可を出したのも自治体。故にゴルフ場利用者は自治体から恩恵を受けているので、少しは負担させるべきとする応益税の意味合いも有る)

犬税で飼いにくくすることは可能か

 また、犬税には、飼い主に税を課すことによって犬を飼い難くする、ひいては飼育頭数を抑えることが出来るとの意図も含まれており、飼い難くすることは、衝動買いなど安易な新規飼育を防ぐ或いは不良飼い主を淘汰できる、従って不幸な動物が減る、と、一見妙案と見えます。それで「犬税」は、日本のマスゴミや愛護諸氏がドイツを評価する一要因になっています。
 しかし前回述べた通り、超大型店舗とその対極にある激安無店舗生体販売、そこから犬を買う人々の有様を考えた時、売り難くすることの方が絶対必要でしょう。つまり生体販売に対する徹底的施策と対応が不可欠ですが、ポメラニアン、ミニチュア・シュナウザー、ダックスフンド、ジャーマンシェパード、ドーベルマン、グレート・デーン等、名の知れた犬種全てが「メイド・イン・ジャーマニー」であり、これは脈々と続くドイツの犬産業繁栄の証であり、ここにドイツケンネルクラブや狩猟団体等がどっかと鎮座する現状を考えると、果してどこまで飼いにくく出来るのか、悲観的にならざるを得ません。例えて言えば、放射能が漏れ続けている状況で、懸命に除染するようなもの、元から絶たなければ意味がないのは自明の理。結局あおりを受けるのは、保護施設で暮すミックスの犬さんや、人工的に生み出された挙句、危険種と分類され肩身の狭い思いをしている犬たちです。
 こういう状況下でも、犬税が犬飼育者からきちんと徴収されていれば、飼育数抑制になるかもしれませんが、現実にはそれもおぼつかなく、犬税不払い=脱税者が多く(後述)見受けられます。つまり飼育数抑制の大前提としての「税徴収の公平」が保たれていない限り、飼育抑制実現には悲観的にならざるを得ません。

犬税が目的税と勘違いされるわけ

 「犬税は目的税ではない」の章で、犬税反対を訴えるドイツの愛犬家たちが犬税を目的税と勘違いしていると記しましたが、勘違いには原因がありそうで、簡単に論ずることは妥当ではないようです。
 何故ならドイツ連邦政府は国民に対して「動物は人と同様に痛み感じる生きものであり、物ではない」と気高く謳いあげていますので、「犬の飼育を贅沢と規定し、犬税を課すことは、タバコやシャンパンに課税するのと同じ。物扱いするのか」「私の犬は家族だ」と主張し、従順に犬税を納める市民が少しは犬たちの為に使われるであろうと誤解するのも無理ないからです。
 こういう混乱の大もとは、ドイツ民法の「特別の規定がない時は、動物は物の規定に準ずる※」という条文の存在です。
 ドイツの愛護団体等は「これは二枚舌そのもので、人間同様の生きものとしての権利が認められていない」と批判します。が、依然として片方で「生きもの」とし、片方で「物」とする背反は収束されていません。(日本でも民法と動愛法との齟齬は同様に存在しています。)
 普通の人が民法の詳細を把握していなくても無理からぬこと、動物保護法の「動物イコール物でない」だけが先行して伝わっていれば、この誤解も納得できるというものです。
(※ドイツ民法90条の2項、連邦政府官報1990年8月25日BGBl I S. 1762 )

現ドイツ連邦財務省広報誌 Im Profil 2014 より
(犬の首輪に納税メダルが付いている)

