実家の飯寿司(いずし)(2003.1.24記)
実家の飯寿司 北海道の実家から届いた箱を開けると、少しずつ袋に包んだ「飯寿司」が入っていた。笹の葉の澄んだ香とほのかな甘さが匂いたった。
 「しばれる」。きりきりと締めつけるような寒さを言うこの言葉が本物になる11月下旬、母が漬ける。
 大根、梅の花に切ったにんじん、大胆に切った鮭。頭の軟骨も丁寧にこそげとって入れる。千切りにしたしょうがや柚子の皮も加え、麹と飯と一緒に漬け込む。5度にもならない昼夜の中で、静かに静かに、この漬物は醸されていく。一ヶ月以上、重石をしっかりするとやがて水が上がる。小さいころ、食べる直前、父が桶をひっくりかえして、この水を捨てると、「あっ、もうすぐ食べられる」とどきどきした。我が家では、決まってお正月に、飯寿司を食べてきた。
 ほうばると、口いっぱいに美味さが広がる、これをどのように言ったらいいものか。圧倒的に旨みが強い。アミノ酸も乳酸も渾然一体となって味蕾を刺激する。鮭が何十倍にも美味くなっている。おそらくは鮭から旨みが染み出し、野菜と麹と飯と相まって醗酵した結果だ。飯は上品なクリームチーズのよう、米粒の形はすでに淡く、ただひたすらに甘く、ほのかな酸味があとをひく。この甘酸っぱさ、どんなにシャリ作りが上手なお寿司屋さんでも、叶わないのではないか。人為では成し得ない、甘味と酸味のバランスである。
 あれだけ厚く切ってあった野菜は、重石のせいで紙のように薄くなっている。大根は、透明なあめ色をたたえ、かみしめるとじわじわと、美味しさが染み出す。そして、きりりっとしたしょうがの辛みが、柚子の香が。うまい!あああーうまい!ありがとう北海道、ありがとう父、母。


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