待望の「おせち」(2003.1.7記)
待望のおせち 寒い寒い歳末に、暖房を一切とめて、丁寧に丁寧におせちを作ってきたTさん。でも、今年が最後。こんなにまで苦労するおせちは、もう作れないからだそうだ。お重に向かって正座して食べました。この味は絶対、記憶にとどめておかないと!
 「一の重」
竹の子の土佐煮
 若竹の香。ぶりぶりっとした歯ごたえ、かみしめるごとに、じゅわっと含ませておいただしが吹き出す。なんだか、この一切れで全身が満足感に浸ってゆきます。
貝柱の幽庵焼きキンカン やわらかく煮たキンカンは、もう中が液体のよう。ほろ苦い甘さとかんきつ類独特の香が幽庵焼きとよく交わりました。
紅白かまぼこ 余計な甘味や化学調味料の味がしない。ぷりぷり、ぷるるんの歯ごたえでした。
結び昆布 本当にわずかな、わずかな味付け。さくさくとした歯ごたえ、じんわりと口に響く味わいは、ただ気持ちいいだけです。
煮海老 とにかく美しい、火の通った車えびの姿。しましまに紅の色がさしている。
信田煮 揚げの中に、にんじん、しいたけ、魚のすり身をぎっしり詰めて、ふんわり軟らかく煮含めてある。中につめられているのが、魚のすり身とはとても思えないほど、やわらかな、ほろほろと口の中で溶けていった。
 「二の重」
黒豆 つややかな色、むっちりむっちりの歯ごたえ。しっとりとした味、ゆっくりゆっくりと伝わってくる味。すぐに噛んでしまってはいけない。ゆっくりゆっくりと奥歯でかみしめる。どんなに美味いマロングラッセもこれには叶わない。人生最高の黒豆だ。
錦糸玉子とごぼうの酢の物 しゃきしゃきとした歯ごたえ、味の間々から胡麻の香り。ごぼうの一切れを噛むだけで、うーん、唸ってしまうほどの味わいが波のようにやってくる。
からし蓮根 初めて食べた、これほど美味い蓮根。しっかりと旨みが含ませてある。ハリハリ、そしてムッチリと量感いっぱい。穴ぽこには辛さだけでなく、香りも清冽な芥子。それがぎっしりと詰まっている。鼻にツーンと来た。衣までが揚げたての香りを漂わせ、ひたすらに美味い。
数の子 ぷりっぷりっ。あっ、どこからともなく、だしのうま味がした。あっ、ちりちりと焦がすように唐辛子の辛さがした。これにはとびきり酒が合う。島根県松江の銘酒「李白」を開けた、そしてそっと味わった。すこし噛んではすこし飲み。すこし噛んではすこし飲み。いいねえ。
田作り 芳ばしい芳ばしい。当たり前だけど、でも、こんなに胡麻が芳ばしい。抑えた甘味、そのままでさえ美味いいりこが、こんなに味をまとって…。
焼き豚 ベーコンのような叉焼(チャーシュウ)のような、甜い味。肉と肉の間にある、白い脂肪が美味い。冷たいままが美味い。
チーズ入り肉巻き揚げ 一枚入れた紫蘇の葉が効いている。薄い豚肉を何重にも巻いている、そのひと巻き、ひと巻きがこんなにもうまい。思わず、ふふっと笑いがこみ上げる。もう、何がどう、うまいんだか、説明できません。うまいっ!

 愛を感じました。ひとつの胡麻にさえ、だしにさえ、心がこもっています。「丹精込めた」その言葉どおりでした。舌で感じる味を超えて、私を幸せにしてくれました。ありがとうございます、Tさん。



これまでの「美味しかった記」

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ピラフのおいしい店“ダンケ” エツ 白魚・珈琲美美・ジャミンカー たいめいけん
枉駕亭の一夜 洋々閣のあら


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