犬税とは ── 公的説明はこうだ

 では、犬税についてドイツの公がどのように説明しているか、再確認しました。
 調査対象は、犬税を所管する「財務省」、動物福祉を担当する「食料・農業・消費者保護省」※、及び十六の州政府のパンフレットやホームページです。そして過去の説明と変化しているかどうかも知りたく、90年代後半まで遡って調べてみましたが、財務省のホームページには「犬は家族です」という表現と共に、飼い主の責任、頭数制限他についての記載はあるものの、犬税が愛犬家・愛護団体が期待するような分野に使われるか等は記述なく、過去の記述も同様でした。「食料・農業・消費者保護省」のホームページにも、狂犬病やEUペットパスポートの説明はありますが、犬税の使途には触れていません。
(※抗生物質入りエビ等の食品スキャンダルで省が再編される前の「食料・農業・山林省」時代も含む)
「税の解説パンフレット・畜犬税に関す
 る項」の訳文の要約

 畜犬用穀物の納付が犬税の始り。
 農民は狩猟に際し、労役を課される。
 農民が犬を飼うこと禁止。
 畜犬用穀物を納入すれば、労役等の
 義務が免除される。
 穀物は犬用飼料に加工して納められた
 ので、後に「犬用飼料」とも呼ばれ、
 例えば一六五六年〜五九年のヒルデス
 ハイムの都市勘定書によると「共同の
 都市狩猟免許の保全のために」使用さ
 れた。
 十九世紀には、主として政治的理由に
 よって導入され、州により「奢侈税」
 「利用税」などとして整えられた。
 畜犬税の課税権は地方共同体が有し、
 農作物の収穫高に応じて課税。州に
 よって納入金が要求された。
 畜犬税は、ワイマール共和国時代(一
 九一九〜一九三三)以降、「地域特有
 の支出のため」「地域限定領域のため」
 の税、純粋な地方共同体税として規定
 されている。 (訳文要約ここまで)

 連邦政府の二省は上述の通りですが、各自治体およそ千件についてもホームページをチェックしました。実際に犬税の業務に携わっているわけですから、詳しい説明もあるかと思いましたが、淡々と、飼い主の責任云々、納税方法が書いてあるだけで、結局犬税に関して、中央政府も州や市もそれほど熱意をもってないように感じられます。
 それを反映してか、一部メディアでは、犬税を払わない者がほとんど野放し状態であることを伝えています。犬税調査員が存在しているにも関わらず、犬税納付の証明となる鑑札も付けず、いわば「脱税してますよ」と公表しているような飼い主は、今でも珍しくありません。
 ドイツに限らず、犬の未登録・鑑札未装着におおまかであったり、「詳しい事はお問合せください」とアナウンスするだけの行政は、日本でも同様。四の五の言わずに納めるべきはずであるのに、徹底できていないドイツの犬税を敢えて解釈すれば、日本の畜犬登録とほぼ同じ、と言えるでしょう。
 結局犬税は
 (1)街中の犬糞清掃に使うことを前提にしていない。
 (2)犬税の税収を民間の保護施設の助成に使うことを前提にしていない。
 (3)犬税徴収の理由は、飼育頭数の抑制効果である。
 (4)ドイツでは従前から犬の飼育は贅沢と規定している。
とまとめることができます。

犬税は不公平? 自治体による税額のばらつき

 読者諸兄姉がドイツで犬と暮すとして、犬税の額はどのくらいを妥当とお考えか、また犬友達が住む町と犬税税率が違う場合、その差の許容範囲はどの程度か。
 もしベルリン州・ブンデスアレーに犬と共に住んでいると、犬税は一頭120ユーロ(一六四四〇円・州内一律)です。或る日、隣のブランデンブルク州に住む犬友達と話がはずんで犬税に及んだ時、43ユーロ(五八九一円)であり、州内には20ユーロ(二七四〇円)のところもあると知った場合、どう感じるでしょう。(1ユーロ=137円で換算。以下同じ)
 隣り合う州で約二・七倍もの差があること、その州内にはさらに低額の町もあること、その町は50〜60Kmしか離れていないこと、などを聞いて、簡単に納得できるでしょうか。日本人には無理でしょう。

