Rock Listner's Guide To Jazz Music


Julian Lage


Free Flying

曲:★★★★
演奏:★★★★
ジャズ入門度:★★
評価:★★★★
[Recording Date]
2013/Feb

[1] Song Without Words #4: Duet
[2] Down Home
[3] Heartland
[4] Free Flying
[5] Beatrice
[6] Song Without Words #3: Tango
[7] Stealthiness
[8] Gravity's Pull
[9] Monk's Dream
Julian Lage (g)
Fred Hersch (p)
フレッド・ハーシュのピアノとの共同名義によるデュオ。サム・リヴァース作の[5]、モンク作の[9]を除きハーシュのオリジナル曲が占める。ピアノとギターのデュオとなると、ビル・エヴァンスとジム・ホールの「Undercurrent」が思い浮かぶ。同じ楽器の組み合わせ、しかもたった2種類の楽器となると出てくるサウンドは似たようなものにはなるものの、演奏者の資質が異なるため、紡ぎ出される音楽はまった異質なものになっている。更にこちらはライヴ演奏ということもあってその場限りの即興性と遊び心に満ちていて、しかも演奏のクオリティと両者の絡み方はこちらの方がより緻密で一体化した表現になっている。もちろんエヴァンス&ホールには繊細な表現を主軸とした2人の絡みが魅力であり、どちらが上ということではない。どちらもジャズのフォーマットで、泥臭さのない上質で心地よい響きに包まれ、2人が有機的に絡むという共通性がありなら、表現される音楽の質が異なっているところが音楽の面白さであり、ピアノとギターのデュオによる名盤がもう1枚ここにもあるということに他ならない。ジュリアン・ラージのフレージングは後のアルバムで聴ける、サスティーンや歪を時に織り交ぜたも音使いよりも、オーソドックスなジャズ・ギターのシンプルな音色寄りで、ピアノとの対等なバランスを考慮した演奏に徹している。(2024年12月9日)

Arcnight

曲:★★★★
演奏:★★★★☆
ジャズ入門度:★★★
評価:★★★★☆
[Recording Date]
2016

[1] Fortune Teller
[2] Persian Rug    Charlie Daniels
   /Gus Kahn
[3] Nocturne   Spike Hughes
[4] Supera
[5] Stop Go Start
[6] Activate
[7] Presley
[8] Prospero
[9] I'll Be Seeing You   Sammy Fain
   /Irving Kahal
[10] Harlem B
Julian Lage (g)
Scott Colley (b)
Kenny Wollesen (ds, vib)
曲そもそも、ジャズの世界でギターは脇役的存在。エレクトリック・ギターといえばハードロック系のゴリゴリに歪んだ音から入った僕のような人間には、ジャズ・ギターは音色もフレージングも地味で、一体どこに魅力があるんだろうと思えてしまう。しかし、長く聴き続けきたこと、歳を重ねてきたことで、この地味な音色の味わいが理解できるようになり、ケニー・バレルやグラント・グリーンの魅力が少しずつわかるようになってきた。それでもやはり、ギターが脇役的存在であるという点に変わりはなく、このアルバムのような最低限のトリオ編成となるとその地味さが一層強調される。ジャズ・ギターで主役級の活躍をしているパット・メセニーは、ギタリストとしての力量はもちろんあるけれど、どちらかというとサウンド作り、音楽の創造と合わせて評価されてのものであり、シンプルにギター1本での音楽表現という意味ではこのジュリアン・ラージ(日本のレコード会社はレイジと表記)の方が上を行くと個人的には思っている。曲(7曲がラージのオリジナル)は、いかにも伝統的なジャズというノーブルな佇まいというよりは、ポップで親しみやすい曲調を中心に、抽象的なものから、ゆったりした6拍子のブルース、スリリングでアグレッシヴ(ラリー・コリエルかと思わせる瞬間も)なものまでをカバー。もちろん、ハードロックのように歪ませた音色ではなく、音色が地味であることは従来のジャズ・ギターと違いはない。しかし、時に歪ませて慎ましい野性味を聴かせるかと思えば、クリアなトーンを響かせ、エレキ・ギターならではのサスティーンを効かせたフレーズを折り込み、ギター1本でも単調にならない豊かな音色をもって高い完成度で表現している様はジャズ・ギターの歴史を振り返っても肩を並べる人はそうはいないと思わせる。長くても4分台というコンパクトな曲(トータルでも37分弱)は、自身のギターの魅力を引き出すために導き出された結果であるように思う。ドラムとベースの音像がボヤッとしている録音状態以外に非の打ち所がない。(2019年1月5日)

