ジャックのモンブランJacques(ジャック)のモンブラン」(2001.11.7記)
 モンブランは嫌いだった。あの黄色い蕎麦のようなのがかかった小山状のケーキ。昔食べたときの、あの黄色い蕎麦のようなものが決定的に不味かった、べたべた甘くて、以来、あの黄色い蕎麦のようなものがかかったモンブランが嫌いだった。
 今日、泊まり明け(会社に泊まった翌日)の夕方、ささやかな幸せを求めて美味いもの仲間お奨めのJacquesに行った。女の子ばかりの店、恥ずかしさ丸出しのまま、モンブランと梨のタルトを買った。それから自宅まで、誰かがぶつかってモンブランがぐちゃぐちゃになったらどうしよう!と、ものすごく心配しながら帰った。
 家で箱を開けてみると「ああ、壊れていない」。きれいな皿とフォークを用意して早速モンブランを食べた。頂上からすっとフォークでさして、一塊をあんぐりを開けた口へ。ふわーー、口の奥のほうに栗の旨みが広がる、しっかり存在感のある栗、栗。そして舌先で音も無く溶けていく生クリーム、乳の新鮮さ、純粋さが溢れんばかり。細かな気泡をたっぷり含んだ土台はおく歯で、さくさくさくと小気味いい音をたてている。なんて計算し尽くされたクリームと土台のバランス。栗、生クリーム、土台のそれぞれが口の中のそれぞれの場所で、余すところ無く美味しさを発し合う、美しいメロディーとなって響き合う。幸せだよ。
 Jacquesのモンブラン、モンブランと言うケーキの美味さを知った。きめ細かくあわ立てたメレンゲの儚いくらい軽い土台、ほんの少しの生クリーム、その上に分厚く重ねた栗のクリーム、それぞれの占める位置がこんなにも快い音楽を作るということを知った。
 それから、それから、梨のタルトも凄い。どんなすばらしいケーキもどこか抜けているところがあるものだがここは凄い。一般的には湿っぽいはずのパイ部分からは香ばしいバターの香が立ち、梨と梨の間の部分はアーモンドパウダーが軽く効いたプディングのような味、さりげなく美味い。もちろん梨はさっぱりとした酸味をたたえ、アプリコットジャムは甘すぎず太陽の滋味いっぱい。最高!

大塚シェフへのインタビューを元に書いた文章(2003.10.28記、暫定版) 
 福岡市・赤坂にあるフランス菓子店「Jacques(ジャック)」のモンブランは、必ず注文を受けてから作る。クリームの土台となるメレンゲのサクサクとした食感を失いたくないからだ。
 焼きたてを互いにぶつければ甲高い音がするほどのメレンゲ。大塚良成シェフは「焼きが個性の出しどころ。よく火を入れ中の砂糖をカラメル化することでコクと香りに変えていく」とこだわる。
 砂糖の粉雪をかぶった、その頂にかぶりついてみた。山の滋味いっぱいのクリの香り、うま味が広がる。舌先で音も無く溶けていく生クリームは乳の新鮮さがあふれんばかり。メレンゲは、奥歯のほうで小気味いい音をたてた。
 「初めにクリそのものを感じて、その後を生クリームのソフトな食感で包んで…」。大塚シェフはクリ、生クリーム、メレンゲが口の中のそれぞれの場所で、おいしさを発揮するよう計算し尽くしている。
 「求めているのは香りと食感。良い材料で新鮮な物じゃないといけない」。クリはヨーロッパ産のシャテーニュ種、生クリームは脂肪分の低い宮崎県日向産を使う。
 モンブランは「絞り出したクリ」という意味のトーシュ・ド・マロンが本名。「構成が単純なだけにすごく深い」のだという。
 「おいしいものは手間暇掛けないと。ものを作る原点を忘れたくない」。
   

これまでの「美味しかった記」

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