ブランデンブルク州内にに於ける犬税の一例
1頭目
2頭目
※特定犬種
 フォルスト
66ユーロ
(¥9240)
78ユーロ
(¥10920)
613ユーロ
(¥85820)
 パータースハーゲン 30ユーロ
(¥4200)
80ユーロ
(¥11200)
650ユーロ
(¥91000)
 ケーニヒス・ヴスターハウゼン 60ユーロ
(¥8400)
70ユーロ
(¥9800)
0
 パンケタール 46ユーロ
(¥4200)
76ユーロ
(¥10640)
409ユーロ
(¥57260)
 アイゼンヒュッテルシュタット 60ユーロ
(¥8400)
100ユーロ
(¥14000)
400ユーロ
(¥56000)
 プランケンフェルデ=マーロー 32ユーロ
(¥4480)
45ユーロ
(¥6300)
250ユーロ
(¥35000)
 ツォッセン 20ユーロ
(¥2800)
20ユーロ
(¥2800)
20ユーロ
(¥2800)

※特定犬種(危険種)の場合 1ユーロ:140円換算 確認日2014年2月3日


 ご覧のようにブランデンブルク州内だけでも、これだけ税額が異なり、役所各々の姿勢が反映されていますが、これがドイツ全土となると、かなりのばらつきが認められます。
 統治形態が日本と異なるとは言え、各自治体間の税額差は信じがたいほど大きく、その上増税となれば、異論が続出すると考えられます。現に、かのZoo Zajacのあるノルトライン=ヴェストファーレン州でもその種の矛盾を指摘する者があると最近報道され、また、ヘッセンのペット関連保険会社の犬飼育者向けサイト等では「不公平じゃないか/マイカーより経費がかかる」等の声が出ています。
 犬税には、むやみに飼育させないという意図もありますが、各自治体が自由に税額を決められるため、自治体の台所事情に左右されやすいと推測でき、それが行き過ぎれば、犬愛好家の不満は爆発するでしょうし、反対署名や提訴をという動きが出ても仕方ないと思います。

税の無駄使いと犬税

 冒頭、日本における税の無駄使いに触れましたが、ドイツでも同様の事象が認められます。
 ドイツにも公の会計検査院がありますが、ここでは民間の、無駄使いを徹底的に調べ、政府の借金時計等を市民に公表する「ドイツ納税者連盟」の活動を通して見てみます。
 ベルリン・フランツェージッシュ通りに本部を構える同連盟は市民で構成され、毎年ブラックブックを発行、何時、何処で、どの位、どの様な形で税の無駄使いが行われたかを、冷静かつ理詰めで徹底的に追求し、納税者の権利を追及しています。その姿勢は如何にもドイツらしさが感じられ、政治家も五月蠅い奴らだから無視、ほっとけ!とは言えない存在です。
 この連盟が指摘した無駄使いは、日本でいう箱モノ等の建設費、無駄な買い物、議員向けの手厚いお手盛り等、その内容は日本とさして変りありません。
中に「ミミズの為の税金」と称されたケースがあり、雨水がたまって水捌けの悪い公営サッカー場を改善すべく、オランダの業者からナイトクローラー(体長30〜40cm、日本名ツチミミズ)を09年夏に二〇万匹購入、緑のフィールドに放しました。これで土壌改善の名人ミミズが土を掘り、水捌けが改善される筈でしたが効果が見られず、結局人工芝に張り替え、ミミズ購入代金約七千ユーロを含め、約100万ユーロ(一億四〇〇〇万円)が浪費されたと指摘しています。
(ドイツ納税者連盟Bund der Steuerzahler Deutschlande. V.発行、ブラックブック二〇〇九年度版、及び独FOCUSONLINE二〇一〇年10月28日)