Modern Lore

曲:★★★☆
演奏:★★★★☆
ジャズ入門度:★★★★★
評価:★★★★
[Release Date]
2016

[1] The Ramble
[2] Atlantic Limited
[3] General Thunder
[4] Roger the Dodger
[5] Wordsmith
[6] Splendor Riot
[7] Revelry
[8] Look Book
[9] Whatever You Say, Henry
[10] Earth Science
[11] Pantheon
Julian Lage (g)
Jesse Harris (maracas[2],
synth[3][5][6], acoustic guitar
[9])
Tyler Chester
   (key [2][3][5]-[7][11])
Scott Colley (b)
Kenny Wollesen (ds, vib)
曲によって加わる参加メンバーはいるものの補助的で控えめなサポートに留まり、音楽の方向性はトリオ編成の前作「Arcnight」から変わっていない。ジュリアン・ラージのアルバムはどこをどう聴いてもギターが絶対的に音楽の中心になっていて、本作でもギターの音色、響き、フレーズの多彩さにおいて、歴史上のジャズ・ギターの演奏手法や表現を満遍なく内包しつつ、他のギタリストの追随を許さない表現のバリエーションが光る。牧歌的な曲からスリリングな曲まで、その表現技術で消化し、単音でメロディーを弾くにとどまらず、音楽全体のサウンド形成にまで昇華させている。今回もドラムはもやっとした音像で録られているが、これはギターの音色とのバランスを考慮したものなのかもしれない。全曲ジュリアンのオリジナル。(2024年12月11日)

Love Hurts

曲:★★★★
演奏:★★★★★
ジャズ入門度:★★★
評価:★★★★
[Recording Date]
2018/9/22,23

[1] In Heaven
[2] Tomorrow Is the Question
[3] The Windup
[4] Love Hurts
[5] In Circles
[6] Encore (A)
[7] Lullaby
[8] Trudgin'
[9] I'm Getting Sentimental Over You
[10] Crying Roy
Julian Lage (g)
Jorge Roeder (b)
David King (ds)
自作中心であることが多いジュリアン・ラージのリーダー・アルバムにあって本作の自作曲は[5][7]のみで、それ以外は他のアーティスト、作曲家の曲で構成されている。ピーター・アイヴァースの[1]は、他のジュリアンのアルバムではあまり聴けないブルージーな歪んだ音色で、しかし一般的なブルースとは異なる独自のスタイルでフレーズが紡がれていて流石と思わせる。オーネット・コールマンの[2]はオーソドックスなジャズ・ギターのスタイルでこなし、ポップなキース・ジャレットの[3]の演奏もフレージングは多彩。有名曲の[4]以降も軽妙に料理し、さまざまな曲をベースに淡々としたトーンから、60年代後半によく見られたジャズ・ロック的なトーンまでバラエティに富んでいてラージのギターの魅力が溢れ出ている。自作曲中心のこれまでのリーダー・アルバムではベースとドラムが抑え気味であったのと比較するとリズム・セクションも自由度が高くなっており、全体的にリラックスした解放感ある演奏でサポート。自作曲中心のアルバムは自身の音楽の探求を聴き手に届けているのに対して、既成曲に力みなく取り組む本作は聴きやすさと聴き応えが両立したジャズ・ギター・トリオのお手本とも言える快作となっている。(2024年12月11日)

Squint

曲:★★★★
演奏:★★★★★
ジャズ入門度:★★★
評価:★★★★☆
[Recording Date]
2020/8/15-19

[1] Etude
[2] Boo's Blues
[3] Squint
[4] Saint Rose
[5] Emily
[6] Familiar Flower
[7] Day and Age
[8] Quiet Like A Fuse
[9] Short Form
[10] Twilight Surfe
[11] Call of the Canyon
Julian Lage (g)
Jorge Roeder (b)
David King (ds)
シンプルでありながら表情豊かなフレーズとトーンを駆使したソロ演奏の[1]にまずは聴き惚れる。以降はトリオ演奏になり、ケニー・バレルが弾いてもおかしくない軽快なブルースの[2]、ロック系ブルース/ロカビリー的なフレージングも顔を覗かせるスピーディな[3]、ポピュラー音楽の8ビートで進むポップな[4]、ゆったりリラックスしたバラードの[5]、ビジーなドラミングに乗せて前進気勢の[6]、のんびりカントリームード漂う[7]、シンプルで抑えたリズムの上で繊細なトーンでフレーズを紡ぐ[8]、ギター中心でリズム隊が補助しているかのような[9]、軽快なデルタブルース風から明るく展開してダイナミックに弾く[10]、しっとりと繊細な音使いの[11]、と幅広く聴かせる。全て自作曲による本作は、ギター表現力が更に増して、このシンプルな楽器、編成においてここまで幅広い表現ができるんだという風格すら漂いはじめている。前作と同じリズム・セクションの、出るところ、抑えるところのバランスも良く、ジャズ・ギター・トリオの面白さ、魅力が満載。(2024年12月11日)