 また、このケースに限らず、無計画もしくは甘い考えで事業を始め、経費対効果も考えないケースを度々指摘しており、これも日本と同様で、いわゆる「お役所感覚」は万国共通のものかもしれません。
 このように、税のお目付け役であるドイツ納税者連盟は、当然無駄使いの原資となる税の徴収方法を含む仕組みにも目を光らせていますが、今や愛犬家から罵倒に近い批判を受ける犬税について、調査もしくはコメントしているかというと、ありません。犬税の定義やバイエルン自由州内バイロイト市を始め二十五の独立市各々の犬税税額表等は記載しているので、対象としていないことはないのですが、犬税反対を訴える人々のような強い批判は見当りませんでした。
 ただし犬税の徴収コストと税収については関心を示し、各自治体の全税収に占める犬税等の割合はわずか1%程度であると報告しています。 
 これはかつて日本の財務省研究機関の研究員が示した通り、「ドイツ各自治体の全税収に占める犬税等の割合は僅か1%程度」※であって、この点は、最新のドイツ財務省の資料※によっても大きな変化はありません。 
 この状況を見ると、スェーデンやフランス、英、さらに日本等が「犬税は割に合わない」と見切りを付けたのも充分うなづけます。地方所得税等に目を向けていく方がよほどたくさん税収をあげることができるのですから。
※「英米仏独の地方財政システム」日本財務省財務総合政策研究所編
※ ドイツ財務省編 「Finanzbericht 2014」

 ドイツにも犬税を廃止した自治体がありました。
 それは、ヘッセン州エシュボルン市です。面積は約12平方キロメートル、人口二万人という規模の小さな自治体ですが、この市の営業税は法定条件の下限に近い税率で、隣接するフランクフルトに比べて、おおよそ半額。それを利点として本社を置く複数大手企業による昼間の人口増によって活気づく、財政的に裕福な市であり、これが98年末をもって犬税を廃止した一因と思われます。その為、犬税反対を訴える愛護団体や愛犬家から羨望の眼で見られているのも無理ありません。
 ドイツ納税者連盟の優れた調査力は市民の意見や情報提供に負う部分が大きく、同連盟が犬税反対論者と同じ論調で批判しないことは、ドイツでも国民全体として犬税に強い関心が有るわけではないことを反映しています。この傾向は動物愛護についての世論にも見られ、はたまた日本でも同様であること、野良さん達の行末を案じつつ日々世話を続けるボランティアさんも痛感するところでしょう。


 苦悩する動物保護施設

 六個のキャリーが並ぶ冒頭の写真は、数あるドイツの動物保護施設の中で老舗のひとつであるシュツットガルトの動物保護施設の正門で撮られたものです。
 犬猫合せて八頭が入っていたケージの持ち手の部分には、遺棄した者がXXXと匿名で書いた手紙が添えてあり、ここに至った心情が次の様につづってありました。
「私のペット達を世話して下さい。無責任な恋人が臨月近い私をほったらかし、数日前に出て行ってしまいました。私は家賃も払えず、獣医にも行けません。二頭の犬は元気な母娘です。猫は犬に比べて元気がありません。どうか助けてやってください。 XXX」

 このような遺棄は、先に記した「お役所感覚」と同様、文化風習言語を超えて共通するものであり、日本でも「或る朝、玄関前に置かれていた」等、苦い経験をもつ人は多いと思いますし、現に「文面はほとんど同じだけど、私の場合はキャリーでなく、ダンボール箱だった」と当時を振り返った方もありました。
 如何なる理由があるとしても遺棄は犯罪であり、のみならず自ら人としての証を消し去る行為ですが、マクデブルクの章で触れた無差別爆撃が規模に差はあるものの現在でも一向になくならないことと同じく、最良にも最悪にもなれる不完全な生きもの、学名=ホモサピエンス、ヒトの業は未来永劫変らないかもしれず、これは日本もドイツも他の国も同じなのでしょう。

保護施設は捨て場所か──対応に奔走する人々

キャリーバックで遺棄されたマウス
動物愛護団体(TSV)ホームページより

 門前にキャリーで遺棄された犬二頭(ペキニーズMIX 親子)猫六頭(成猫五、仔猫一)はシュツットガルトの動物保護施設により保護され、治療を受けましたが、数ヶ月前には百匹近くのマウスがキャリーバックで遺棄されています。ヒトの悪行たる遺棄に、この施設は懸命に対応しています。
 この施設は、バーデンビュルテンベルク州シュツットガルト市ボトナングにあり、一八三七年六月十七日、聖職者アルバート・ナップらにより設立されました。現在、アンゲリカ・シュミット=シュラウベ女史が代表を務めるシュツットガルト動物愛護団体(TSV)が運営を担当し、施設には犬猫はもちろん、馬、山羊、羊、豚(畜産種及びペット用ミニ豚)、鳥、リス、うさぎ、アヒル、カモ、白鳥、亀、トカゲ、蛇などを含めて、数にして六百から八百の動物が暮しています。

 このように保護されている状態を見て「あそこに連れて行けば命が助かる」と己れの所業を棚に上げ、よろしくお願いしますという安易な思考から、厚かましい遺棄は長年続いているようです。百七十年を超える同施設の歴史の中で、どれほどの数が遺棄されたのか。これに挫けることなく運営されてきたことは、敬虔主義を説いた開設者アルバート・ナップの想いが今も生きている証しでありましょう。また捨てる人が絶えないために、この施設の継続が必要であったとも言えます。
 このような施設を運営するには多大の経費が必要なのは当然であり、まして日々の命を支える費用は途絶してはならないもの、どんな施設にも容赦なくのしかかることですが、歴史ある同施設も例外ではありません。
 この二十年間、施設はシュツットガルト市から支援を受けていましたが、それでも財政困難を切り抜けることはできませんでした。

財政ピンチ

 昨年五月、施設運営代表者のシュラウベ女史は財政状態がピンチであると、施設ホームページや地元紙で述べました。
 財政ピンチは、ここ数年来の募金減少や度重なる動物の遺棄が施設運営が大きく影響したようですが、最近になって非常に深刻になり、運営を任されている愛護団体とシュツットガルト市との契約に関し対立が生じました。地元紙「シュツットガルト・ツァイトゥング」がその応酬を複数回にわたり丁寧に報じていますが、ここでは要約してお伝えします。

[ここから 記事の訳文を要約]  

契約解消は承認されず     二〇一三年6月28日  アンドレア・イェーネヴァイン記者

施設は契約解消をと。市は拒否
 この愛護団体は、ここ二十年間、五年ごとの更新でシュツットガルト市と契約を交わし、年間20万ユーロ(約二七四〇万円)の支給を受け、その見返りとして施設は、捨てられた動物たちを収容・飼育している。
 ところが、今年(13年)分の20万ユーロが、半年を残して底をついてしまった。
 運営愛護団体は、市は施設を困難な状況から救出すべきだと考え、新しい契約に切り替えたいと、現在の契約を13年十二月三十一日をもって解消すると通告した。これに対し、市は「簡単には解消できない。10年初頭に更新され、15年一月一日まで有効である」と主張、この係争は現在も進行中である。
 この施設の動物たちにとっては、両者が新しい、より妥当な契約を結ぶか否かは問題ではない。施設が存続することが重要なのである。
 この週末には、この施設恒例の夏祭りが開催されるはずだが、今年はそれができそうにない。

動物愛護団体は要求された書類を提出しない
 シュツットガルト市は、この収容施設が財政困難におちいった状況をすべて公開するよう求め、必要な資料を七月五日までに提出するよう、書状で求めた。市の考えでは、今年すでに20万ユーロの大半を費消したことを説明するには最終決算書が必要、補助金を追加するかどうかは市議会が決定するが、税金の支出は良心的になされなければならない、というものである。
 しかし愛護団体は「この契約解消に関してはすでに決定済みと考えている」として、資料の提出には応じていない。
 が、この契約問題とは別に、市に対して補助金の請願をしていて、それには09年から12年までの決算書を付けて提出している。