View With A Room

曲:★★★★
演奏:★★★★★
ジャズ入門度:★★★
評価:★★★★☆
[Released Date]
2023

[1] Tributary
[2] Word for Word
[3] Auditorium
[4] Heart Is a Drum
[5] Echo
[6] Chavez
[7] Temple Steps
[8] Castle Park
[9] Let Every Room Sing
[10] Fairbanks
Julian Lage (g)
Bill Frisell (g except[2][4][8])
Jorge Roeder (b)
David King (ds)
10曲中7曲にビル・フリーゼルが参加、ジャズでは珍しいツインギターのカルテット編成。もちろんジュリアンの音楽は2人がヒートアップしてバトルするようなものは目指していない。あくまでもジュリアンのギターを主体としており、ベテランのフリーゼル(主に右チャンネル)が彩を添える形で演奏は進む。そもそも、ジュリアンもフリーゼルも、単音でメロディをなぞったり指を忙しく動かしたりするタイプではなく、単音をベースにしつつも有機的に複数の音が混じり合って独特の響きを得ることでギターを表現するスタイルという点で良く似ている。そんな2人のギターサウンドが溶け合って響きを作り上げ、そこにジュリアンのどこか開放的なメロディとフレージングが乗る。派手な音色を持ち味とするわけではないギタリストが2人いても地味は地味。それでも、2人で織りなす穏やかなサウンドは豊かな響きに満ちている。(2006年11月15日)

The Layers

曲:★★★★
演奏:★★★★☆
ジャズ入門度:★
評価:★★★
[Released Date]
2023

[1] Everything Helps
[2] Double Southpaw
[3] Missing Voice
[4] This World
[5] Mantra
[6] The Layers (bonus track)
Julian Lage (g)
Bill Frisell (g except[2])
Jorge Roeder (b except[4])
David King (ds except[2][4])
前作「View With A Room」と同じメンバーによる、恐らく同じセッションからのもの。ボーナス・トラックを含めてトータルで24分という、昔で言うミニ・アルバムのような形でのリリースになったのは、前作の評判が良かったからではないかと考えられる。一方で、スペイシーな音響にギターが漂う[3]、アコギによる[2][4][6]、抽象的なジュリアンのギターにベースとドラムがしっとりと追随する[5]は、前作にはなかったタイプの演奏で、「View With A Room」が散漫にならないように注意深く除外されたものを番外編的にリリースしたとも考えられる。いずれにしても、余りもの的なクオリティではない上質な演奏をここでも聴くことができる。それでも1枚のアルバムとして聴くにはさすがにちょっと物足りない。(2024年12月11日)

Speak To Me

曲:★★★★★
演奏:★★★★★
ジャズ入門度:★★★★
評価:★★★★★
[Release Date]
2024

[1] Hymnal
[2] Northern Shuffle
[3] Omission
[4] Serenade
[5] Myself Around You
[6] South Mountain
[7] Speak To Me
[8] Two And One
[9] Vanishing Points
[10] Tiburon
[11] As It Were
[12] 76
[13] Nothing Happens Here
Julian Lage (g)
Levon Henry (ts [2][7][12], as [13],cl [6], ac l9])
Kris Davis
(p [2][6][9][12][13])
Patrick Warren
(key [1][2][6]-[13],
strings(key)[1][6][9][10],
p [3][4][11], elp [12][13])
Jorge Roeder (b, elb, vib [1])
Dave King (ds)  
コンスタントにアルバムをリリースしているジュリアン・ラージ、今回はレギュラー・トリオにサックスとキーボードを加えた編成。よってバンドのサウンドの幅は広がっており、サポートメンバーからは前衛的な表現まで飛び出す。素朴な風情のアコギ、そして歪とクリアなトーン、チョーキングを絶妙に使い分けて時に繊細に、時にワイルドにフレーズを紡ぐエレキ・ギターのサウンドがそもそも多彩であり、そんなジュリアンのギターが中心であるという普遍性に揺るぎはない。カントリーやR&Bを内包したアメリカン・サウンドにもブレがなく、完全に自分のスタイルが確立したミュージシャンのみが持ちうる確信に満ちている。過去のジャズ・ギターの枠をはみ出ていることは明白でありつつ、しかし「そっちに行っちゃったか」とか「何がやりたいんだろう」という思いを聴き手に一切抱かせないところは既に巨匠の域に到達しているとさえ思う。(2024年12月10日)