提出しないわけ
 愛護団体側はすでに文書によって「市と施設との合意の下では、契約解消期限に関する規定が存在しない。それ故シュツットガルト市法令六二四条に従い、六ヶ月前の通告による契約解消は有効である」と主張している。愛護団体はこの立場を譲るつもりはない。必要となれば訴訟も辞さない構えである。
 またこの書状に付して、新しい二種類の契約案をつくり、市がそのどちらかをとるか、取らない場合は市が自ら提案するように要求した。新契約案の第一は「年額五十万ユーロ、動物搬入代は市負担。または搬入代を含めて年額六十万ユーロ」、第二は「住民一人当り0・77ユーロ、毎年1セント増、搬入代なし(総額47・2万ユーロ)。または搬入代込み、一人当り0・93ユーロ(総額57万ユーロ)」というもので、そのどれも、現状の倍近い年額になっている。
 そして、市がこれらの案を検討せず、市自らの計画を提示するつもりならば、「現在の条件でサービス業者を公募し、より安くサービスを約束する業者を見つけられるかどうか試すべきだ」と述べている。

20万ユーロ以上の寄付金が集った
 この施設のホームページや、新聞記事によって、窮状が周知された結果、「20万ユーロ以上もの寄付金を集めることができました。市民の連帯に感謝します。また、およそ二十人の新しいメンバーも獲得できました」と、運営を担当する愛護団体の代表者シュミット=シュラウベ氏はお礼を述べている。

[訳文要約ここまで]

民間保護施設に公金が入れられている

 シュツットガルト市ポトナングにあるこの施設は、設立者の意志に基づき、民間の善意で運営することを理想としていたに違いありません。社会情勢の変化から寄付が集らなくなり、二十年ほど前から公金が入れられるようになったのでしょうか。
 その補助金をもってしても経費の不足は埋められず、契約解消の挙に出た。新しい契約案を提示した。その内容は、年額をほぼ二倍にするというものです。
 今仮に、補助金20万ユーロ(約二七四〇万円)だけで収容動物六百頭を一年間ケアするとなると、一頭当り一日125円となります。
 保護施設にはふつうペット関連大手メーカーからの物品寄贈があるものですが、それがないと仮定して、それからわんにゃんを動物さんの平均的大きさとして、ひとり一ヶ月三八〇〇円で食費・医療・トイレシーツその他をまかなえるでしょうか。到底無理です。

支援を求める同団体のチラシ

 さらに施設の場合、これ以外に施設管理費(光熱費やケージ代や建物補修費その他)も必要、何より常勤スタッフや獣医師も完全無給という訳にはいきません。このように数え上げてみると、寄付以外に補助金が入るとしても、この額では明らかに不足するであろうと推測できます。
 ここ数年、施設側は「運営には年間180万ユーロが必要」と述べつつ、施設の代表者シュラウベ、マネージャーのヴュン両女史がメディアで終生飼育を訴え続けています。遺棄される状況への悲鳴と聞えます。
 ひどい遺棄は依然として多発しています。
 昨年は二月の寒空にガビガビの被毛に重度の栄養失調シーズー一頭/六月初旬の夜間にはキャリー八個(仔猫17、成猫4、衰弱していた仔猫2は医療ケアの甲斐なく他界)/市民の通報を受けて骨折した犬を保護・治療した/電車内に段ボールに入れて置去りにされたねずみを保護した/等々が報じられています。
 これら不届き者がこの施設の財政を圧迫しているのは歴然たる事実と言ってよいでしょう。
 財政ピンチを宣言した後、同施設は市民有志の協力もあり、毎年恒例の夏祭りを開催できました。地元宝石店がチャリティーバーゲンで協力し、市長の施設視察もあり、根本的解決に至るかどうかは疑問ですが、市議会による打開策検討等も始まっています。
 動物たちと施設スタッフに幸が訪れることを願わずにはいられません。

 次回は犬に優しいといわれるベルリンの不良飼い主、それに抗する市民と行政の取組みについて報告します。キーワードは「一日50トン」「四万頭」「未登録(=脱税)」です。